miwa、秋をテーマにしたEP『月に願いを』で広げたボーカル表現 弾き語りツアーへの感慨も語る

miwa『月に願いを』で広げたボーカル表現

 miwaから新作EP『月に願いを』が届けられた。

 秋をコンセプトに制作された本作には、抒情的な旋律と日本語の美しさが際立つ歌詞が一つになった「月が綺麗ですね」、幸福な光景が広がる結婚ソング「Wedding Wish」、〈誰もが旅の途中〉というフレーズが印象的な「空っぽ」(日本テレビ『ぶらり途中下車の旅』テーマソング)を収録。さらに今年4月にYouTubeチャンネル「With ensemble」で披露した「ハルノオト - With ensemble」、「片想い - With ensemble」も収められている。

 本作『月に願いを』の制作を中心にしながら、ボーカルに対する意識の変化、ライブへの思いなどについて、miwa自身に語ってもらった。(森朋之)

“月が綺麗ですね”という言葉のなかに込められた本当の気持ち

——昨年の夏にEP『君に恋したときから』、今年の冬にEP『バレンタインが今年もやってくる』、春にはシングル『ハルノオト』をリリース。そして新作EP『月に願いを』のコンセプトは秋ということで、四季をテーマにした作品が続いていますね。

miwa:たまたまそうなったんですけどね。『君に恋したときから』は“恋から愛へ”を描いていて、冬のEPはバレンタインがテーマ。「ハルノオト」はアニメのタイアップ(『MIX MEISEI STORY 〜二度目の夏、空の向こうへ〜』エンディングテーマ)で久しぶりに学生時代の青春をテーマにした曲を作らせてもらって。その流れで「次のEPは秋だね」ということになったんです。じつは今回、ジャケット写真の撮影が先だったんですよ。

——え、そうなんですか?

miwa:はい。月の光をモチーフにしたり、ススキを使ったりして撮影して。そのときに「どんなテーマで曲を書こうかな」という話をして、スタッフから「夏目漱石の“月が綺麗ですね”のエピソードはどうですか?」という提案があったんです。

——英語の教師をしていた頃の夏目漱石が、「I love you」を「我君を愛す」と翻訳した生徒に対し、「日本人はそうは言わない。月が綺麗ですね、とでも訳しておけばいい」と言ったという逸話ですね。

miwa:はい。そういう日本人らしい愛情表現、心情表現を取り入れながら、和のメロディの楽曲を書けたらいいなというところから始めていきました。テーマを絞って、意図した通りの楽曲に仕上げていく過程が面白かったですね。

——まずテーマを決めて、作家的に曲を制作するというスタイルは、miwaさんの得意とするところですよね。

miwa:そうですね。タイアップもそうですけど、テーマに合うように書き下ろすことをずっとやってきているので。「月が綺麗ですね」の場合は、和のメロディやアレンジ、月をモチーフにして心情を表現することを意識してました。“月を愛でながら、大切な人を思う”というのは和歌の時代からあったものなので……。

——日本人にはなじみのある設定ですよね。「月が綺麗ですね」は歌詞を先に書いたんですか?

miwa:いえ、メロディからですね。ピアノを弾いてメロディを作って、簡単なデモをもとにher0ismさんとアレンジして。ピアノを中心にしたサウンドがいいなというのは決めていて、もちろん和の雰囲気も出したくて。her0ismさんが作ってくれている横で私は歌詞を書いてました。

——秋の月を思い描きながら?

miwa:そうですね。昔の和歌だと“大切な人と会えない”という状況が多いんですよ。月を眺めながら、直接伝えられないことを歌にするという。この曲では、すぐそばにいる大切な人に対して「本当の思いは伝えられないけど、“月が綺麗ですね”という言葉のなかに気持ちを込めている」という状況を描いていて。今はLINEやメールで簡単に伝えられますけど、そういう風情を感じてもらえたらいいなと思っていました。

——繊細な思いを滲ませるボーカルも素晴らしいと思います。歌のニュアンスなどについてはどんなことを意識していましたか?

miwa:her0ismさんとも相談しながら録ったんですけど、なるべくビブラートを抑えています。そのうえで「秘めた思いが伝わるような、ちょっとエモーショナルな部分も欲しいね」という話もしていましたね。

——ビブラートを抑えたのはどうしてなんですか?

