ラッパ我リヤ、6年ぶりアルバム『CHALLENGER』に至るまで キャリアを重ねた今、制作に向き合うスタンス

ラッパ我リヤ『CHALLENGER』に至るまで

 ラッパ我リヤが実に6年ぶりのアルバム『CHALLENGER』を完成させた。このアルバムに通底するのは、「硬質のライミング」「タフなラップ力」「ヘヴィなビート」という、流行や世代、時代に左右されることのないヒップホップの根源的な魅力の追求という部分だろう。そしてその根源性こそが、今年結成30周年を迎えるラッパ我リヤが常に作品の中心に置き、普遍的で不変の精神(まさに「我リヤイズム」!)なのだ。

 30年というキャリアを経て、その自分たちの根源に向き合い、マイクを掴む理由、ビートを組み立てる理由、ターンテーブルに向かう理由、ステージに立つ理由、そして己が生きる理由を、ここまであからさまに、剥き出しに、衒いなく刻み込む楽曲群は、多くのリスナー、とりわけ我リヤと同世代や我リヤに影響を受けた世代には確実に響くだろう。あまりにも見通しの悪い社会状況のなかで、“情熱”を作品の推進力とし、“CHALLENGER”として戦いを続けるラッパ我リヤ。その生き様を聴こう。(高木"JET"晋一郎 )

俺らにとって曲作りは「遊びだけど、遊びじゃない」

ラッパ我リヤ
ーーラッパ我リヤとしては6年ぶりのアルバムになりますね。

山田マン:ただ、止まっていたということは全然なくて、その間にもずっと録ってはいたんですよ。でも音楽は流行り廃りもある“生もの”だし、このアルバムで言えば「この道ひとすじ」ができた時に、「今回のアルバムにはこれ以降の曲を入れよう」という話になって。だからアルバムは「この道ひとすじ」が起点でしたね。

ーーRHYMESTER「リスペクト feat. ラッパ我リヤ」からのセルフサンプリングも印象的な曲ですが、トラックは我リヤ黎明期のメンバーであるDJ TANAKENさんからの提供で、その意味でも我リヤの原点を感じる曲ですね。

Mr.Q:テーマとしては1993年、ラッパ我リヤの結成の頃から、現在までの思いを形にして。だから、それこそ自分たちが高校生の頃の渋谷のことを思い出したり。30周年キャリアを重ねる中で、自分やメンバーたちが「好きだな」と思える普遍的な部分を、今回のアルバムはチョイスしたと思いますね。

ーーその意味でも“我リヤイズム”がこれまで以上に押し出された作品だと感じました。

山田マン:今回のアルバムはウチのスタジオで録ってて。その作業の間に結構話し込んだんだよね。それこそキッチンの換気扇の下でタバコ吸いながらとか。そこでQとリリック構成の話し合いはもちろん、TOSHIちゃんの思いを汲み取ってリリックに落とし込んだり。QとTOSHIが言い合いになったりもして。

DJ TOSHI:軽くお酒飲んじゃった時なんかは、思いが増幅されて、お互いに熱くなっちゃったり。おかげで三発ぐらいぶん殴られたもん。

ーーええ!?

DJ TOSHI:いや冗談(笑)。

ーージョークが悪質ですよ(笑)。

山田マン:暴力は一切ないですけど、もう本気でぶつかり合って「ああでもない、こうでもない」を今回のアルバムではやりましたね。泊まり込みで制作もしたんですけど、1日目にとことん話し合って喧嘩しても、2日目にはみんなで飯食って再開したり。Qは飯作るの上手だから、みんなで「お、これ美味いじゃん」とか言いながら(笑)。

DJ TOSHI:合宿的な感じもあったよね。スーパーにも3人でよく行ったし。

ーー我リヤがスーパーで買物してる光景はかなり面白いですね(笑)。キャリアを重ねてもドライな関係にならず、ホットだからこそそういった衝突が生まれるのは、健康的な感じがします。

ラッパ我リヤ Mr.Q
Mr.Q

DJ TOSHI:年齢を重ねたことで、余計に話し合うようになったかもしれない。それもあって、グループの風通しはすごく良かったし、その空気感を落とし込めているから、すっきりした楽曲になってると思いますね。

山田マン:本当にトコトンまで話し合ったからね。レコーディングもそうで、何度も録り直して、書き直して、エディットして。

Mr.Q:ラップに関しては、ビートに対してのアプローチや声色、はまり方、フロウ、ボーカル全般、声の出方……そういうラップの全てを踏まえて、とにかく録ってみてそこで正解を出すという感じでしたね。

