アツキタケトモが柴那典と語り合う、音楽におけるデザイン性の重要さ 「自演奴」にも表れた最新モード

アツキタケトモ×柴那典、音楽のデザイン性

二人が感じるTikTokとTwitterの違い

紫 今「凡人様」

柴:紫 今はimaseさんが紹介していたんですよね。聴いてみたら不思議なセンスの持ち主で。アツキさんが言ったような、表現のファーストステップとしてSNSがあるのが当たり前であること、デザイン性の高い音楽であること、動画と音が最初からリンクしていることも当てはまる。リバイバルというのもあるんだろうけど、「凡人様」のUKガラージ/2ステップはNewJeansもそうだし、ある種2022年〜2023年にかけてのトレンドなんだと思っています。

アツキ:僕は「ゴールデンタイム」をTikTokで見てから、EP『Gallery』を聴いてすごいなと思いましたね。この人もデザイン性が高い。2ステップを意図的にやってたとしてもそう見せない、ポップでライトに聴かせながら、聴く人が聴けばトレンドを感じさせる、その絶妙な取り入れ方と、あとはシンプルにトップラインを書くのが上手いなと思いました。

市川空「ひどく幸せな夢」

アツキ:単純に僕が市川さんを選んだのは、柴さんに市川さんを聴かせたかっただけなんです。このアルバム『原石!!!!!!』、マジでヤバいです。

柴:聴いてぶっ飛びました。ジャズの人なんですよね。

アツキ:ジャズピアニストなんですけど、作曲家としてもすごい方なんだなと。聴いたら一発でブッ刺さって、本人にDMをしました。今年聴いて一番衝撃を受けた作品で、もっと広がるべきだと思っています。例えば、長谷川白紙さんが出てきた時にも、もちろんヤバいなとは思ったんですけど、僕自身の趣向がポップス、メロディの人だから、そのアート性にちょっとハードルが高く感じちゃったところもあったんですよ。市川さんの作品は、そこを両立させていて、メロディのキャッチーさ、ツボを押さえてくるバランス感覚がありつつ、コード感やリズムの捉え方は前衛的っていう、これまでいなかった人だと思ったんです。その構築度の高さに感動しましたね。

柴:アツキさんに刺さった理由を勝手に推測すると、言葉がいいんですよ。歌謡性がある。戦後の歌謡曲って、ジャズの素養がある作曲家が作ったものでもあって。市川さんの作品は、みんなが歌謡曲だと思っていない歌謡曲を実験室で作っているような、個人の一室で出来上がったすごいものみたいな感じがします。

柴那典

崎山蒼志「覚えていたのに」

柴:最近、崎山蒼志さんにインタビューをしたんですけど、話を聞いたら上京したのがまさにコロナ禍の始まりくらいだったと。高校を卒業したタイミングでは人に会えなかったけど、ようやく同世代の音楽仲間が増えてきたという話をしていたんです。「覚えていたのに」には共同編曲にKabanaguさんが入っていて、繋がったのはTwitterだと言っていたんですよね。SNSには「1対n」での誹謗中傷とか炎上というような攻撃と防御みたいなところをどうしてもイメージしてしまうんだけど、知らない人と繋がるツールとしての使い道があるからみんなSNSを捨てないんだよなって思うんです。そもそもは人との出会いの方に可能性を感じて始めたはずだし、それは今もそこら中に転がっていて、オープンに好きなもの、刺さったもの、これはヤバいと思ったもので繋がれるのがいいはずなんですよね。

アツキ:ここまで言った曲を知ったのも全部Twitterだったりするし、そういう意味では音楽との出会いの場でもある。次のアルバム制作に向けて、そうやって知り合った市川さんとも何かやれたらいいなって思っていたりもするし、SNSで繋がっていいなと思った人のサウンドを自分の曲に取り入れていこうと思っていたりもしています。だからこそ「自演奴」のような、昔の曲でいえば「ヒーローショー」もそうなんですけど、なぜ僕がSNSのシリアスな側面を歌うかって言ったら、そういうツールじゃないでしょっていうことを言いたいんだと思います。素敵な出会いとか、音楽家としての今はSNSがなければ存在していなかった部分が大きいし、SNSがあったから今、世の中に届いている素敵なアーティストも多くて。本来はそういうツールなはずなのに、なんでそういう方向になっちゃうのっていうことへの懐疑心だったり、怒りみたいなものがSNSへのシリアスな側面を歌わせるということなのかなと思いました。