miwa:曲の雰囲気に合わせたのはもちろんなんですけど、その方が今っぽいというところもあって。ただ、「月が綺麗ですね」は一つひとつのメロディが長いので、ビブラートを抑えるのがけっこう難しくて。ロングトーンだと、自然にかかっちゃうんですよ。「かけるんだったら、細かくかけて」と言われたんですけど、なかなか技術が必要でした。

妹に向けて書き下ろしたストレートなウェディングソング

——2曲目の「Wedding Wish」は、ストレートな結婚ソング。ワーグナーの「婚礼の合唱」を引用したメロディが印象的です。

miwa:私の妹がこの秋に結婚式を挙げるんですけど、「Wedding Wish」は妹に向けたウェディングソングなんです。秋は結婚式がいちばん多い季節だし、EPにもピッタリだなと思って。

——妹さんに向けたウェディングソング、素敵ですね。

miwa:妹のほうから「作ってほしい」と言われたんですけど、プレッシャーが大きかったですね。身内だからこそジャッジが厳しいような気がするし、私や(アレンジャーの)NAOKI-Tさんが「いいな」と思っても、妹が気に入ってくれるかどうかはわからないので。結婚式の当日に初めて聴いてもらおうと思ってるので……今もドキドキしてます(笑)。

——ライブのMCでもしっかり者だという話がありましたし、確かにそれはドキドキですね。

miwa:メロディができたときもそうだし、アレンジが上がったときもそうなんですけど、何度も「妹に聴いてもらおうかな」と思ったんですよ。でもそうするとサプライズにならないので、何とか踏みとどまって、最後まで作りました。メロディも何回か書き直して、最終的にワーグナーの「婚礼の合唱」をモチーフにしようと決めて。珍しく3日くらいかかっています。

——〈そんな君のことわかってくれる/大事な人に巡り会えたんだね〉という歌詞も心に残りました。もちろん妹さんに向けられたフレーズだと思いますが、幅広いリスナーに届く歌詞だなと。

miwa:そうなるといいなと思ってます。今までウェディングソングって書いたことがなくて。私のファンの方は「ヒカリへ」を結婚式でかけてくださることが多かったんですけど、「Wedding Wish」もその枠に入れていただけたらなって。

——そして3曲目の「空っぽ」は『ぶらり途中下車の旅』テーマソングです。

miwa『空っぽ』short movie

miwa:これまでにも2回テーマソングを担当させてもらっていて。「タイトル」「Holiday」に続く3曲目なんですよ。この曲もher0ismさんと一緒に作らせてもらったんですが、スケールの大きい曲になったんじゃないかなって。番組に合うように電車の音を入れたりしながら、「真っ新な気持ちで、新しい旅に出る」ということをテーマにしています。

——〈空っぽの気持ちで/まっさらな旅に出よう〉という歌詞もあって。人生にも重なるテーマだなと。

miwa:そうですね。大人になると、真っ新な気持ちになることって意外と少ないと思うんですよ。「空っぽ」を作っているときは、これから新しいことを始めたり、それまでとは違う環境に身を置こうとしている人の気持ちを後押しできる曲にしたいという気持ちもありました。あと、当時私が見ていた韓国ドラマにも影響されていますね(笑)。

——miwaさん自身、活動のなかで「今までとは違うことにトライしたい」という気持ちもありますか?

miwa:ありますね。デビューしてからいろんなことを経験させてもらいましたけど、新しいことだったり、初めてのことって、まだまだあるんですよ。今年の夏、『神宮外苑花火大会』に出演させてもらったんですけど、私がトリだったんです。しかも1人のステージだったから、弾き語りとオケを半々くらいにして。それも初めてでしたね。そういえば、そのときも妹に相談しました。「『441』をやろうと思うんだけど、弾き語りとオケ(で歌うの)、どっちがいい?」って聞いたら、「絶対オケだよ!」って。すごく盛り上がったので、正解でした(笑)。

——ここでも妹さんの的確なアドバイスがあったんですね。

miwa:あと、『とっとり手話フェスLIVE2023』と『「Song of Sign」vol.2 手話フェス for SDGs』という手話を軸としたイベントに出演させてもらって。手話を取り入れたダンスとのコラボをしたんですけど、それも初めてで。「メッセージ性がある曲をやりたい」と思ったし、すごくいい経験になりました。

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