DJ TOSHI:山田マンがエンジニアリングもしてるので、そういう思いが熱いうちに、テンションが高いうちにRECして、録ったものに対してメンバーの中で意見を出し合って。さらにそれぞれ持ち帰って、もっと客観的な耳で聴き直してさらにブラッシュアップしていったり、修正もすぐにできる環境だったから、より“生もの”に近い形でRECできたのかなって。

山田マン:そうやって作りながらビルドアップ、ブラッシュアップできる作業体制だったのは、今回のアルバムには大きかった。ヴァースを差し替えるにしろ、間を作るにしろ、アイデアが出たらすぐにそれを試して、ダイレクトに実験ができたし、それを本当にトコトンやりましたね。

Mr.Q:「これはイケてるのかな」「こっちの方がいいのかな」という試行錯誤をひたすらしたよね。それによって、普段からの人間味みたいな部分もそのまま出たらいいなと思っていたし、それが伝われば嬉しいなと。

DJ TOSHI:俺らにとって曲作りは「遊びだけど、遊びじゃない」し、その部分がより濃くなったと思いますね。10代、20代の頃は遊びでヒップホップと接していた割合が大きかったし、それは今の若いアーティストもそうだと思うんですよ。そういう部分から生まれる、若いアーティストならではのバイブスとかテンション、格好良さはすごく大事だと思う。

ーー若さの特権でもありますよね。

ラッパ我リヤ DJ TOSHI
DJ TOSHI

DJ TOSHI:でも俺らの年齢でやるべきことは、もうそれじゃないよな、と。だから遊びの部分よりも、喜怒哀楽の表現、伝えたいメッセージを全面に出して、それをどう音に乗せるか、言葉にするかを改めて大事にしましたね。自分はトラックメイカーとして「このビートにはこういう気持ちを込めて作った曲だから、こうメッセージしてほしい」と二人にアプローチしたり、ラッパー同士はもっと細かいディティールの部分で、この言葉をこう伝えようという話をひたすらして。

ーーキャリアや年齢を重ねたからこその音楽というか。

DJ TOSHI:良いこともあれば悪いこともあるし、悲しいこともどんどん増えている。それをうちらが音楽で、特に同世代に響かせられるようなものをやりたいねっていうのは、一貫して自分の中ではあったかもしれないです。それこそ、クラブで一緒になるアクトが俺らの子ども世代で、「親が我リヤを聴いてました」なんてのは珍しくない。

山田マン:もう、親が自分たちより微妙に年下だもんね。

DJ TOSHI:そうそう。そういう若い世代にももちろん聴いてほしいけど、そこにあえて寄せるよりは、その子達の親世代だったり、同世代に向けた方が純粋というか、素直に作品が作れると思ったんですよね。山田マンとQ、そして俺が気持ちを伝え合って作るんだから、当然そうなるだろうし。

ーーその意味でもすごくシンプルな、ピュアなメッセージに貫かれた作品になったと思いますし、ヴァースがタイトになっていることも影響していますね。

DJ TOSHI:そこも話してたよね。「ヴァースが長けりゃいいってもんじゃない」という。ただ、メッセージはシンプルなんだけど、放っといても特に山ちゃん(山田マン)はニヤッとするような面白いことを言うじゃないですか。それに対してQがウケて書き直したり、もう自然に起こるので、シリアスになりすぎてるということはないと思うんですよね。

ーーそうですね。そのファニーさを我リヤに求める人も多いと思います。

山田マン:基本は三枚目気質というか、ふざけた人間なので。だけど音楽やるときはやっぱ真剣にやらないとな、と。以前は真剣にやらなきゃいけない場所でもどこかふざけちゃったりしたけど、今回はそんなことしてる場合でもないと思ったんですよね。

ーーそう思った理由は?

ラッパ我リヤ 山田マン
山田マン

山田マン:前回のアルバム『ULTRA HARD』から6年経ったと思うと、「もしかしたらこれが最後かもしれないな」と、今回のアルバムを作り出すときに思って。だから「よし、遺書のつもりで作ろう」という気持ちがあったし、万が一ここでなにがあったとしても、後悔なく「ここに全て残した」と思える作品にしようと。

DJ TOSHI:それは俺も思いました。「もしかしたらこれが最後かもしれない。だったら『これがラッパ我リヤだ』という、生き様を聴いてもらいたい」と。そういう気持ちがあるから、言い合いにもなるし、やれるときに、やるしかないという。

Mr.Q:逆に俺はそうは思ってなかったんだけど、そういう意見も聞くと「なるほどね」と感じたし、そういう部分も含めて言い合い、気持ちを吐露し合ったと思う。

ーーメッセージの選択はどのように?

