C&K、初のバンドセッションに閉じ込めたライブの熱量 歌と向き合う先で拓けた新境地とは
C&Kというユニットには、大きく分けると2つの顔がある。1つはトラックを使うDJスタイル、もう1つは手練れのミュージシャンたちとのセッション的要素も含むバンドスタイルで、基本的にツアーはそれぞれのスタイルに分ける形で行われてきた。12月6日にリリースされたアルバム『CK PEAS』は、これまでバンドスタイルのライブでタッグを組んできたA.K.B. ave.55(Adult Kurimoto Band average 55/以下、AKB55)のメンバーを迎えてレコーディングされ、バンドのグルーヴに呼応する2人の“歌力”や破天荒かつエネルギッシュなライブのエッセンスが混然一体となった、強力な1枚に仕上がっている。ツアーとレコーディングを並行して行う制作スタイルの中で得たものも多かったという2人に、新曲を中心とした楽曲やライブについて語り尽くしてもらった。(古知屋ジュン)
「ツアーでやる内容をそのままアルバムに」(CLIEVY)
――お二人の楽曲解説(※1)によると、このアルバムは3年くらい前から構想されていたとのことですが。
CLIEVY:単純にバンドスタイルでのレコーディングはやったことがなかったというのと、トラックだとどうしても“トラックに合わせた歌い方”になるので、バンドとやることで聴いてくれる人に「こんな顔もあったんだ」みたいに新鮮に受け止めてもらえるかなと思ったんですよね。バンドでやりたいというのはずっと考えていたので、構想に3年かかったわけではなく、実行に移すのに3年かかった感じですね。
――ツアー『JIMOTODES JIMOTOJANAKUTEMO JIMOTODES2023(通称:AKB55ツアー)』をやりながら、合間にレコーディングを進められて。
CLIEVY:当初は曲ができたら少しずつライブでやって、メンバーも一緒に曲を熟成させていって2年くらいかけて準備していくという、大物アーティストっぽい制作スタイルを考えていたんですけど、そんなスパンでのレコーディングはスケジュールの面とか大人の事情もいろいろあって難しいということになって。最後はめちゃくちゃ怒涛のレコーディングになりました(苦笑)。
KEEN:2022年の秋くらいの段階では、2023年のスケジュールは真っ白だったんですよ。ツアーもやらない予定でした。
CLIEVY:でもこれまでは自分たちのツアーがかぶって出たくてもなかなか出られなかったフェスのお誘いを、2023年はたくさんいただいたんですよ。なので2023年はいろんな意味で“種まき”の年にして、ここから芽が出るようにしたいなということで、いただいたお話を全部詰め込む形にしたら結果、めちゃくちゃに忙しくなりました。
――初夏から秋にかけて、毎週末レベルの勢いでフェスに出られていましたよね。そこからシームレスにツアーとレコーディングに突入されたんですね。
KEEN:けど、そんな中でもツアーをやれたのはよかったです。もし今レコーディングを改めてするなら、また違うものになるんじゃないか? と思えるくらい、新曲が体にも入ってきている感じはあります。
CLIEVY:だから本当は、このツアーが終わってからレコーディングというのが理想だったんですよね。
――先日、KT Zepp Yokohama公演を拝見したんですけど、実験的に披露されたアルバムからの新曲でも、フロアがかなり盛り上がっていた記憶があります。改めてパワフルなアルバムができ上がりましたよね。
KEEN:僕的にも、この1枚にかなりの熱量を閉じ込められたなと思います。今までやってきた音源に比べると、また違うタイプのパワーが加わって、すごくいいアルバムができたなっていう実感はありますね。
――完全生産限定盤にはアルバム制作とツアーに密着したドキュメンタリー映像もついていて、“せーの”でお二人の歌と楽器を一緒にレコーディングされているのを観ると、息遣いまで聴こえてきそうな感じで、ライブ盤ではないけれども“生”感がありますね。ツアーは『ソウル・トレイン』(アメリカのソウル&ダンス音楽番組)みたいな、華やかなイメージのセットの雰囲気もすごく良かったです。
CLIEVY:ツアーでやる内容をそのままこのアルバムでできたらいいかなと思って、アルバムを作りながらツアーをやったので。曲ができていない段階から、オープニングの演出や僕らの出方とかも決めてましたね。
――アルバムでまずお聞きしたかったのが、「みかんハート」のようなこれまでのライブでおなじみの楽曲を「CK PEAS ver.」としてバンドでレコーディングされたものが5曲収録されていることで。その選曲基準は?
