鷲尾伶菜としての自信に満ちた表現 音楽に向き合う純粋な楽しさが溢れた『For My Dear』を語る

鷲尾伶菜としての自信に満ちた表現

 2020年のソロプロジェクト始動以来、2枚目となる鷲尾伶菜のニューアルバム『For My Dear』が10月11日にリリースされた。“自分の身近な人や支えてくれたファンへの想いを込めた”という今作のCD1には、ドラマ『夫を社会的に抹殺する5つの方法』(テレビ東京系)の主題歌「So Addictive」とCocco「強く儚い者たち」のカバーといった先行配信曲に、新録曲を含めた10曲を収録。CD2には、これまでカバー企画で歌ってきた楽曲の中から厳選した10曲が収録されている。なぜ今、彼女は新たな一歩を踏み出そうとしているのか。アルバム制作を紐解きながら、アーティスト 鷲尾伶菜の今に迫った。(斉藤碧)

「皆さんが長いこと応援してくれた名前で歌うことに意味がある」

――2020年、鷲尾さんはE-girls解散後に“伶”名義でソロプロジェクトを始動し、約3年にわたってその名を掲げていましたが、今作『For My Dear』は“鷲尾伶菜”名義でのリリースになります。今のタイミングで再び本名で活動しようと思ったのは、どのような理由からでしょうか。

鷲尾伶菜(以下、鷲尾):鷲尾伶菜に戻すきっかけになったのは、今年7月に開催した『Reina Washio SPECIAL REQUEST LIVE』ですね。そのライブをやるにあたってファンの皆さんからリクエスト曲を募ったところ、今までのグループ時代の曲やソロ曲、カバー曲などさまざまな楽曲が集まって。そういった幅広い楽曲を束ねて1つのライブとして表現することを考えた時に、伶ではなく鷲尾伶菜に変えたほうがいいんじゃないかと思いました。伶としてグループ時代の曲を歌うのもいいけど、自分の気持ち的に、ファンの皆さんが長いこと応援してくれていた名前で歌うことに、意味があるライブになるんじゃないかなと。

 それと同時にアルバム制作に向けても動き始めていたので、ちょうど名前を変えたタイミングで、グループ時代によくお世話になっていた作詞家の小竹(正人)さんに「銀色」という楽曲を書いていただいたりもして。もともと伶としてプロジェクトを始動した時は、グループ時代の自分に引っ張られずに、新たな自分でさまざまな曲に挑戦したいという想いがあったんですけど、今作『For My Dear』は、グループの一員として過ごした時間も、伶として過ごした時間も、これまで培ってきた自分らしさも、これから見せていきたい自分も……全てを引っくるめて“鷲尾伶菜”として、自信を持って表現できたアルバムだなと感じています。

――『For My Dear』というアルバムタイトルは、いつ頃見えてきましたか?

鷲尾:明確にタイトルを決めていたわけではないんですが、今まで自分を支えてくださった皆さんへ向けたアルバムを作ろうというのは、最初から見据えていました。と言っても、新曲だけでなく、以前からリリースタイミングを窺って温めていた楽曲もたくさんあったので、そういったものも一気に詰め込んで。タイトル曲の「For My Dear」は、ほとんどの楽曲のレコーディングが終わった頃に「やっぱりタイトル曲も作ったほうがいいんじゃない?」ということで制作しました。

――ではここからは、収録曲について掘り下げていこうと思います。まず、CD1のリード曲「銀色」(作詞:小竹正人/作曲:長沢知亜紀、永野小織、YHEL)のお話から。小竹さんには、鷲尾さんのほうからオファーしたんですか?

鷲尾:はい。FlowerでもE-girlsでも、小竹さんの楽曲はこれまでたくさん歌わせていただいてきたんですけど、伶名義になってからは「散る散る満ちる」を歌う機会しかなかったんですよね。しかも、その時は『昨日より赤く明日より青く -CINEMA FIGHTERS project-』という映画のコンセプトに基づいて、小竹さんが作り上げられた世界観を歌うっていう形だったので、ソロとして小竹さんの楽曲を歌わせていただくのは約2年ぶりなんです。でも名義が変わったタイミングで、改めてファンの皆さんに向けたアルバムをリリースしようと思った時、リード曲は長年一緒にアーティスト 鷲尾伶菜の歴史を作ってくださった小竹さんに書いていただきたいなと。この機会にまた一緒に新たな曲を生み出していけたらと思い、オファーさせていただきました。

銀色/鷲尾伶菜 [Official Music Video]

――小竹さんと言えば、LDHアーティストの素顔をよく知った上で、その魅力を歌詞に落とし込む作家という印象がありますが、「銀色」を受け取った時はどう感じましたか?

