アツキタケトモ×柴那典、『Outsider – EP』を通して語り合う“Z世代ポップスと現代社会” SSWの世界的な傾向と共通性も

アツキタケトモ×柴那典対談

 アツキタケトモが、6月29日に新作『Outsider – EP』をリリースした。同EPには、5月に先行リリースした「Outsider」を軸とした6曲が収録され、“歌謡と最先端の音楽を高次元で統合するシンガー”を掲げるアツキタケトモが現代社会の現実を深くえぐり出す、渾身のEPとなっている。

 リアルサウンドでは、かねてよりアツキタケトモに注目し、SNSで楽曲の魅力についても語っていた柴那典との対談を実現。新作についての率直な意見交換を導入に、アツキタケトモの音楽を通して見る“Z世代ポップスと現代社会”というテーマについて、両氏が選曲した作品をもとに忌憚なく意見を交わした。(編集部)

「僕はだいぶ古風な人間だなと思うことも多くて」(アツキ)

ーー今回お2人が会うのは昨年12月リリースの「Family」オフィシャルインタビュー以来ということですね。

柴那典(以下、柴):最初にアツキタケトモさんの音楽を知ったのはそれよりも遡る、「カモフラージュ」とか「悪者」がリリースされた辺りのタイミングだったはずです。言葉と音がどちらも刺激的で、ほかの誰でもないことをやっている。ただ奇をてらっているわけではなく、ポップスでありながら、先鋭的な音で、メロディはどこか郷愁を感じさせるようなものもあるという印象でした。

アツキタケトモ

アツキタケトモ(以下、アツキ):こうして信頼しているライターの方に自分の楽曲のことを言語で表現してもらえてありがたいです。新しいものでありながら懐かしさも感じられる、その組み合わせの仕方でオリジナリティを出すことを意識していたので嬉しいですね。

ーー柴さんは今回の『Outsider – EP』を聴いていかがでしたか?

柴:とても良かったです。先鋭的なサウンドプロダクションとメロディセンスの親しみの深さは最初からアツキタケトモの魅力としてあるなと思いつつ、EPのテーマとして「Outsider」という、つまりは疎外感を歌うことを掲げていることが胸に刺さったし、実はあまりこういうことを歌っている人がほかにいない。普遍的なテーマではあるんだけど、新しく、鮮烈なやり方でそれを歌っている気がしました。

柴那典

アツキ:周りのミュージシャンを見ていると、僕はだいぶ古風な人間だなと思うことも多くて。今の柴さんの話で言うと例えば“コンセプチュアルである”ということすら、現代においては絶妙なラインだと思います。昔だと、例えばプログレの作品などで、一作を通してコンセプトのある名盤があったけど、今の時代は1曲をフルで聴いてもらうことも大変なんじゃないかと思っていて。そもそもフルで聴かれることを前提とする姿勢自体が前時代的な考えかもしれないという、自分に対しての懐疑的な目は持っていたりします。それでも自分が影響を受けてきた音楽、そのアティチュードに惹かれてきたから、コンセプチュアルな作品を人生において一枚作っておきたい。それをやるとしたらメジャー一作目のタイミングだろうと。アーティストとしての姿勢を提示しておくことでそれ以降の幅も広げていけるんじゃないかな、ということを考えて今作を作っていました。

「アツキさんってどの括りにも入らないという感じはしますよね」(柴)

柴:「Outsider」で歌われている通り、アツキさんってどの括りにも入らないという感じはしますよね。だから、「Outsider」って言葉が浮かんだときに、アツキさん自身もこれだと思うことがあったんじゃないかなと。

アツキ:自分の人生において、本流じゃない感じは常にあります。「Family」の歌詞は半分実体験なんですが、いわゆる幸せな家庭ではなかったにしても、僕の家族には僕の家族なりの幸せがあった。それ以外にも、自分は就活もせず、一般的なレールには乗れなかったけど、今こうして、対談やインタビューという形で、自分の音楽を語れる場、その幸せがあったりするわけで。自分が本流だと思っている中にも本流じゃないものがあったりとか、一元的なものの見方で幸か不幸かは決められないっていうことを考えていたり、生きづらかったことが生きる上での重要なテーマになっている気がしていて。そこに「Outsider」という言葉が作品としてハマりましたね。

アツキタケトモ (Atsuki Taketomo) – Family [Official Music Video]

ーーオフィシャルインタビューでは、自分の本質をちゃんと提示できる、名刺代わりの1曲を意識的に作るべきだと思って完成させたのが「Family」だったと話していましたが(※1)、この「Outsider」もEPのリード曲であり、アツキさんにとって名刺代わりとなる楽曲ですよね。

