伶、ボーカリストとして鮮やかに広がる表現 多彩なサウンドと歌声の調和を堪能できる1stアルバム

伶、鮮やかに広がる表現

 Flower/E-girlsのボーカリストとして数多くのファンを獲得してきた鷲尾伶菜が、ソロアーティスト“伶”としての活動を開始したのは2020年10月。それ以降、コンスタントに新曲を発表し続けてきた伶の約1年半を閉じ込めた1stアルバム『Just Wanna Sing』が、4月13日にリリースされた。

 ストレートなタイトルに違わず、明快で実直な作品である。様々なアーティストとのコラボレーションで生まれた楽曲達はそれぞれに毛色が異なるが、その全てにさらりと調和する伶の歌声は、実に軽やかに、伸び伸びと輝いていた。本稿では収録順にその魅力を紹介していく。

 1曲目は、YOASOBIのikuraとしても活動している幾田りらとのコラボが好評を博した「宝石 feat. 幾田りら」。今いる場所からの“旅立ち”を静かな夜明けに例え、切なくノスタルジックな情景を描く同曲と、そこから新たな世界へ大きく羽ばたくような爽快感のあるソロデビュー曲のM2「Call Me Sick」へ続く流れはとても小気味よい。

伶 『宝石 feat. 幾田りら』×360 Reality Audio ミュージックビデオ
伶 - Call Me Sick / THE FIRST TAKE

 しかし続くM3「エンカウント feat. 笹川真生」は一変してメランコリックだ。ボカロPとしても知られる笹川真生によるトラックと、若干の“気怠さ”を感じさせる伶の歌声は、今作の中では特に強い個性を放っている。そしてこの曲で歌われる不敵な闘志は、次曲のM4「こんな世界にしたのは誰だ」の強い情動と張り詰めた歌声へと移行する。と、ここまでの4曲だけでもすでにバリエーション豊富だが、そこから続く新曲はさらに多彩だ。

伶 『エンカウント feat. 笹川真生』×360 Reality Audio ミュージックビデオ
伶 『こんな世界にしたのは誰だ』(Acoustic Ver.)

 新録曲であるM5「Dark hero」はリバーブの効いたシンセとボーカルが文字通りダークな情景を生み出しているが、それでいて抜けの良いギターのフレーズやビートは爽やかに響く。そして光でも闇でもなく“夕闇”の中に立ち、さらに深い闇へ飛び込む決意を表す詞にも、〈愛と憎しみ 背中合わせ/だからきっと/強さに変わっていくの〉といった多面的な視点が見られる。こうした奥行きのある楽曲も、様々な経験を積み重ねてきた今だからこそ、より深みを持たせて表現できるのではないかと思う。

 次曲、M6「IDNY」もまた、ヒップホップ的なチルサウンドが新鮮な1曲。オートチューンのかかった少しダウナーな歌声が程よく音に溶け合っていて、サビ後半の〈どんなに願ってみても/叶わない夢があるから/目を閉じて眠ろう/With love love love…〉という一連のフレーズは、特にキャッチーで中毒性が高い(詞そのものは非常に物悲しいのだが)。また、ドラマ『お前によろしく』(テレビ朝日公式YouTubeチャンネル×TELASA)主題歌となっているM7「Butterfly」は、ジャジーなベースとピアノがグルーヴィに絡み合うハウスチューン。ダンサブルなテンポの中で静かに熱を帯びていくようなサビのメロディラインは、伶の儚く透き通った響きが活かされ、切なくも艶のある仕上がりとなっている。そこから続くM8「キミとならいいよ。」はさらに甘くメロウ。温かく優しい声音で、深い愛情が歌われる。

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