アツキタケトモが柴那典と語り合う、音楽におけるデザイン性の重要さ 「自演奴」にも表れた最新モード

アツキタケトモ×柴那典、音楽のデザイン性

Awich、d4vd、imase……SNSカルチャーと向き合った楽曲

――今回は「自演奴」の内容にちなんで、「SNSカルチャーとの向き合い方」をテーマに、お2人に4曲ずつ選んでいただきました。

<アツキタケトモ>
・Awich, JP THE WAVY, YZERR「GILA GILA」
・imase 「NIGHT DANCER」
・市川空「ひどく幸せな夢」
・トロイ・シヴァン「Rush」

<柴那典>
・アツキタケトモ「NEGATIVE STEP」
・d4vd「Here With Me」
・崎山蒼志「覚えていたのに」
・紫 今「凡人様」

Awich, JP THE WAVY, YZERR「GILA GILA」

アツキ:ここまで話してきたような衝動を表現する上で、自分にとっては中2の頃に聴いたRADWIMPSのアルバム『絶体絶命』が、感情とか吐き出せないものを全部代弁してくれた大事な作品だったり、リスナーとして、ロックにそういった役割を託してきた世代なんですけど、TikTokとか若者に流行るロックサウンドの曲ってラブソングが多い気がしていて。自分が強くなれたような気がする音楽というか、フラストレーションや衝動を代弁してくれるような音楽を今はどちらかというとヒップホップが担っている気がしています。僕が今、学校に通っているリアルなティーンではないから、実際のところは分からないけど、TikTokを見ている限りそんな逆転現象が起きてる気もしていて。「GILA GILA」はそう考えるきっかけをもらった曲でした。

柴:ロックバンドがライブの映像を縦画面でTikTokで切り出して、そこに歌詞を出すっていうのがひとつのフォーマットになってきていて。そこで抜き出される歌詞が、男性ボーカルが女性目線で書いた恋愛だったりする。そういう傾向は、去年ぐらいから続いてる感じはありますね。

d4vd「Here With Me」

柴:『フジロック』でライブを観て、音源と違っていてびっくりしました。アツキさんのライブとも絡んでくる話なんですけど、バンドセットだったんですよ。あれだけ打ち込みでチルでダークな音なので、どうやるのかなと思っていたら、ギター&キーボードとドラムと本人の3人だけ。

アツキ:ベースはいないんですか?

柴:ベースはいなくて同期で出してる。元々彼はビリー・アイリッシュの所属レーベル(「Darkroom」)から出てきているのもあって、いい意味での倦怠感が魅力なのかなと勝手に思っていたら、ノリが良くて、ステージではバク宙とかもしていて。予想とは違っていました。ただ、一つ思ったのは、曲が短いんです。d4vdもそうだし、TikTokで曲を発表して脚光を浴びて世に出てきた人って、展開しないんですよね。バース、コーラス、バース、おしまいというような。そういう曲が10曲ぐらい続くと、前菜がひたすら出てくるみたいな気持ちになる(笑)。もうちょっとガッツリとした展開のある曲もほしいなって、ライブを観て思いました。

アツキ:僕は最近そこがコンプレックスに感じていて、どうしても癖で展開させたくなっちゃうんです。いかに面白い展開を作れるかをやりたがって曲が長くなりがちなので、「NEGATIVE STEP」からは4分以内、できれば3分以内にしようかなって決めました。最近TikTokでバズっていた音田雅則さんの「fake face dance music」も2分30秒とかで、確かに前情報なしに知らない曲をサラッと聴く分には、2分半ってベストタイムなんですよ。

柴:TikTokで気持ちいい曲の長さって、3分だともう長い。下手したら1分台、2分30秒までみたいな感じがあります。

アツキタケトモ「NEGATIVE STEP」

アツキタケトモ

アツキ:d4vdと同じとまでは言わないけど、僕も打ち込みっぽいけど生のサウンドでライブをやってみて、「こんなにライブやれるんだ」「こんなに動ける、パフォーマンスへの意識がある人なんだね」みたいなことを言われて、評判がよかったんですね。「NEGATIVE STEP」はライブでやったら絶対楽しいので、そういうのを目論みながら作っているところはあります。フェスとかでいつかできるようになったら、踊らせたいです。

柴:「NEGATIVE STEP」はライブ映えしますよね。これってジャンル的には、ジャージークラブは意識しました?

アツキ:いや、意識的にはあまりなかったですね。ハイパーポップの方が、この曲を作ってる時は意識していたかもしれないです。

柴:曲の最後の方に入ってくる前のめりなリズムがいいなと思っていて、あのリズムはどういうアイデアからだったんですか?

アツキ:(デモを流しながら)元々はこんな細かめなリズムの刻み方だったんです。スタジオに入った時に、もっと爆発力がほしいという話になって、経さんがああいった盆踊りみたいなノリの方が踊れるということで変えていった感じです。

柴:これは個人的な感覚なんですけど、ハイパーポップがある種のトレンドとして世の中に広まったのはやっぱりパンデミックだったからだと思うんです。今はその揺り戻しで、肉体的に踊れる音楽の方が強くなってきている。そういう意味でも「NEGATIVE STEP」は爆発力あるダンスミュージックだと思ったし、それが正解な気がしました。

imase 「NIGHT DANCER」

アツキ:SNSとの向き合い方で言うと、imaseさんの世の中への出て行き方は、僕の世代からすると考えられなかった。imaseさんぐらいの世代にとってはSNSはそこにあるものとして投稿することが自然な動きになっている。結果的にはセルフプロデュースが成功したとも言えるけど、それはきっと意図だけでは説明できない自然な行為だった。これまでは、アレンジと作詞作曲は別物だったけど、今はアレンジも作曲の中に入っているぐらいにDTMが手頃になってきている。アレンジのハードルは下がっていて、どんどん形が変わっているなと感じたヒットソングですね。

柴:僕は職業柄、「NIGHT DANCER」がTikTokでバズって、それが韓国に広がっていったという結果から考えてしまうのですが、アーティストやクリエイターからすれば最初にポンッと投稿された時は、そういう現象が起こるとは誰も思ってないわけですよね。

アツキ:今はサンプルライブラリが出回っていて、音を作るだけだったらそれなりにできてしまう。カッコいいものを全部詰め込むのではなく、どう提示するかのデザイン性が良くないと今の時代は音楽としては評価されない。imaseさんはベッドルームポップを映像化していると思ったし、僕が頭で考えてやらなきゃって思っていることを、もっと前提条件として感覚的に捉えている世代間の違いを感じましたね。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる