AZKi、歌を諦めなかった道のりが詰まったメジャーデビュー作 分岐点となった出来事、新しい表情への挑戦も明かす
人気VTuberグループ・ホロライブの歌姫のひとりとして、透き通った表情豊かな歌声で人気を集めるバーチャルシンガー・AZKi。彼女がビクターエンタテインメントと契約し、メジャーデビューEP『3枚目の地図』を10月4日にリリースした。
ホロライブ内の音楽レーベル・イノナカミュージックのメンバーとして活動を始めた彼女は、もともとは2022年7月に活動終了予定だった本来の「ルートα」から分岐し、活動を継続する「ルートβ」に入ることを発表。そして今回、未開の第3の道「ルートγ」としてメジャーデビューを果たす。
「いのち」や「リアルメランコリー」など、AZKiのこれまでの人気曲を手掛けてきた瀬名航が作詞・作曲・編曲を担当したリード曲「エンドロールは終わらない」を筆頭に、自身の活動への思いが全編に詰まった今回の作品について、AZKi本人に聞いた。(杉山仁)
「ここで終わりたくないという気持ちがあった」
――今回のEPの話につながると思うので伺いたいのですが、AZKiさんは活動を始めた2018年頃、どんなことを考えて日々活動していたんでしょうか?
AZKi:私はもともと音楽や歌が大好きで、その中で「Vsingerとして活動しませんか?」とお話をいただいて。最初は、イノナカミュージックという当時ホロライブの中にあった音楽レーベルで活動を始めました。当時はすべてが新鮮で、新しい世界に飛び込んだような感覚で。音楽という自分の好きなものが一本道としてあったので、そこでいろんな人と繋がったり、新しい世界を作ったりしていけたらいいな、と思っていました。「この世界で楽しく、音楽を伝えていくにはどうしたらいいだろう?」といろいろと考えていたと思います。
――当時はまだまだバーチャルシンガーの方も少なかったですし、みなさん手探りでトライ&エラーを繰り返しながら活動を始めているような印象でした。
AZKi:そうですね。イノナカミュージックでは主宰のツラニミズさんがどういうふうに活動していくかを考えてくださっていたので、私はその中でAZKiとしてできることを精一杯やろうと思っていました。「バーチャルな存在が、リアルな会場でライブをするにはどうすればいいだろう?」というところも含めて本当に手探りで、いろんな失敗を繰り返しながらそれを確立させていった印象です。最近は当たり前になってきていますけど、当時はバーチャルとリアルの空間を繋いで活動していくのって、今より難しいことだったんです。――そこから現在までの活動の中で、特に印象的だったことをいくつか挙げていただくとしたら?
AZKi:やっぱり1つ目は、AZKiとして初めてリアルライブをやったときはすごく印象深かったです。当時はVTuberやVsingerがちょっとずつ浸透してきてはいたけれど、まだまだ認知度が低い状態だったので、実際にライブハウスでライブをして、そこにお客さんが来てくれて、音楽をやっていると実感できたときは本当に嬉しかったです。
そして2つ目は、ライブをしたりオリジナル曲を作ったりカバー曲を歌ったりしていた中で、新型コロナウイルスが流行り始めて、今まで通りの活動ができなくなってしまったときに、「じゃあ何ができるだろう?」と考えて、家での発信を頑張る方向にシフトしたことです。今では私もホロライブのみんなと同じようにいろいろな配信をやっていますけど、当時はまだそうではなかったので、これは自分の中でもチャレンジでした。でも、ライブができない中で、何ができるか頑張ってみようと思って始めてみることにしたんです。
――なるほど。新しい活動方法に挑戦し始めたと。そのおかげで、リスナーとしてもAZKiさんの人柄がより伝わってくるような印象がありました。
AZKi:本当ですか! ただ、そうやって家から発信できるようになりつつ、コロナ禍が徐々に落ち着いてきて、またライブができるようになってきたタイミングで、イノナカミュージックが終了することになってしまったんです。もともとAZKiのプロジェクト自体は、2022年の7月で終了することが筋書きとして決まっていたんですけど、イノナカミュージックが本来予定していたその日付よりも先に終了することになってしまって。私自身、イノナカミュージックのプロジェクトの中で頑張ってきた感覚があったので、どうしよう? と考えました。あのときは、本当に不安や悩みが尽きない日々でした。
――AZKiさんにとっては、自分のホームがなくなってしまう経験ですもんね。
AZKi:そうなんです。でもそのときに、「イノナカミュージックはなくなってしまうけど、続ける道があるよ」とホロライブへの移籍を提示してもらいました。自分の中でもここで終わりたくないという気持ちがあったし、開拓者(ファンの総称)の皆さんに応援してもらったことを改めて思い出したりして、もうちょっと頑張ってみたいと思いました。これが3つ目の印象的な出来事で、今のルートに繋がる大きな分岐点だと思います。私の場合、他のホロライブメンバーとは活動形態が違っていたので、みんなにもなかなか相談できないし、どうしたらいいんだろう? と悩んでいて。でも、最後は自分がどうしたいかだから、応援してくれるファンの皆さんのことや、これまでやってきたこと、そしてこれからやっていきたいことを考えた上で、今に繋がる決断をしました。
――開拓者の皆さんの存在が、ルート分岐に大きな影響を与えたんですね。
AZKi:みんながリアルライブを通じて会いに来てくれた記憶が忘れられないし、また会いたいなと思っているし、そのためには活動を続けなければ会うことはできないし。そういうことが、私にとっては「これからも頑張っていこう」という気持ちになれる理由になったんです。
――これまでの活動はAZKiさんにとってどんな時間だったと思っていますか?
