映画『君たちはどう生きるか』、米津玄師と菅田将暉の邂逅は運命だったのか? 対談からふたりの共通点を紐解く

 2023年7月14日公開となった映画『君たちはどう生きるか』。異例の公開前ノープロモーション戦略を貫いたスタジオジブリの宮﨑駿監督最新作という点に加え、ジャンルの垣根を越えた豪華な声優陣、さらに主題歌には米津玄師の起用と、注目を集める要素には事欠かない。今作の主題歌となった「地球儀」は米津玄師名義の楽曲としては節目の100曲目となり、7月26日の楽曲リリース以降、順調なセールスを記録。同日公開のMVも、公開から1カ月と経たない現時点で、すでに800万回再生を突破している。

米津玄師 - 地球儀 Kenshi Yonezu - Spinning Globe

 長年米津の動向を追い続けるリスナーにとって、彼の“ジブリ愛”はおそらくよく知るところでもあるだろう。ゆえに、今回のタイアップを好意的に受け取るファンも多いと同時に、『君たちはどう生きるか』というスタジオジブリ最新作が、米津にとってもうひとつの意義深い“再会”の場となったことに関心を寄せる人々も少なくない。楽曲での共演をきっかけに縁を紡ぎ、以降プライベートでも米津と深い交流を持っている俳優・菅田将暉。物語の重要人物・青サギ役に抜擢された彼と米津が図らずも本作で邂逅を果たしたことに、特別な意味を感じた人々も多いのではないだろうか。

 今回の共演に際し、米津のオフィシャルYouTubeチャンネルでは、楽曲リリース2日後の7月28日にふたりの対談動画を公開。気の置けない仲特有の緩やかな空気感のなかで展開される両者のやりとりからは、彼らの表現に対する姿勢や関係性に対して新たな視点を得ることもできる。そこで今回は、その対談動画で語られた内容やこれまでのふたりの関わりを踏まえつつ、今作で実現した彼らの邂逅の意義について思いを馳せてみたいと思う。

 今後のカルチャー史において後世に語り継がれる作品ともなる『君たちはどう生きるか』。当然だが、今回のジブリ最新作における両者の邂逅は、“ビッグネーム映画にビッグネーム足る面々が招集された”という簡素な話に留まることではない。米津がしみじみとした口調で語っていたように、特に彼にとって今回の主題歌起用と菅田との邂逅は、自身の人生における確たる文脈を背景とした、まさにターニングポイントと呼ぶに相応しい出来事だったのだろう。

 以前より米津は“自身の人生の要所要所に姿を現す人間”として、俳優・菅田将暉の認知があったと語っている。2017年の楽曲「灰色と青 (+菅田将暉)」での初共演、菅田の楽曲「まちがいさがし」を米津が書き下ろしたという事実や、「類は友を呼ぶ」という言葉の通り、特定の人間との繋がりには運命や偶然といった非科学的な事象以上に、価値観の傾向/温度感といった人間性のバックグラウンドの質の近似が影響し、“波長の合う”関係性が芽生えることも少なくない。では一体、どのような点で米津と菅田の波長が合うのかと言えば、彼らが表現者として“誰かの人生を自分に落とし込む”深度の深さ、または質の近さがひとつその要素として挙げられるように感じられるのだ。

 まずミュージシャン・米津玄師の場合、生身の人間の代わりに多彩なフィクションや創作物に囲まれ過ごした幼少期~思春期の環境や、本名を名乗る前の音楽活動経歴としても、もともとファンタジー色の強い作風を特徴とし、かつそれが高い評価を得ていた過去がある。そんな素養を土台に持つゆえか、特に近年の作品においては“フィクションに実体感を持たせる=物語に寄り添う”楽曲の制作能力の高さを評価する声も目立つ。米津玄師の名を確たるものとした「Lemon」も曲自体の魅力に加え、ドラマ『アンナチュラル』(TBS系)の物語を踏襲した曲としての評価の高さが、周知の通り爆発的なヒットに繋がった。他にもドラマ『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)主題歌「馬と鹿」、映画『シン・ウルトラマン』主題歌「M八七」、アニメ『チェンソーマン』(テレビ東京他)オープニングテーマ「KICK BACK」に、ゲーム『FINAL FANTASY XVI』テーマソング「月を見ていた」など。圧倒的なフィクション作品のタイアップ曲の多さが、あまりにも顕著なその傾向を物語っていると言える。

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