松下洸平、幾田りら……歌に溢れるジブリ愛 武部聡志の手腕光る『ジブリをうたう』レビュー

『ジブリをうたう』レビュー

 キーボーディスト、アレンジャーとして数多くのアーティストを手掛ける作編曲家/音楽プロデューサー 武部聡志の全面プロデュースによる、スタジオジブリトリビュートアルバム『ジブリをうたう』が11月1日にリリースされた。

武部聡志

 武部はこれまでに、『コクリコ坂から』(2011年)、『アーヤと魔女』(2020年)の音楽を手がけてきた経歴があり、そうした経緯を経て今回のプロジェクトを温めていたのだろう。参加アーティストも、家入レオ、幾田りら、岸田繁(くるり)、木村カエラ、GReeeeN、渋谷龍太(SUPER BEAVER)、角野隼斗、玉井詩織(ももいろクローバーZ)、松下洸平、満島ひかり、Little Glee Monster、Wakanaと、武部と直接交流のあるアーティストを中心に、彼でなければ実現することはほぼ不可能なラインナップになっている。なお本作のジャケットイラストは、『コクリコ坂から』『アーヤと魔女』の監督・宮崎吾朗が手がけた。

『ジブリをうたう』参加アーティスト

 ジブリ作品の特徴の一つとして、印象的なサウンドトラックや主題歌が必ずついていることが挙げられるだろう。武部や久石譲のように、ジブリ作品の「常連」ともいえる作曲家がオリジナル曲を書き下ろすケースもあれば、松任谷由実や矢野顕子、加藤登紀子といったアーティストの既発曲を起用するケースもある。いずれにせよ、多くの人が一度は耳にしたことのある、映画のシーンがありありと目の前に浮かんでくるような名曲ばかりだ。

 本作に参加しているアーティストたちは、おそらく皆ジブリ作品に対して並々ならぬ思いを持っているのではないだろうか。オリジナル曲が持つクオリティの高さ、ジブリ作品との親和性の高さに臆することも怯むこともなく、愛情や思い入れを音の隅々にまでたっぷりと注ぎ込んでいることが、『ジブリをうたう』を一聴してわかるからだ。

スタジオジブリ トリビュートアルバム「ジブリをうたう」トレイラー映像

 冒頭を飾るのは、岸田繁(くるり)による「となりのトトロ」(1988年の映画『となりのトトロ』エンディング主題歌)。作詞を宮﨑駿、作曲を久石譲が担当し井上あずみが歌うオリジナル曲は、打ち込みを基調としたファンタジックで可愛らしい楽曲だが、これを岸田がどうカバーしているのか。期待を胸に再生ボタンを押し、あまりの「ハマり具合」に驚いた。イントロからくるり節全開で、王道のギターロック的なコード進行にリハーモナイズした上で、ティンバレスやオルガン、ピアノなどの楽器を散りばめたチェンバーポップアレンジに仕上げることで、オリジナルのファンタジックな歌詞世界も、まるでサイケデリック寓話のようにさえ思えてくる。

 続く松下洸平による「カントリー・ロード」にもかなり意表を突かれた。映画『耳をすませば』(1995年)主題歌に起用され、声優・俳優の本名陽子が歌うこの曲のオリジナルは、アメリカのポピュラーソング「Take Me Home, Country Roads」(邦題:故郷へかえりたい)。それを1971年にジョン・デンバーがカバーしたバージョンが、世界的に知られている。そんな、カントリー&ウェスタン色が濃厚なこの楽曲を、なんとゴスペル〜R&B風味にアレンジし、テナーボイスで朗々と歌い上げているのである。松下のソウルフルなボーカルは、「カントリー・ロード」が持っていたこれまでのイメージに寄り添うだけでなく、楽曲の新たな魅力を引き出すほどパワフルだ。

 一方、YOASOBIのikuraこと幾田りらによる「いのちの名前」(2001年の映画『千と千尋の神隠し』テーマソング)は、木村弓が歌ったオリジナルに近いアレンジ。ピアノとストリングスを基調としたシンプルなアンサンブルが、幾田の透き通った声と安定したピッチに裏打ちされた的確な表現力を際立たせている。

 映画『天空の城ラピュタ』(1986年)の挿入歌「君をのせて」は、もともとはイメージアルバムに収録されていた楽曲「シータとパズー」に、作曲者である久石がサビの追加とアレンジの変更を行い、そこに宮崎のメモから書き起こした歌詞を乗せた、いわゆる「突貫工事」的に作り上げられた曲である。挑戦するのは家入レオで、トライバルなリズムと中南米の楽器を用いたドラマティックなオケをバックに、優しくも凛とした歌声を披露した。

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