チャーリー・プース、ポップミュージック愛が爆発した来日公演 生演奏の迫力でポジティブな空間に
2023年10月17日・18日、約5年ぶりとなるチャーリー・プースの来日公演が東京都・有明アリーナで開催された。本稿では17日公演の模様をレポートする。
会場中に響き渡る、マイケル・ジャクソン「Don't Stop 'Til You Get Enough(今夜はドント・ストップ)」。言わずと知れたポップミュージックにおけるクラシック中のクラシックだが、この曲を大胆にも自身のコンサートの登場曲に選んでしまうあたりに「チャーリー・プースらしさ」を感じて、本人がまだステージに登場すらしていないのにすでに笑顔になってしまう。きっとチャーリーは「マイケルを継承する」といった大いなる想いではなく、「この曲が大好きだから」というシンプルな理由で選曲したのではないだろうか。
バンドによるオープニングの演奏を経て、チャーリー本人が黒のタンクトップにブルージーンズというスタイルで登場すると、会場は瞬く間に大歓声で埋め尽くされる。その様子を見たチャーリーは、自身を照らすたくさんのライトにも負けないくらいの満面の笑みで、両手を大きく上げてその声に応えようとする。その姿はポジティブそのもので、前日に自身が風邪をひいて、当初予定していたファンイベントが中止されるという事態を迎えていたことへの不安が一瞬で吹き飛んでしまうほどだ。
この日のチャーリーが絶好調なのは、歌声についても同様だ。1曲目に披露された「Charlie Be Quiet!」は囁くような歌声と力強い歌声が次々と切り替わっていく構成が印象的な楽曲だが、特に危うさを感じさせることなく、美しい歌声を見事に会場中に響き渡らせて観客を魅了する。「静かにしろと言われるけれど、どうしても気持ちを抑えることができないんだ」という自身のキャラクターを象徴するような同楽曲は、ライブのオープニングナンバーとしてこれ以上ないほどハマっており、バンドによる音源以上に迫力のある演奏と、チャーリーのエモーショナルな歌声がその「抑えられなさ」をさらに強調する。終盤にはチャーリー自らショルダーキーボードを抱えてソロを弾くという展開まで用意されており、ちっとも「Quiet(静か)」ではない熱狂が会場中を満たしていた。
その熱狂に導かれるように、5年ぶりの来日であることを感慨深げに語ったチャーリーは、その期間にあった出来事や思い出を辿っていく。やがて、「その時、これが思い浮かんだんだ」とチャーリーが話すと、どこか聴き覚えのあるメロディが会場に響き渡る。さらに、「もっと良くしよう。キーを変えてみようか」と続けると、その音は「No More Drama」のイントロへと変わった。「いい感じだ」と頷いたチャーリーはそのまま自然に同楽曲のパフォーマンスへと入っていき、観客に合唱を促しながら心地よいグルーヴの中へと会場を導いていく。その後も「Attention」や、自身が作曲/プロデュースに携わったザ・キッド・ラロイ&ジャスティン・ビーバー「STAY」といったヒット曲を惜しげもなく連発し、観客の大合唱とともに、そのポジティブなムードはこれ以上ないほどに高まっていく。観客のチャーリーへの愛は凄まじく、曲間には色々な方向から声援やメッセージが聞こえてきて、チャーリー自身も熱心にその声に耳を傾けたり、手を振ったり、「僕も愛してるよ!」と返したりしていた。
今回のワールドツアーには『The “Charlie” Live Experience』というタイトルがつけられていたのだが、「Experience(経験、体験)」という言葉が象徴するように、この日のライブでは楽曲の背景をチャーリー・プース自ら紐解いたり、観客に体験してもらうような展開が随所に用意されていた(前述の「No More Drama」もその一つだ)。「Left and Right (feat. Jung Kook of BTS)」ではコーラスやドラムなどの音を重ねていく過程を、サビのメロディを閃いた瞬間の心境を語りながら、ステージをスタジオに見立ててバンドメンバーと一緒に再現していく。そうして全体像が見えてくると、「最後に必要なのは、みんなが歌ってくれること!」と告げて、大合唱のパフォーマンスが幕を開けるのである。近年のチャーリーはTikTokを活用して積極的に自身の楽曲の制作プロセスを公開しているが、この日のライブはそうした取り組みを実際の会場で再現するという試みでもあるのだ。
その中でも最も大胆だったのは、セレーナ・ゴメスとの共演でも知られる大ヒット曲「We Don’t Talk Anymore」を披露するにあたって、セレーナの「Dreaming Of You」(1995年)とマリオ・ワイナンズの「I Don't Wanna Know」(2004年)という二つの名曲を織り交ぜて歌い上げた場面だろう。しかもメドレーのような形式ではなく、あくまで「We Don’t Talk Anymore」の一部であるかのように自然に組み込まれていたのだ。言わば楽曲のインスピレーション源を開示するような、ともすればカバー曲のインパクトに元の楽曲が負けてしまうかもしれないという大きなリスクを孕んだ試みだが、あまりにも見事に決まっており、バラードを巡る旅路の果てに辿り着いた〈We Don’t Talk Anymore〉の大合唱は、間違いなくこの日最大のハイライトとなっていた。この試みがうまくいっていたのは、楽曲の持つ強度は前提として、チャーリー・プースがポップミュージックを誰よりも愛する人物であるということを、その日のステージやこれまでの活動を通して、この場に集まった誰もが理解していたからではないだろうか。