Mr.Q:大人になると「責任」というものだけが増えるけど、子どもの頃と実は頭の中はそこまで変わらないじゃないですか。そういう意味では、プロダクトを作り上げるにあたって趣味とか好きとか嫌いは、基本的にこれまでと変わらないと思うんだけど、そこで「自分が」と「自分たちが」はちょっと違って。「自分が」を押し出しすぎたり、逆に自分の意見を引っ込めたりして、「その時は誤魔化したけど、実はあんまり好みじゃなかった曲」という曲は、これまでに正直ある。そういう曲はいずれパフォームする回数が少なくなったりするんだけど、それじゃつまらないし、そうなる前に、自分も好きで、グループとしてもちゃんと納得できるメッセージや曲を選びましたね。だから、みんなの点と点を繋げて線にして、さらに面にビルドしたという感じですね。

山田マン:ビートに関して言えば、単純にパワーがあって、イケてるのかどうか、ヤバいのかどうかが大事ですよね。そこにライムを乗っけたらゴツくなるのか、ハードコアラップになるのかどうかが、当然だけど肝になって。

Mr.Q:これだけの多岐にわたる、すごい数の情報がある中で、〈ここにたどり着いた奴はラッキーボーイ〉と「CODE NAME」の中で言ってるんですけど、そう思わせるぐらいのものをちゃんとお届けしたい。だからこそ、人と対峙したり向き合ったときに、目の前にいる人に語りかけるようなリリックの構成になったと思いますね。

ーー大きくふわっと投げかけるよりは、「俺はこう思うけど、お前はどう思う?」みたいな、ミニマムな関係性のリリックになっていると思います。そして「こういう曲を作れば世の中に評価されるだろう、ウケるだろう」のような色気もないですね。

山田マン:「いまのUSのトレンドを取り入れなきゃ」みたいな義務感は、この年齢になるとちがうよね、って。それよりも、とことん自分たちの中から出していきたいと思っていますね。それに、もしそんな色気があったら、「ヤバスギルスキル」を「11」まで作ってないでしょ(笑)。

DJ TOSHI:でも、普段自分がクラブでかけてたり、聴いているようなヒップホップとは繋がっていたいとは思いますね。個人的にはドリルやトラップにも好きな曲が多いので、そういう要素は入ってると思いますね。もし若い子たちと乖離してたら、そういう要素は乏しい作品になってたと思うし、今の要素と離れすぎている作品にはしたくないなって。

山田マン:そうだね。そりゃN.W.A.も2Pacもビギー(The Notorious B.I.G.)も好きだけど、それに加えてずっと最先端なヒップホップが好きでい続けてるし、新しいビートはすごく刺激的。そんな3人がビートを作るから、流行りのビート感やサウンド感は、自然とどこかには入ってると思う。

Mr.Q:「ブーンバップで」「何が流行りで」という考え方自体が狭いなっていう気もしたりする。それよりも芸人でいえば、必殺のギャグを生もうとしてる感じですよね。プロレスで言えば、ジャイアント馬場さんの16文キック。晩年は馬場さんが足を上げたら、他のレスラーが当たりに行ってたじゃないですか。むしろ「当たらせてくださいませ」っていうぐらいのモノになってた。そういう“お約束”という言葉では表現できないような、“究極のお約束”を生み出したい。もう出るのが分かってるのに、出た瞬間に盛り上がる、あれをやらなきゃしょうがない、どうしようもなく面白いものを作りたいんですよね。それは俺たちで言えば「Do the GARIYA thing」がそうだと思うんだけど、その次の曲をちゃんと作りたいというか。

ーー“クラシック”を生み出す意志が、作品に通底してると。

Mr.Q:“必殺技”を作ることを、グループとして常に探してるんだと思う。「ヤバスギルスキル 11 (feat. R-指定, KZ & KBD) 」もMVを作ってYouTubeにアップしている効果があってか、もうライブでは〈ヤバすぎるぜ〉というフックが合唱になってるし。そういうわかりやすさと、タフさと、面白さと、格好良さがちゃんと混在した世界を考えてますね。やっぱり、ニュースターはどんどん新しく生まれているし、恐ろしいほど格好いいと思うような、好きなラッパーもたくさんいる。そして、その新しいスターたちのパワフルさに影響されて、引き込まれて、魅了されて、虜になって新しいリスナーが増えて、層が厚くなっていると思うんですね。その中で、「お前も凄いけど、俺も、俺たちも凄いよ」という、一歩も引いてないことを作品として表現したいし、そう思わないときっと面白くないと思うんですよね。

ラッパ我リヤ「ヤバスギルスキル 11 feat. R-指定, KZ, KBD from 梅田サイファー」【Music Video】

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