岩田剛典、「Phone Number」は「削ぎ落とされた中の最後の一滴」 多彩な活動を続けるための美学

EXILE / 三代目 J SOUL BROTHERS(以下、三代目JSB)のパフォーマーであり、俳優、ソロアーティストとして多岐にわたる活動を続ける岩田剛典が、2025年2月12日、Virgin Musicから第1弾シングル「Phone Number」をリリースした。大人の色気をコンセプトに、新たなジャンルに挑戦したラブソングについて「削ぎ落とされた中の最後の一滴」と岩田は語る。三代目JSBにとって15周年を迎えるアニバーサリーでもある2025年、固有のスタイルで変わらず突き進む岩田剛典に思いを聞いた(加賀谷健)。
メジャーレーベルへの移籍は「岩田剛典を料理していただいた感覚がある」

――2021年9月15日にリリースされたソロデビューシングル「korekara」のアウトロは、左右のチャンネルに音が残響しながらフェードアウトします。未だその余韻を感じるかのように3年以上経ち、新たにタッグを組むVirgin Musicから新たに第1弾シングル「Phone Number」をリリースした心境から教えてください。
岩田剛典(以下、岩田):「Phone Number」はソロとして初の本格的な歌物シングルです。歌謡曲感が強く、カラオケで思わず歌いたくなるメジャー要素が魅力でもあります。コンセプトは大人の色気を追求したラブソングです。リリックのワードにも歌謡曲の懐かしさが感じられます。ソウル・ファンクなテイストで情熱的に歌う世界観は、遠からずアプローチしてきた部分でもありますが、僕のソロ活動にとって新鮮なジャンルです。アルバム作品に入っていてもおかしくない楽曲ですが、どんな反響があるのか、初解禁までドキドキしていました。
――今回のソウル・ファンク感もその延長、ざっくり言えば、ブラックミュージックの範囲ですね。とはいえ、これまでのソロ楽曲制作と何か変化はありますか?
岩田:メジャーレーベルに移籍してユニバーサル ミュージックさんとタッグを組むことが決まり環境が変わりました。これまでのソロ活動でリリースさせていただいた2枚のアルバムは、僕が好きな音楽を押し出す側面が強かったです。それを踏まえながらも、第三者から客観的に見た僕という人間、音楽だけでなく芸能という要素も全て加味して今僕が歌うとしたら、何が一番ハマるのか、何が一番伸びるのか。レーベルの皆さんからさまざまなアイデアと知見をいただきました。その意味で今回は、岩田剛典を料理していただいた感覚があります。
テクニカルな部分についてお話しすると、僕は基本的にローレンジで歌ってきました。自分の声の成分としてそのボーカルレンジが好きだからこそ、逆に違う要素に挑戦して勝負する必要性を感じました。実際、さらに高いレンジや綺麗なファルセットの成分を売りにするというアイデアをいただけたことがものすごく嬉しかったです。「なるほど、その戦略でいきましょう!」とテンションが上がったのを覚えています。去年の下半期からレコーディングを重ねながら、3〜4カ月くらい期間をかけて制作しました。デモ曲の中から「Phone Number」に決まるまでの経緯を考えると、このシングルは言わば、削ぎ落とされた中の最後の一滴です。
「何回歌ってもピッチが完璧」だったフレーズ
――「Phone Number」の歌い出し〈Tu lu tu tu tu tu lu lu 〉が印象的です。2ndアルバム『ARTLESS』に収録されている「Time After Time」でも〈Talalata tatatala〉という似たテンションのフレーズがありました。
岩田:そうですね。ある種、中毒性のあるフレーズです。
――言葉自体に意味はない、響きだけのフレーズをレコーディングではどのように吹き込んでいるんですか?
岩田:実は僕も最初はフレーズ自体に意味はないと思いながらレコーディングしていました。ですがこの間、SNSを見ていると思わず「あぁ!」となる発見がありました。トラックタイトルが「Phone Number」ですね。電話を掛ける時のコール音がトゥルルルル……。歌い出しのフレーズとタイトルが偶然リンクしました。声入りで印象的なイントロの意外性として、他に〈トゥルリロ〉などのフレーズ案もありました。それだとコール音の意味にはなりませんでしたね。後から意味に気づいたとはいえ、トラックタイトルを決定付けるおしゃれな仕掛けになっていると思います。