AZKi:振り返ってみると、本当に変化の多い時間だったと思います。いろんな分岐点があったけれど、その分岐点の中で、今に続くルートに立てているなとも思っています。
「大変だったことやネガティブなことも、音楽でなら伝えられる」
――では、メジャーデビューEP『3枚目の地図』について聞かせてください。AZKiさんの活動がこれからも続いていくルートに入ったことは、瀬名航さんが作詞・作曲・編曲を担当した今回のリード曲「エンドロールは終わらない」にも色濃く反映されている印象がありますね。
AZKi:そうですね。「エンドロールは終わらない」はまさに、「AZKiのこれまでのことが知りたかったら、この曲を聴いてください!」というような、今までを全部詰め込んだ楽曲です。ビクターさんと打ち合わせをしたときに「どういう曲を作りたいか?」という話になったんですけど、改めて振り返ってみても、たとえば「いのち」のようにAZKiの曲の中で皆さんが気に入ってくれている、自分にとってもターニングポイントになったような曲は、いつも瀬名航さんに作っていただいていたので、「今回も瀬名さんに1曲お願いしたい」という話をして。そうしたら、瀬名さんも交えて「AZKiさんが今考えていることを一度教えてほしいです」という曲作りのための会議をすることになりました。
――配信でもおっしゃっていましたが、曲作りのために瀬名さんやスタッフさんと2時間ほどの大会議をしたそうですね。
AZKi:はい(笑)。この約4~5年間で思ったことを、いいことだけじゃなくて大変だったことも含めて、曲で伝えられたらいいなと思っていました。ネガティブなことって言葉にしちゃうと「大丈夫? どうしたの?」と相手を心配させちゃいますけど、音楽に昇華すれば、それをちゃんと伝えられると思ったんです。なので、瀬名さんに今までどんなことがあって、どんなことが辛くて、どんなことが嬉しかったかを全部お話しして、それを踏まえて「こんな歌詞や曲調はどうでしょう?」とデモを上げていただきました。実際に聴いてみるとそのすべてを詰め込んでいただいているというか、見事に曲として表現していただいていてとても嬉しかったです。特に、私は最後の〈今日も音楽に救われて僕は生きている〉という歌詞が好きです。自分も振り返ってみるとそうだったので、私の音楽も誰かの心に届いて、それが救いになったり、ちょっとでも誰かを励ましたりできたらいいな、と思っています。
――この曲のボーカル面で意識したことはありますか?
AZKi:この曲は言葉を詰め込んでいただいたので、全体的に歌うのが難しかったんですけど、特に〈何度願い/何度滲み/何度怒り/何度嘘をついてしまったんだ〉というところは結構早口なので、レコーディングで噛み噛みのテイクを作ってしまいまして……(笑)。「思うように歌えない!」と何度も練習しました。その中で、「ぽつりぽつりとつぶやくように歌おう」とか、「辛いパートだからここまでとは温度感を変えよう」とか、感情が見えるようにいろいろと試行錯誤しながら、淡々と歌う部分とは変えて、緩急をつけて歌うように工夫していきました。
――ライブでもそうですが、「いのち」のような他の曲も含めて、AZKiさんは歌の感情表現に非常に長けている印象があります。このあたり、何か意識していることはありますか?
AZKi:私は歌を歌うのがもちろん好きですけど、幼少期は声優さんに憧れていたこともあって、実は演技をするのも好きなんです。感情を込めて何かを伝えることに憧れを持っているというか。それがきっと、歌のところでも引っ張られてきているのかなと思います。やっぱり、歌にとって感情表現ってすごく大事だと思うので。もちろん、やりすぎてもよくないですけど、例えばライブなら、そのとき思っていることや感じたことをそのまま歌に乗せて表現したいから、それが表れているのかなと思ったりはします。
――そういった意味でAZKiさんが憧れているアーティストはいますか?
AZKi:小さい頃は水樹奈々さんの曲をたくさん聴いて、歌の上手さや表現力を真似していた時期がありました。Vsingerとして活動している花譜ちゃんも、同じバーチャルな世界で歌を歌っている人として、ずっと初期の頃から大好きな人ですね。感情を込めて歌っているアーティストが大好きなので、いいなと思ったらいろいろ研究したりもします。