WEST.『A.H.O. -Audio Hang Out-』で挑んだ7人が制作に携わるアルバム初の試み 熱さと愛が宿る“ライブ力”の真髄も

WEST.『A.H.O.』で体現する音楽への探究心

 デビュー10周年のメモリアルイヤーをファンと共に全力で駆け抜けたWEST.。彼らにとってデビュー11年目にして11枚目のフルアルバム『A.H.O. -Audio Hang Out-』が、3月12日にリリースされた。これまでWEST.は、ハイペース、かつコンスタントにアルバムの制作を重ねる中で、グループの新しい表現の可能性を懸命に追求し続けてきたが、今作はこれまで以上に、音楽的な好奇心や探究心、さらに言えば、遊び心を遺憾無く爆発させた作品となっている。

 アルバムタイトルには、「AHOになって“Audio Hang Out(音で遊ぶ)”する」という想いが込められている。自分たちの表現の幅を広げていく、または、表現の深さを突き詰めていく--この2つのベクトル、言うなれば、2つの遊び方を内包しており、アイドルとしての矜持を大切にしながら、どこまで音楽的に大胆に遊ぶことができるか、というテーマに果敢に挑戦した今作は、WEST.のファンはもちろん、さらにその先の様々なジャンルの音楽リスナーの心も掴み得る大きなポテンシャルを秘めた作品であると思う。

WEST. - A.H.O.[Official Music Video]

 今作に貫かれた“Audio Hang Out(音で遊ぶ)”という精神を最も色濃く体現するのが、表題曲「A.H.O.」である。The Venturesの「ダイアモンド・ヘッド」や「パイプライン」を彷彿とさせるエレキギターのテケテケ奏法がインパクトを残したかと思えば、転調を経た2番では打ち込み主体のサウンドに変化。この曲はまさに、1曲の中で多彩なジャンルを不敵に往来していくカオティックなミクスチャーナンバーで、ラストの〈AHOに生きようぜ〉という言葉には、上述した“Audio Hang Out”の精神が深く滲んでいる。一方「shhhhhhh!!」は、洗練さと麗しさを追求したシックなダンスナンバーで、「A.H.O.」とのコントラストの深さに驚かされる。特定のジャンルや表現手法に縛られることなく様々な音楽性に挑戦しやすい点は、アイドルグループだからこその強みであるが、これほどまでの幅の広さを1枚のアルバムの中で表現する作品は見事と言えるだろう。

WEST. - shhhhhhh!![Official Music Video(YouTube Ver.)]

 WEST.のディスコグラフィーを振り返ると、これまで彼らは、柳沢亮太(SUPER BEAVER)、あいみょん、山口隆(サンボマスター)、こやまたくや(ヤバイTシャツ屋さん)をはじめとした楽曲提供により、シーンやジャンルを果敢に越えてきた事実が改めて浮き彫りになる。そして今作にも、柳沢との四度目のタッグが実現した「ハート」や、meiyoから2曲目の提供曲となった「まぁいっか!」 、また、キヨサク(MONGOL800)が今回のアルバムのために書き下ろしたサマーチューン「SOUTH WEST BEACH!!」など、名だたるミュージシャンたちからの提供曲が収められている。今作における各曲を通した様々なアーティストとの繋がり合いは、WEST.のメンバー自身の好奇心や探究心を大きく刺激したはず。何よりも特筆すべきは、一人ひとりのメンバーが制作に携わった楽曲が1曲ずつ収録されていることで、こうした試みは11枚目のアルバムにして“初”となった。先ほど、今作が誇る幅の広さについて触れたが、それぞれのメンバーが制作を手掛けた計7曲は、今作においてWEST.の表現のバラエティの豊かさ、また、深さを司る重要な役割を果たしていると感じる。

WEST. -「A.H.O. -Audio Hang Out-」7 Songs 〈Lyric Video〉

 これまでもグループの複数の楽曲の作詞曲を務めてきた重岡大毅は、今作のために「それいけベストフレンド!」を書き下ろした。この曲は、〈旅立ちの日〉の先に晴れやかな未来が待つことを信じ抜く、快活でストレートなロックナンバー。今回、彼はブルースハープの演奏も自身で担当した。ギターソロと熱く絡み合うブルースハープの調べは、言葉では表し切れないエモーションの昂りをありのままダイレクトに表現する大切な役割を担っている。また、重岡はこの曲の制作について、「曲を書くという行為は、僕にとって自分に対する問いです。知らない視点や、思いや願いを探していつも旅をしています。」(※1)と振り返っており、自身の創作論が今まで以上に確立されていることが伝わってくる。

 かつて沖縄への深い想いを表したソロ曲「かなさんどー」を作詞曲した桐山照史が今回制作に参加した楽曲が、沖縄の言葉で“太陽”を意味する言葉をタイトルとして冠した「ティダ」である。WEST.が誇る大きな強みの1つである“陽のエネルギー”を、琉球音楽の力を推進力にして際限なく放つ同曲は、多様な楽曲が収録された今作の中でも一際大きな存在感を放っている。こうした楽曲がアルバムの一つのピースとして自然な流れの中に位置付けられていることに、今のWEST.の表現力の豊かさや、あらゆる音楽性を内包する包容力の大きさを感じる。

 妖艶さ、毒々しさ、そしてポップさが共存する、奥深きアンビバレンスをたたえた「アップルパイ」は、中間淳太が制作に参加した楽曲。もし、白雪姫が魔女にそそのかされて、純粋な少女からあざとワルい大人の女性へと成長したら? というifのストーリーが描かれる1曲で、誰もがよく知る物語のアナザーストーリーが、絵本ではなく音楽としてスリリングに展開していく同曲は、まさに今作のテーマである“遊び心”の結晶だ。作詞を担当したのは、近年のNEWSの数々の楽曲制作に携わっている篠原とまと。WEST.とは、『FATE』のカップリング曲「Closer」に次ぐ二度目のタッグとなった。

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