――他のフレーズにも工夫が見られます。〈乱れたままのシーツも 残したままのキスも〉のフレーズ終わりに短く太いビブラートがあります。こぶしに近いものだと思いますが、これはソウルファンク感を強調するフレージングや歌い方を意識したものですか?
岩田:ご指摘いただいたフレーズは一番うまく歌えたところです。『CDTV ライブ! ライブ!』(TBS系)テレビ初歌唱でもそこは絶対に外さない(笑)。厚みのある高音をキープするパートですが、歌いやすく自分の声にあっているのだと思います。レコーディング中のこともよく覚えています。何回歌ってもピッチが完璧でしたからね。
――のびやかなビブラートだけでなく、後半の〈夜よ、明けないでくれ〉がだいたい5.5拍くらい伸ばしています。ここまでのロングトーンはこれまでの楽曲にはなかった歌唱の変化ですね。
岩田:フレーズ終わりの処理の仕方がこれまでと違います。声を張ったまま伸ばしてビブラートをかけなければならないフレーズです。つまり、ブレスが絞れない状態で引っ張る感覚です。今までは逆にブレスが多めでした。自分の得意な範囲でコントロールする歌い方でしたが、今回のレコーディングでは腹筋を特に使いました。
――歌唱が変化した「Phone Number」を含めた3曲でのシングルリリースですが、『ARTLESS』ツアー中にサプライズ披露した「Get Down」、こちらも曲調が異なる「MVP」を同時収録した狙いを教えてください。
岩田:「MVP」は「ペプシ<ペプシ生>BIG ZERO LEMON」のタイアップ曲としてデジタルリリースさせてもらいました。僕のライブで盛り上がる鉄板曲です。「Get Down」はアリーナツアー『Takanori Iwata LIVE TOUR 2024“ARTLESS”FINAL in 武道館』思い出の曲。2Daysで延べ2万人の観客しか音源を聴いたことがなければ、パフォーマンスを見たこともありません。初見の方からすると同じアーティストの声の出し方ではないので「Phone Number」からのジャンルの違いに戸惑いますよね。その意味では2曲ともボーナストラック扱いとして、ファンの皆さんが喜んでくれる曲が待望のパッケージ化というイメージです。今後、アルバムを作ることがあれば、「Get Down」と「MVP」はもしかすると入れないかもしれません(笑)。

――その2曲はあまりに曲のタイプが異なるのでライブのセットリストに組み込むのが大変そうですね。
岩田:そうですね。僕の持ち曲が30曲近く揃い、かつては全曲披露しないと成立しなかったライブも取捨選択できる状態です。歌わない曲、アレンジを変えて披露する曲も今後は出てくると思います。
――ファンミーティングで言うと、CD購入者を対象とした1万人規模の対面イベントを3月に開催します。MATEの皆さんとどんな交流の場にしたいですか?
岩田:ハイタッチやサイン会など盛りだくさんです。誕生日月である3月から逆算してリリース週を決めているくらい今回はイベントを重視しました。短い秒数かもしれないけれど、MATEの皆さんと直接コミュニケーションをとれる貴重な機会です。ただこの規模での開催となると、2023年の『三代目 J SOUL BROTHERS“STARS”MEET & GREET TOUR』以来です。僕一人で大風呂敷を広げたものの、100人くらいしか集まらなかったらどうしよう(笑)。
MVの現場でも「モニターチェックは絶対にしないです」
――MVについても伺います。まずビジュアルとして目を引くのは首に巻いた蛇です。撮影現場で本物を巻いたと聞きましたが……。
岩田:監督の肝煎企画です。あれはCGではないかというご意見もありますが、本当に巻きました。僕、蛇はへっちゃらでした(笑)。
――右耳に手をあてる「Phone Number」ポーズもダンスチャレンジ動画などで盛り上がりそうですね。SNS上での拡散をイメージしましたか?
岩田:振り付けは「Can’t Get Enough」なども担当していただいているKyoさんというダンサーさんにお願いしました。TikTokでのダンスチャレンジを視野に入れた要素も意識して作ってくれました。
――岩田さんは、バストからアップの間くらいの画面サイズでフレーミングされることが多いように感じます。画角、ショットサイズはどれくらい把握していますか?
岩田:例えば、寄りの画面なら、手元を入れるタイミングや位置などをもちろん意識しています。動画、写真に限らず、どのような絵になるかのイメージは、長年の経験上、体感としてあります。「Phone Number」でもフレームのサイズ感をイメージしながらリップしています。

――モニターチェックはしますか?
岩田:モニターチェックは絶対にしないです。今回のMV撮影でも一回もしていないです。俳優の仕事もやらせていただいている手前、映像は監督の作品だと思っているからです。編集段階ではブランディングに合わせてチェックさせてもらうこともありますが、モニターチェックは“やってはダメなこと”くらいに考えています。それによって撮影をストップすることにもなるので、僕はチェックに行きません。
――MVの現場でも徹底しているわけですね。
岩田:どの現場でも「監督がOKでしたら、次行ってください!」が基本姿勢です。時々、監督が不安になって「たまには見てください」と言われるくらいです(笑)。
――ライブでのパフォーマンスではどれくらい演じることを考えますか? 例えば、『三代目 J SOUL BROTHERS LIVE TOUR 2024 “ECHOES OF DUALITY”』(以下、『“ECHOES OF DUALITY”』)で、「R.Y.U.S.E.I.」後、バックモニターに写された水中の映像を背にした岩田さんが背面落ちしました。オフステージへの美しいイリュージョンでした。
岩田:あれは完全に恐怖体験でした。どうにかやっていましたが、毎回失敗してしまうのではないかという不安を感じていました。しかも同じライブで2回も落ちる。間尺を気にするだけでなく、音と光の演出タイミングもあり、緊張感がありました。リハーサルを何度かやりましたが、やはり本番での自分のコンディションがどれくらいかわからない。平常心を保って両手を広げて落ちていきますが、内心、穏やかではありませんでした(笑)。感情をコントロールする意味では演技と共通する部分が多いと思います。