鷲尾伶菜のソロプロジェクト 伶、ボーカリストとして広がる魅力 幾田りら、笹川真生……あらゆるコラボに溶け込む声色

伶、ボーカリストとして広がる魅力

 鷲尾伶菜のソロプロジェクト 伶のデジタルシングル「エンカウント feat. 笹川真生」が12月21日にリリースされた。伶は前作「宝石 feat. 幾田りら」(11月17日リリース)から連続配信リリースが決定しており、今回の「エンカウント feat. 笹川真生」はその第2弾にあたる。

 「宝石」は、YOASOBIのボーカル・ikuraとしても知られるシンガーソングライター・幾田りらが作詞・作曲を担当し、フィーチャリングゲストとして参加した楽曲。澄んだ歌声を持つ2人が共演し、美麗なハーモニーを聴かせるという、豪華なコラボレーションが実現した。

 同曲は「旅立ち」と「新たな一歩」をテーマとしており、伶が企画立案から全体のプロデュースに関わって制作されたというストーリー仕立てのMVも公開されている。夜明けとともに訪れる静かな決別を、聴き手に優しく寄り添うような詞とメロディラインで歌い上げるミドルバラードであった。

伶 『宝石 feat. 幾田りら』×360 Reality Audio ミュージックビデオ

 そして「エンカウント」でのフィーチャリングアーティストは、笹川真生。高校生だった2012年頃からボカロPとしてニコニコ動画への投稿を開始し、現在では多数のアーティストへの楽曲提供の他、シンガーソングライターとしても活動している新進気鋭のクリエイターだ。BURGER NUDS、syrup16gなどの日本のインディロックをよく聴いていたそうで、他にもThe Flaming Lipsなどドリームポップ〜サイケデリックロックからの影響を感じさせる、エモーショナルかつ繊細な世界観が特徴の笹川。今作「エンカウント」はその楽曲が持つ強い個性ゆえに、伶の作品としては圧倒的に異彩を放つ1曲となった。

 イントロで刻まれる生ギターのカッティングと、うねりながら跳ねるギターリフから始まり、ハイファイとローファイ、ドライとウェットを行き来するように質感を変化させる音世界。変則的なリズムの導入や転調に幾度か意表を突かれるものの、常に全体を支配しているのは、ダウナーでメランコリックな空気感。そこへ伶の儚さと艶を併せ持った歌声と凛とした歌唱が溶け込むことで、これまでの作品とは異なるミステリアスな表情が見えてくる。

 さらに、歌詞がその表情を色づけしていく。〈共感の嵐で崩壊寸前なんです/あの頃の君はどこにいるの/かな〉といった表現と諦念の感覚は、一種のディスコミュニケーションを意識させる。ただ、それは〈くだらない思想と、痛み分けかも〉というフレーズを境に転調した先のラストのサビで、〈群れてないでおいで!/自由自在に息をしてみよう?/はみ出せ〉と、自己の解放を誘う大胆不敵さへと転換されていく。

 この詞もまた過去曲と比較すると異色の趣ではあるが、伶の歌声には意外なほどマッチしている。恐らくは伶の清廉な印象を与える声色と繊細な歌唱、そして常に楽曲の世界観を丁寧に表現しきる彼女の“凄み”とある種の“冷徹な目線”が、この詞やサウンドに共鳴しているのではないだろうか。

伶 『エンカウント feat. 笹川真生』×360 Reality Audio ミュージックビデオ

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