CLIEVY:このバンドは毎回のライブでやっていることが違うので、楽曲も今の形になるまで結構いろんなアレンジを経ているんですよね。音源にするということは絶対しくじれないので、なるべくライブで多くやったことがあるやつにしよう! という理由で、わりと自然に固まって。
——では1曲目「C&K XV」から新曲たちの話を聞いていきたいんですが、オープニング部分のセリフは……?
CLIEVY:あれはドラムのジェイ(・スティックス)さんにお願いしたんですけど、いい声なんですよね。アルバムが出た頃にちょうどツアーが終わるので、ツアーに来た人みんなが“思い出のアルバム”としても楽しめるようなオープニングにしようという設計図のもと、1曲目は初日のZepp Sapporo公演でのみんなの歓声やライブの音源を盛り込んだ感じです。
KEEN:リアルではない歓声を足すとどうしても嘘っぽくなっちゃうので、後で僕らの声ものっけたりしてはいるものの、ライブの空気感を閉じ込められたのはすごく良かったなと思います。
――16作目の自己紹介ソングということで、どんなテーマやワードを盛り込むか、迷ったりはしませんか?
CLIEVY:でも、そんなことはないんですよ。結成当時から考え方として変わらないところもありますけど、やっぱり少しずつ変わっていくものなので、その時に自分たちが感じていることをぶつけた自己紹介ソングとして、近年の曲は時系列ごとに今の僕ららしい感じになってきていると思います。
――配信で先行リリースされている「メーデー」はシャッフルのリズムがインパクト大ですね。
KEEN:過去作だと「にわとりのうた」や「王様ゲーム」も、近いニュアンスではありました。
CLIEVY:もともと『THE 突破ファイル』(日本テレビ系)のタイアップのために書いた曲で、結果的に「青青青」が使われることになったけれども、僕はこれが使われると思っていました。直球で言うなら警察をイメージさせるというか。疾走感があって、悪を倒す感じとかね。
――「メーデー」も「青青青」もエネルギッシュなサウンドではあるんですけど、イメージ的には表と裏みたいな、異なる魅力を醸し出していますね。
KEEN:ファミリー層が観てくれる番組なので、お子さんがとっつきやすいかどうかで「青青青」に決まったのかな。でも「メーデー」はライブでやっていてもかなり熱くなる曲で、バンドの音に引っ張られて、気をつけないと喉が枯れるぐらいのパワーがあります。
――ツアーで拝見した時、フロアの盛り上がりが結構すごかった記憶があります。
CLIEVY:今回はお客さんが初めて聴く楽曲も持っていったけど、結構盛り上がってくれた印象がありますね。序盤から右肩上がりでゆっくり上がっていく感じというか。
KEEN:まず1曲目の自己紹介ソングから新曲だったもんね(笑)。
“真剣にふざける”姿勢が反映された「挿入歌」
――そのタイアップ曲「青青青」は、アフリカンなリズムやブラックフィーリング満点のブロックもありつつ、サビで爽やかに展開していく構成が素晴らしいです。
CLIEVY:テレビ番組ということを考えたら、そういう方が惹きが強いかなと思ったんですけど、そのサビの部分は気に入っていますね。自分の中では(真心ブラザーズの)「サマーヌード」みたいなテイストで作りたいなっていうイメージがあって、あとはファミリー向けの番組で〈青い空〉って歌ってみたかったので。
KEEN:……女優さんの話ね?
