Official髭男dism「Chessboard」「日常」レビュー:“人生”と“1日”を描いた2曲、構造とアレンジを駆使して伝える歌の核心

ヒゲダン『Chessboard/日常』レビュー

 Official髭男dismのCDシングルとしては『Universe』(2021年2月24日リリース)以来となる『Chessboard / 日常』が、9月13日にリリースされた。第90回NHK全国学校音楽コンクール中学校の部課題曲である「Chessboard」と『news zero』2023年テーマソングである「日常」、細部に宿るこだわりが光る各々の楽曲での試行と特徴を見ていこう。

 一聴した際は淡々とした王道曲という印象を持った「Chessboard」。しかし、聴けば聴くほど味わいを増すスルメ曲とも違う、聴くたびに新しい発見のある曲の構造の底知れなさに感銘を受けた。先に抱いた印象はこの曲がメインテーマを繰り返す構成であることに由来する。このメインテーマは人間の誕生から、今現在までの足跡を辿る体感を得られるという意味で非常に効果的だ。繰り返されるメロディもクラシックと日本の唱歌を思わせる素朴さが相まっており、目的地はわからないながらも人生の一本道を歩いている心持ちになる。Bメロでは時々起きる他者からの作用や偶然(〈不意に誰か隣に来て〉や〈綿毛みたいに風に任せ〉)の擬似体験を増幅させ、シアトリカルでドラマティックなCメロ(〈大きな歩幅で ひとっ飛びのナイトやクイーン/みたいになれる日ばかりじゃない〉)で、乗り越えられない壁に煩悶する時の苦しささえ体感してしまう。そしてここまでの逡巡を俯瞰で見るようなコーラスで歌われるDメロ(〈美しい緑色 こちらには見えているよ〉)で他者が見守っていてくれたことに大きな安堵を覚え、再び現在地を歩いていくようなメインテーマに戻る。

Official髭男dism - Chessboard [Official Video]

 構成が作り出す時間経過とともに、人生の場面の変化を体感させてくれる要素として、アレンジの役割もすこぶる大きい。インタビューやこの曲のMVのメイキングでも語られているが、セクションごとに使われている楽器が変わったり、ギターフレーズが生音そのままだったり、DAW上で処理された音として貼られていたりするのだ。

 最初のヴァースではピアノとギターを処理したSEのような音が背景でうっすら鳴り、たった一人で生まれて、歩き出したばかりのイメージ。続くBメロでバイオリンベースとカホン、アコギが入ることでオーガニックな聴感になり、いわゆる2番と呼べる箇所ではブレイクビーツ、楢﨑誠(Ba)によるベースはシンセベースに変化し、ビートがオフになるセクションで木管の響きが際立つ。クラシカルな音色は合唱曲との親和性の高さももちろんあるが、個人的には森の中を歩いてきた先で太陽の光が差すような温もりを感じた。〈空中からじゃ見落とすような小さな1マス そこであなたに会えたんだ〉という歌詞にあまりにもハマる。

 ここから大きな鍵になっているのが、やっと登場する松浦匡希(Dr)によるバスドラムの圧で、ここから生のビートに変化し情景を変える。ブライアン・メイを彷彿とさせる小笹大輔(Gt)のギターサウンドがトリガーになって、ストリングスもドラマチックな盛り上がりを鼓舞していく。さらに大団円のコーラス部分は自然なバンドサウンドへ。そして最後に戻ってくるメインテーマでは1オクターブ上の藤原聡(Vo/Pf)のファルセットとピアノ、まるでソロのようなギターフレーズで締めくくられる。今回のギターは小笹が各セクションごとに何本か弾いたフレーズをエディットしたものだが、ラストのフレーズはまるで間奏で弾くギターソロのイメージでありつつ、歌に寄り添い、ともに歌っているように聴こえる。なんとも配置が見事だ。

 ミディアムスローかつカノン進行にも似た構造を持つ曲は冗長になりがちだが、構造とアレンジを駆使することで一貫して伝えたかった歌の核心を貫いたと言えるだろう。彼らのミディアムスローにはこれまでも「Laughter」や「アポトーシス」など、腹の底から揺さぶられる曲が存在するが、「Chessboard」という新たな大曲が加わった。

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