チャーリー・プース、ポップミュージックの王道と呼ぶべきステージを体現 初のジャパンツアーレポ

チャーリー・プース、初のジャパンツアーレポ

 今年5月に約2年振りとなるオリジナルアルバム『Voicenotes』をリリース。全米シングルチャートで最高5位を獲得したリードシングル「Attention」、J・キャッシュとの共作曲「How Long」のミュージックビデオはYouTubeで合計11億回の視聴数を突破するなど、驚異的なヒットを記録。“新世代のポッププリンス”と称すべきキャリアを積み重ねているチャーリー・プースが、大阪、幕張、東京を回る初のジャパンツアーを開催した。

 2016年の『SUMMER SONIC』に出演して以来、約2年ぶりの来日公演。しかも今回は初の単独来日公演ということで、チケットはすぐにソールドアウト。最終日の東京・国際フォーラム ホールA追加公演も超満員。開演前からおしゃれな観客たちがステージをバックにスマホで記念撮影しまくっている。10代、20代を中心に、40代以上の観客が多いのも印象的。オーソドックスなソングライティングを軸にしたポップソングで世界的ブレイクを果たしたチャーリーは、“いい曲”を求めている大人のリスナーにも波及しているようだ。

 開演時間の午後7時過ぎ、会場に流れていたBGMが止まり、マイケル・ジャクソンの「P.Y.T.(Pretty Young Thing)」が大音量で響き渡る。客席の照明が落とされ、キーボーディスト、ドラマー、ベーシスト、ギタリストがひとりずつ登場。最後にチャーリーがステージに現れると、“キャー!”という(まるでK-POPかジャニーズのコンサートのように)甲高い歓声が巻き起こる。オープニングナンバーは「The Way I Am」。さらに「Slow It Down」とアルバム『Voicenotes』の収録曲が次々と披露される。オーセンティックなR&Bを現代的なポップミュージックに昇華させた楽曲でブレイクしたチャーリーだが、そのクオリティはやはり格別。洗練されたコード進行、ドラマティックな(ある意味ベタな)メロディ、豊かなハーモニーがひとつになった彼の音楽は、2018年の音楽シーンにおいて、きわめて新鮮に響く。その佇まいは“ブルーアイズ・ソウルの進化型”という言葉がよく似合う。

 楽曲のエッセンスを際立たせる的確でシンプルなバンドサウンド(同期の音はほとんど目立たず、あくまでも生バンドを軸にした構成だった)、そして、チャーリー自身のボーカルも圧巻。豊かな響きをたたえた中低音、美しく繊細なファルセット、しっかりと歌詞が伝わってくる表現力を含め、シンガーとしてめちゃくちゃ魅力的だったのだ。ヒットシングル曲「How Long」ではショルダーキーボードでソロパートを演奏。プレイヤーとしてのセンスの良さもアピールした。

 会場の一体感を重視した演出も印象的。ステージ上に設置された大型ビジョンにはチャーリーだけではなく、観客の姿もふんだんに捉えられ、歓喜、感涙の表情が映るたびに大きな歓声が巻き起こる。さらにMCにもしっかり時間を割き、“ファミマでアイスを買った”など滞在中のエピソードを披露(同じく来日公演中だったティラー・スウィフトのライブにも行ったらしい)。親近感を生み出すステージングも、彼のライブの大きな魅力だろう。

 このあとも「Empty Cups」、「LA Girls」などアルバム『Voicenotes』の曲を中心に展開。さらにブレイクのきっかけになった「Marvin Gaye」ではオールディーズ的なサウンドで観客を踊らせ、「Change」ではアコースティックな構成で歌をじっくりと聴かせる。楽曲に適したアレンジ、ステージングが施され、まったく飽きることがない。

 ライブ後半では「One Call Away」、「Suffer」といったヒットチューンを次々と披露、観客はシンガロングで応える。ラストはやはり『Voicenotes』収録曲の「BOY」。さらに「今日は最後のショーだから」と、映画『ワイルドスピード スカイミッション』の主題歌として話題を集めた「See You Again」を歌い上げる。ステージの画面には涙を流すオーディエンスの姿が映し出され、大きな感動が広がった。

 卓越したソングライティングに支えられた質の高い楽曲、80年代〜90年代のR&Bをナチュラルに取り入れたサウンドメイク、楽曲の良さを引き出すことに集中し、洗練された演奏を聴かせるバンド、そして、すべてのフレーズにしっかりと感情を込め、丁寧に歌を紡ぎ出すボーカル。演出上のギミックや表面的な刺激に頼らず、ポップミュージックの王道と呼ぶべきステージを体現したチャーリー・プース。楽曲のクオリティとライブの良さだけで勝負できる、本物のポップミュージシャンであることを自ら証明した、貴重な来日公演だったと思う。

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(写真=Masanori Doi)

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

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