Official髭男dism、日本武道館で迎えた結成10周年ツアーファイナル 積み重ねた日々が証明するバンドとしての強さ

ヒゲダン結成10周年ツアーファイナルレポ

 Official髭男dismが2022年9月28日のリンクステーションホール青森からスタートした『SHOCKING NUTS TOUR』を2023年2月16日の日本武道館公演で完走した。本来、ファイナルは2022年12月22日の仙台サンプラザホール公演だったが、延期となった大阪と、追加公演を含む東京公演が2023年に入ってから開催。奇しくも結成10周年のツアーのファイナルを日本武道館で締めくくることになったのだ。

 全国ホールツアー、結成10周年という背景もあり、新旧織り交ぜたセットリストや、公演地の話題も盛り込んだ楽しくて和やかなツアーという印象をSNSに投稿されるファンの感想から得ていたのだが、改めてコロナ禍の中、幅広いファン層を抱える彼らが選択したルールへの揺るぎなさも、明確になったと思う。

 ステージ後方も開放した半ばセンターステージ状の武道館は、2019年の同会場での初公演(『Official髭男dism one-man tour 2019』追加公演)を思い出させる。東海道新幹線の遅延などの影響で、開演時間を15分遅らせてスタートしたこの日の1曲目はいきなり「Pretender」だった。その後も「I LOVE...」でのクラップの大きさや「Tell Me Baby」のイントロへのビビッドなリアクションがステージにエネルギーを送る。

 藤原聡(Vo/Pf)が振替公演であるこの日のライブに足を運んでくれたファンに謝辞を述べ、タイトルどおり、セカンドラインのリズムが刻まれる「Second LINE」へ。曲中のオーディエンスの反応のよさに、インディーズ楽曲も広く聴かれていることを実感する。グッとスキルを上げた楢﨑誠(Ba/Sax)のランニングベースに驚き、360°からの視線にアピールするサポートメンバーのタフさも加味され、あらゆる世代が楽しめるショーを展開している。

 続く「ビンテージ」での小笹大輔(Gt)のスライドギターも明快に聴こえて楽しい。さらにリクエストが多かったと思しき「LADY」は藤原のトップノートと松浦匡希(Dr)のタムロールがラブソングのカタルシスを最大限に表現。最近の楽曲では抽象度の高いラブソングが多いが、歌詞で胸が苦しいほどの気持ちを綴ったラブソングである「LADY」はライブの中にみずみずしい感情を加えてくれると強く感じた。

 ロマンチックなムードから一転、小休止に各メンバーのコーナーも。山崎まさよしになりきった“楢﨑まさよし”による「One more time, One more chance」をフルコーラスの弾き語りで披露。本来、笑いも誘われそうな場面だが、最後までなりきりで通した楢﨑には頼もしさしか感じなかった。

 ステージに戻ってきた藤原が、「デビュー前、島根にいた頃はライブをするために新曲を作っていた」と、楽曲をライブで育ててきた時期を振り返り、未発表の新曲「風船」を披露する流れに。素直な8ビートナンバーだが、サビの中でふわっと高さが変わるメロディがタイトルのイメージとフィットしていた。続く「Choral A」ではホーンセクションとパーカッションが映画のサントラのようなレンジの広がりを見せ、曲の後半では楢﨑もバリトンサックスにスイッチして、さらに華やかなアレンジに。ビッグバンド・ジャズのテイストは「夕暮れ沿い」に繋がっていき、そのイメージに終始しない小笹のフリーキーなソロも効果的だった。

 そこから独立したパートのように「Subtitle」の歌い出しが会場を集中モードに一変させる。歌のフロウが作り出すグルーヴと、まるでストリングスのメロディのように上がっていく音階というアイデアに改めて驚かされた。同時にエレクトロニックな抑揚をバンドでものにしたという意味では、「I LOVE...」から続くヒゲダンのポップスに先鋭的な部分を溶け込ませる手法の何度目かのアップデートを実感することにもなったのだ。全体を通して過剰な演出がないライブだったが、このメガヒットナンバーの披露の際もスケールは大きいが繊細な光の演出で、楽曲の持つ季節感と誠実さが増幅されていた。

 再びの小休止パートでは小笹が「学園祭でやってた曲を聴いてください」と、いわゆる“カノンロック”と呼ばれる、「パッヘルベルのカノン」のハードロックアレンジを披露。マイナー転調が隠し味になっていた。途中で藤原が戻り、ピアノで参加していた様子はおそらくアマチュア時代のセッションと変わらない場面なのでは、と思わせた。その流れで、この10年をさらっと振り返るMCが。曰く島根の廃工場で練習していたこと、上京後、メンバー全員で暮らしていた“ヒゲダンハウス”のお隣さんが今日、観に来ていること。そして、その頃からバンド活動を応援してくれていること。そうした日々の積み重ねを思うと、このバンドはたやすく揺らぐことはないと確信するのだ。

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