トロイ・シヴァン「Rush」

アツキ:音もMVもジャケもここまで振り切っていたら10年前は色物として見られていたと思うんです。マジョリティの目線から見たマイノリティとしての今というか、一つのクリエイティブとしてちゃんと見られるようになったっていう意味では、意識のアップデートが進んでいるのを感じたし、それをやれちゃうアーティストとしての懐の深さ、強さみたいなものに憧れて、カッコいいなと思いました。

柴:歌詞や曲調はセクシャルなんだけど、それをいい意味でストレートに表現してる気がしますね。

アツキ:どちらかと言えば、同性愛の歌詞はシリアスな、というかマジョリティの恋愛とは別物として取り上げられがちだったけど、このテンションでできるようになったのは進んでいるなと感じられて嬉しかったんですよね。最近TikTokを見ていると同性間の恋バナ的な投稿を見る機会も多くて、きゅんとするんですけど、そのきゅんはセクシャリティ問わず共通なものなはずで、Twitterと比べてのTikTokの方がもっとライトにそれぞれの表現が並列してある気がするんです。

柴:TikTokって何かに怒ってる人っていないですよね。ムードが違う。今Twitterは過渡期だと思いますよ。人が離れられないのも分かっているし、悪い感情っていうのは中毒性があるものだから、その快楽性もある。同じSNSでも違う感情、切り取られ方がある気はしますね。

アツキ:悪いことへの快楽性みたいなことが「自演奴」の主題テーマで、そこのしょうもなさを歌いたかったんですよね。〈ああ イク イク〉という歌詞が入ってるのも快楽性で、「結局その行為って何を生むの? その後のお前には何もないよね?」ってことを一番言いたくて。快楽性に対する批判なんだなということを今感じましたね。

――互いに4曲ずつ紹介し終えましたが、何か共通性みたいなものは見えましたか?

柴:ここまで話し合ってきた中で、出てきたキーワードにはデザイン性がありますよね。d4vdとか、紫 今、崎山さんもそうだし、シンガーソングライターは生身の歌にギターやピアノというのがずっと主流だったけれども、今は音をデザインしてその中に自分をどう当てはめるかっていう発想の人がどんどん出てきている。そういう人を結果的に選んでいた気がします。

アツキ:デザイン性は今の僕の最重要テーマで、これまではシンガーソングライター脳が強すぎたっていうのもあると思うんですね。今は分業していたことが一人でもやりやすくなっていて、どんどん自分のイメージを伝えやすくなっている。そのデザイン性への関心が高いからこそ、そういった選曲になってるのかもしれないですね。

――最後にアツキさんの今後のビジョンを聞かせてください。

アツキ:昔よりもライブをやりたいって思っていますね。そこで良い形でライブをやるためにも、まずはアルバムを作って届けたい。制作においては自分が面白いと思ってるものをどうすればより人に伝わりやすくなるのか、そのデザイン性を高めていく。音もまた変わってきているような気がしています。よりキャッチーで攻めたもの、自分の中で面白いと思えた上でその面白さを損なわずに伝えられる作品を作りたいなと感じていますし、それが届いた先にライブパフォーマンスでより深い世界観を濃密に伝えたいなというのが当面の楽しみであり、目標ですね。

柴:「自演奴」を経ていろんなピースが集まっている感じもするし、「NEGATIVE STEP」も一個の鍵になっている気がしています。その先には祝祭的なものに振り切っていく可能性もある。「自演奴」にもいろんな手がかりがある気がするので、今後も楽しみにしています。

アツキタケトモ、柴那典

「自演奴」

■リリース情報
Digital Single「自演奴」
8月9日配信リリース
楽曲リンクファイア:https://atsukitaketomo.lnk.to/theend
MVリンク:https://youtu.be/G6matEzNi-U

公式サイト:https://atsukitaketomo.com/
公式Instagram:https://www.instagram.com/atsukitaketomo/ 
公式Twitter: https://twitter.com/atsukitaketomo
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@atsukitaketomo__

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