アーティストの新しい扉を開くケンモチヒデフミの楽曲 リスナーに驚きを与えるプロデュースワークの特徴を考察
asmiが8月30日にシングル『破壊前夜のこと』を発売。今作収録曲の「妄想脚本執筆活動」を手がけているのがケンモチヒデフミだ。
ケンモチは水曜日のカンパネラのトラックメイカーとしても知られているが、6月にリリースされたanoの「スマイルあげない」など他のアーティストにも積極的に楽曲提供をしている。本稿では進化を続けるケンモチのプロデュースワークの魅力をまとめていく。
ケンモチのプロデュースワークの魅力を語るには、水曜日のカンパネラの存在が欠かせないだろう。エキゾチックな音の響きや独創的なリリックで、今も多くのファンを獲得し続けている。ユニットの代表曲の1つ「桃太郎」は、どこか哀愁漂うメロディに辛辣な歌詞がミックスされ、シュールな空間を作り出している。曲の終わりを認めたくないような、まだこの世界に浸り続けていたいような感覚に襲われる不思議な楽曲だ。
2021年にはボーカルのコムアイが脱退し、詩羽へとバトンタッチ。その後2022年5月にリリースした「エジソン」はTikTokを中心にバイラルヒットを起こした。大衆に刺さるクラブメロディに加え、〈発明してえ〉のフレーズが繰り返されるたび脳が幸福感で満たされていく。
今年の夏の始まりと共にリリースされた「マーメイド」は、音楽フェスをテーマにしたエモーショナルな作品。全体を通してスローテンポな雰囲気でありつつも、変化する詩羽の歌声が真夏のライブへの高揚感を誘う。各地のフェスで観客が波のように揺れる姿が目に浮かんでくる。
ケンモチが打ち出す水曜日のカンパネラのメロディは、奇想天外な音の組み合わせが引き起こすグルーヴ感と、圧倒的な遊び心が魅力だ。
ケンモチのプロデュースワークは、彼の新しいものを求め続ける好奇心が続くかぎり、終わりを迎えることはない。本人が自身の音楽を「組み合わせの暴力」(※1)と称しているのがその証拠だ。
例えば、xiangyuに提供している楽曲は、まさに我々の脳裏にガツンと刺激を与えてくれるものが多い。タイ料理をテーマにした「プーパッポンカリー」では、南アフリカ発祥のハウスミュージックであるGqomを組み合わせ、多国籍感を出すことに成功した。結果、ダークなサウンドが聴く者に小気味よい混乱をもたらしている。
ソロで発表しているインスト作品でも、自身の積み上げてきた音楽性をベースに、シカゴ発祥のクラブミュージックであるJuke/Footworkを積極的に取り入れた。誰も試したことがないであろう自由なトラックメイクを耳にすると、「組み合わせの暴力」という表現が腑に落ちる。