CLIEVY:(静かに頷く)
――絶妙な流れで「挿入歌」の話に移りますが、私は最初にライブで聴いた時にまったくコンセプトを理解できていなくて、後で歌詞を見て「そういうことか!」みたいな驚きがありました。
KEEN:わかっていただいてよかった。この曲は当初、僕ががっつりバラードを作っていたんですけど、CLIEVYに「Aメロ以外ほぼ全部却下」とジャッジされて、そこからどう肉づけしていこうかと悩んで……この歳になってピュアなラブソングを歌うのは気恥ずかしいので、エグみがある内容を超きれいに歌い上げようということになりました。出発地点とは180度方向を切り替えましたけど、ライブでも結構お客さんに“刺さってる”感じがあってよかったです。
――よくお二人を見ていて思うんですけど、この曲はまさに“真剣にふざけてる”感じが伝わります。
CLIEVY:気持ちよく洋楽のように聴こえる感じを目指して、そこにすごく神経を使いました。そして歌詞を把握してちゃんとがっかりしてもらわないといけないので、そこが成立しないとダメなんですよね。
KEEN:この曲は特に歌い回しが大事で、あまりはっきりと日本語的に言わずに〈Soul new world〉と聞こえるように丁寧に歌い上げるという。
CLIEVY:歌詞を見てから聴くと、完全にそういう話にしか聞こえなくなるのが面白いですよね。
――本当に(笑)。アルバムの中のバラードコーナーみたいな感じで、次の「寝ている顔を見ている」もお二人の歌声とストリングスのハーモニーが美しくて。
CLIEVY:でもこれは、もう少し寝かせたかった曲です。大人の事情が重なりまくってレコーディングの2日前に曲を作ったんですけど、ホテルで悪戦苦闘しながら歌詞を書いていた時にふと我に返って「なんでこんなことになってるんだ!?」と。いざ歌ってみたらキーも合わないし、もっといい形に持っていけたのにという悔しさがあるんですよね。今のところ唯一、ツアーで歌っていない曲です。
KEEN:僕も経験としてあるんですけど、ここまで歌える、表現できるはずなのに、そこまで自分が行っていない曲だと、他の人が聴いて「いいね」って言ってくれても、そこに絶対納得がいかない自分がいるんですよ。
――なるほど。続いて「スナック十八番」ですけど、スナックに行かれる機会はあるんですか?
CLIEVY:ありますね。2人とも結構好きです。
KEEN:田舎に行けば行くほどスナックに行きたくなる習性がここ数年、僕らの中でありますね。変わったルールがあるとか、“何かが起きそう”なスナックを各地で探しています。
CLIEVY:まあ、そういうお店でカラオケで熱唱している人を見た時に、例えば美空ひばりさんを熱唱してる人がいたとして、恋の歌ならどんな人とのどの時期を思い浮かべて歌っているのか? というのが気になって、それを想像しながら作った感じですね。
KEEN:スナックでデュエットしてほしい曲ですね。曲を知ってさえいれば誰とでも歌えるというのがすごくいい文化だなと思いますし「私もその曲知ってる」みたいな感じで、他人同士が共鳴しやすい感じも好きですね。
――スナックで歌うのは自分たちの曲以外ですか?
KEEN:演歌とか歌謡曲は歌っていて気持ちいいですね。僕らが全然知られてないようなところで歌うの、大好きなんですよ。「お兄ちゃんたち、プロになれるよ!」って褒められてね(笑)。
――プロのアーティストに向かって(笑)。「believe」はここまでの流れを覆すような、明るくカラッとしたレゲエサウンドですね。
CLIEVY:シンプルに自分の信じているものや信じている人と、ずっと歩いていけたらいいなという気持ちを詰め込んだ曲です。漠然としてはいるけど、その信じている人とどこまで一緒にいられるかわからないから、切なさもあるんですよ。例えばライブで目の前にいるお客さんたちのことも信じているけれど、毎回同じ人が来るわけではなく入れ替わりもあるだろうし。その瞬間だけは共有しているけれどこの先はわからない。だけどその人たちと、できるだけ長くいられたらいいなという思いで。