アツキ:「Outsider」というコンセプトの中に「Family」もある。EPとして一つ軸となるテーマがあった方が、「Family」が「Outsider」のための曲だということが伝わりやすくなる気がしたんです。「Family」も名刺代わりとなる1曲ですが、作品性や自分の姿勢を示すために「Outsider」も名刺代わりに作った感じですね。アップテンポのダンスチューンにサラッと乗せてしまうことで、「Outsider」では振り切っていく印象を作りたかったし、一人でいる時より誰かといる方が孤独だということが、それだけを見たら悲しい事実かもしれないけど、だからこそーーという反語的なものを音のニュアンスでも伝えられるんじゃないかと意識して作りました。

アツキタケトモ (Atsuki Taketomo) – Outsider [Official Video]

“何者でなくてもいい”ということ

柴:シティポップとは全く違う形で都市をイメージさせるサウンドテクスチャーになっているのは特徴だなと思います。これを弾き語りでやったとすると、おそらく違うんですよね。「Untitled」はどういう風に作った曲なんですか? 僕はこの曲が一番好きです。

アツキ:ありがとうございます。締め切りギリギリに間に合うかなという、最後の4日間で一気に作った曲なんです。今回のEPの制作は「Outsider」というテーマで歌っていこうと決めた後のタイミングだったんですが、最後にコンセプトとして何を歌うべきか、という時に浮かんだのが“何者でなくてもいい”ということでした。SNSで自己表現できる時代になった今は、”僕はこういうことができるんです”を残せなかったら価値がないような、「いいね!」やフォロワーの数で人が評価されることがある気がして。そういったことに対して、一人ひとりがそれぞれの美学を持って生きているわけだから、別に何者でなくてもそもそもがあなたです、ということを最初に歌うことで、その後に並ぶ曲全てを肯定できると思ったんです。まずは、こうあらねばならないという縛りを外してからじゃないと考えられないなと。アレンジ的にも叫んでいるような世界観を作りたくて。曲中のデジタルクワイアはボーカルエフェクトというプラグインを使えば比較的に簡単に近い雰囲気を出せるんですけど、それだと個性やエッジが足りない気がしたので、あえてクワイアを作る用途ではない、ピッチ修正のソフトを使って、自分で細かくエディットしながらクワイアを作ってみたり、細部にこだわりを詰め込みました。

柴:サウンドにメッセージが込められていると思いました。〈別に何者でもなくてもいいんだ〉という歌詞の裏にある葛藤がボーカルの変調で表現されている。あと「Shape of Love」は現代的な曲だと思いました。EP全体で疎外感や孤独感を描いていて、「Shape of Love」は性的マイノリティについて明示的に歌っている。けれどマイノリティであることが疎外ということに結びついていない、むしろ疎外感が自意識のもう少し処理できない奥の方にある。これは現代的だと思ったんですよね。90年代よりもっと前の時代から今も変わらない問題ではあるけども、少なくともポップミュージック、もしくはポップカルチャー全般がマイノリティをどう扱うかについては、2010年代にひっくり返った気がする。レディー・ガガなどの登場によって。

アツキ:サム・スミスもですね。

柴:そう。そういった人たちがマイノリティについて歌ってきた。「Shape of Love」がマイノリティの恋愛について、幸せを貫いている歌であることでEP全体の説得力が増しているなと思いました。マックルモア&ライアン・ルイスの「Same Love」もそうだし、2010年代にあった楽曲を引き継いで、今の日本の状況において、歌っている気がしています。

アツキ:疎外されること=悲しいということにはしたくなかったんです。本流から逸れたから悲しいのではなく、そもそも本流とは何なのか? その意識を疑うことから始めたいと思っていて。もちろん法整備が追いついていないなどの社会的な問題はあるけど、本来、好きな人と結ばれることは幸せなことなわけですよね。マイノリティだから必ずしも辛い、というわけではない。逆にマジョリティだからといって無条件に運命の人に出会えるわけでもなくて。一つのカテゴライズでは幸か不幸かを決められないということはこのEPを通して歌いたかったことです。EPにはこの曲が絶対に必要だという覚悟を持って収録しました。

柴:ここからラストの「それだけのことなのに」を深読みしていくと、結局のところ疎外している人は誰か?っていうところに辿り着くんですよね。実は自分が自分自身を疎外している、そこに気づいた時に「Untitled」に戻ってくる。深い作りになっているなと思いました。

ーーEP全体で循環している感じがしますね。

アツキ:この曲が入っているからこの曲の説得力が増す、という相互関係の流れは意識して作りましたね。

『Outsider – EP』

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