鷲尾:曲制作でご一緒するのは久しぶりなんですけど、〈猫〉だったり〈月〉だったり、自分で自分を客観視した時に思い描くようなワードが散りばめられていて、私のことをよく理解してくださっているなって思いましたね。

――歌い出しの〈例えると君はね 全然懐かない/銀色の子猫みたい〉という歌詞を読んで、一瞬「なるほど、鷲尾さんのことを猫に例えてるのね」と思ったんですが、読み進めたら解釈違いで驚きました(笑)。

鷲尾:そうなんですよ。私のことだと思わせておいて、実は相手のことを例えてるっていう(笑)。そこは遊び心もあるし、可愛い表現ですよね。

――ファンの方の中には〈好きになりすぎたことが〉という表現に、Flowerの「さよなら、アリス」の面影を感じたり、〈一番暑い夏に 綺麗に咲いていた 若さという名の/花を摘み取った君は〉という表現から「太陽と向日葵」を思い浮かべたり、歌詞にこれまでの軌跡を探す方もいらっしゃるのでは?

鷲尾:そうですね。私も小竹さんの紡ぐ言葉や世界観に懐かしさを感じました。でも、私が今29歳ということもあり、あくまでも「銀色」は大人のラブソングとして書いてくださっていて。特に〈びしょびしょに濡らしてください〉という部分は、グループ時代の私には歌えない歌詞だなと思いました。技術的にも人生経験的にも、10代とか20代前半の頃には歌えなかった。これまでの楽曲もそうなんですけど、小竹さんは小説みたいな詞を書かれる方だから、言葉をメロディにはめるのがすごく難しくて。ちょっとはめ方が違うだけで、意味や捉え方が違って聴こえてしまうんですよ。それくらい繊細な歌詞なので、以前ご一緒した時のレコーディングを思い返しながら、今の自分にできる表現を探りながら、言葉の意味を崩してしまわないように気をつけて歌いました。

――〈私に光も 水も優しさも くれなかった人〉への想いを歌っている「銀色」に始まり、ほとんどの収録曲が報われない恋の歌なのも気になりました。確かに、鷲尾さんが歌う切ない曲を欲している方は多いと思うんですけど、他にも理由が?

鷲尾:いえ、完全にそれが理由です(笑)。自分自身も切ない曲を好む傾向にはあるんですが、やっぱり、今までの活動の中で培ってきたものや触れてきた音楽、表現してきたものがそういう色を発してきたからこそ、皆さんも私が歌う切ない曲や影のある表現を求めてくださるんだと思うんです。だからソロになっても、そこはブレずに貫きたいなと。その上で、グループとは違う自分らしさ、ソロならではの新たな色をつけ加えていけたらいいなと思っています。

――「煌めき」(作詞/作曲/編曲:Yuya Fujinaka)も、別れを予感している時の切ない心情を歌った楽曲です。こちらの選曲はどのように?

鷲尾:「煌めき」は、今回の収録曲の中で最初に「この曲良い!」って思った曲ですね。だいぶ前にデモを聴かせていただいて、それ以来、いつかリリースしたいと温めていました。

――この曲は今作で唯一、一人称が〈僕〉の楽曲ですね。Aメロをポツリポツリと歌う声に、少し“Flowerの鷲尾伶菜”を感じました。

鷲尾:そう、「煌めき」には驚きのエピソードがあるんですよ。実はこの曲を作ってくださったFujinakaさんに、ミックス(複数の録音トラックを一つに混ぜる段階)の時に初めてお会いしたんですけど、その方がなんと私の大ファンで! 音楽を作り始めたきっかけがFlowerだったそうなんです。

――素敵な巡り合わせ!

鷲尾:作家を見て、この曲に決めたわけじゃないから、まさに運命ですよね。私に自分の曲を歌ってもらうために、ずっと音楽を作り続けてきたっておっしゃっていて、すごく感動しました。どうやら、仮歌を歌ってくれた方にも「鷲尾伶菜に似せて歌って」ってお願いしてたらしくて……(笑)。その話はレコーディングの後に聴いたので、自分が歌ったときは全然気づいていなかったんですけど、私が今までやってきたことの意味も感じましたし、過去に感謝できた楽曲制作でした。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる