マネスキン、強靭なフィジカルで生み出す“解放と繋がり” 真価を発揮した来日公演レポート
また、“身体表現を通した自己解放”は、マネスキンがビジュアルイメージを重視し、固定概念に縛られない自分らしいファッションを打ち出している点とも繋がってくる。上述したサウンドにせよ、ファッションにせよ、彼らは身体性を通して一人でも多くのマインドと重なり合うことを追求しているし、現に90年代にロックに夢中になったであろう世代から、TikTokカルチャーの中心にいるティーンエイジャーまで、幅広い層を集客できていた点でも、そうした姿勢は大いに受け入れられていると思う。音楽という範疇さえも飛び越えて波及していく“マインドとしてのロック”は彼らの根幹にあり続けるもので、どんなに巨大なバンドへ成長していってもーーいや、巨大なバンドになっていけばいくほど、マネスキンのステイトメントがブレることはないのだと確信できるようなステージでもあった。
そして、その中心で圧倒的なオーラを放つのが、フロントマンのダミアーノ。抜群の声量で放たれる色気溢れるしゃがれ声は、ギターが1本だけのアンサンブルに独特の“歪み”をもたらしていて、楽器の響きを強化するような役割も果たしていて面白い。今回は昨年のサマソニ以上にダミアーノの歌唱力に浸れるシーンが多々あり、例えば、「今日は声の調子が良くないから」という前振りが嘘みたいにリズミカルな歌声を聴かせた「Beggin'」、クールな余韻を残すように締め括った「THE DRIVER」、シャウトに近いサビで大きくエモーションが剥き出しになった「VALENTINE」など、演奏の熱量に全く引けを取らない素晴らしい歌声を響かせた。極めつけは中盤、後方のサブステージで披露されたアコースティックコーナーで、「TRASTEVERE」では囁くような歌唱を、「TIMEZONE」ではファルセットも交えつつ、サビでは惚れ惚れするほどの歌唱力で会場内を魅了(しかも歌い終えた後の「ありがとうございます」の発音までとても綺麗)。ライブならではのマネスキンの新しい可能性も示してみせた。
そんなアコースティックコーナー直後、後半の幕開けを告げたのは、イーサンとヴィクトリアがデッドヒートを繰り広げる2分ほどのセッションパート。まさに“ドラムンベース”を人力で鳴らしているかのようなダンサブルなグルーヴが躍動し、リズム隊最大の見せ場を作り出してみせた。そして、そのまま突入した「I WANNA BE YOUR SLAVE」でこの日のハイライトを刻む。ドラム、ボーカル、ベース、ギターと順々に折り重なっていくスリリングなアンサンブルといい、歌とラップの間を取ったような息継ぎのないダミアーノの畳み掛けるボーカルといい、コール&レスポンスのわかりやすさといい、観客を座らせて一斉にジャンプさせるエンターテインメント性といい、トーマスの運指にダミアーノがピックを当てる仲睦まじいギターソロといい……代表曲というだけあって、マネスキンの全部盛りな演出を堪能することができた。もう、圧倒的である。
4人の演奏の緩急が絶妙に絡み合った「OFF MY FACE」、ステージ上にオーディエンスを上げて狂乱のパーティ状態と化した本編ラストの「KOOL KIDS」など終盤も怒涛のライブが続く。アンコールでは、何重にもオーバーダビングしながらソロを弾くトーマスのギターヒーローぶりが輝き、「THE LONELIEST」では、序盤から上裸になってステージを掌握してきたダミアーノが客席に深々とお辞儀をするなど、彼の素直な人柄も垣間見えた。
そして、最後は本日2度目の「I WANNA BE YOUR SLAVE」。それだけこの曲はマネスキンというバンドを象徴しているのだろう。慣習や規範に縛られるのではなく、一見すると歪んだ二面性やエキセントリックに思える内面性も、全てポジティブなアイデンティティとして肯定していくこの曲は、まさにマネスキンの意志表明そのもの。フィジカル重視で鮮やかな抑揚を生み出していったライブが「I WANNA BE YOUR SLAVE」で締め括られたことで、彼らのやろうとしていることが1本の線で繋がったような気がした。
開演前のSEで流れていたArctic MonkeysやThe Strokesのようなガレージロック性、Red Hot Chili PeppersやLed Zeppelinのような骨太さ、ダンスミュージックやヒップホップも昇華したグルーヴ、そしてグラムロックのような煌びやかさ……と、シンプルな編成のようでいて多くの要素を兼ね備えた4人。そういった数々の“自分らしさ”を武器としてエネルギッシュに解き放ち、リスナーの内なるマインドと共鳴しながらステージを作っていくのがマネスキンなのだと、強く実感できる来日公演となった。この“現象”はまだまだ広がりそうだ。
※1:https://www.wwdjapan.com/articles/1437072
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