小説家 三浦しをん、BUCK-TICKから受けた多大な影響 ツアーに通い詰めて感じた“バンドの真髄”や“愛すべき隙”
2022年にデビュー35周年を迎えたBUCK-TICK。これまでにリリースされたオリジナルアルバムの数は23枚にも上り、パンクやニューウェーブ、歌謡曲などの影響を独自に昇華した美しい世界観や、ロックバンドとして放つ妖艶でソリッドなオーラ、圧巻のライブ演出などによって、多くのリスナーを魅了し続けている。今年4月には最新アルバム『異空 -IZORA-』をリリース。それに伴うツアー『BUCK-TICK TOUR 2023 異空-IZORA』はまもなくファイナルを迎えるが、10月からは新たなライブハウスツアー『BUCK-TICK TOUR 2023 異空-IZORA- ALTERNATIVE SUN』も控えており、アニバーサリーを経た2023年も彼らの勢いは止まることがなさそうだ。
リアルサウンドでは、BUCK-TICKの魅力を著名人が語る企画を展開中。第4弾は小説家・三浦しをんが登場。2000年に小説家デビューを果たし、2006年に『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞を受賞して以降も、『舟を編む』『あの家に暮らす四人の女』『ののはな通信』など数々の代表作を生み出し続けている。そんな彼女も学生時代にBUCK-TICKと出会ってから、欠かさずツアーに通い続けているほど筋金入りのBUCK-TICKファン。彼らのバンドとしてのスタンスや歌詞の世界観などは、小説の作風にも少なからず影響を与えているのだという。楽曲、ライブ、歌詞、そしてメンバー一人ひとりの魅力に至るまで、たっぷりと語ってもらった。(編集部)
「『狂った太陽』にはBUCK-TICKの決定的な何かが表れていた」
ーー14歳の時にBUCK-TICKの5thアルバム『狂った太陽』(1991年)に出会ったそうですね。きっかけは?
三浦しをん(以下、三浦):当時、X(現 X JAPAN)をはじめとするヴィジュアル系がすごく流行っていて、ちょうど近所にレンタルCD屋さんができたので、洋邦問わずいろいろなCDを借りて聴いてたんです。もちろんBUCK-TICKのことはそれ以前から知っていたんですけど、ちゃんとアルバムを聴いてみようと思って『惡の華』(1990年)と『狂った太陽』を借りたんです。それで『狂った太陽』に衝撃を受け、「このアルバム、本当にすごいし大好きだな」と感じました。ーー何か特別に惹かれた理由があったんでしょうか。
三浦:それまでBUCK-TICKはヴィジュアル系だと思っていたんですけど、音の風合いや歌詞の世界観が予想とは全然違ったんですよ。そこからですね。私が通っていた中学校はめちゃくちゃ校則が厳しくて、外れたことを許さなかったんです。だから余計にヴィジュアル系とか好きだったんですけど(笑)、ジャンルが何なのかなんて、もうどうでもよくなって、とにかく『狂った太陽』は音がめちゃくちゃカッコいいなと思って。ちょっとノイズっぽい感じとか、そういう音楽を全然知らなかったから、「あれ、騒音が入ってる?」みたいな(笑)。あと、すごく切実なものが『狂った太陽』からは感じられて。無理して周りに合わせたりしなくていいんだ、自分の中に暗いものがあってもいいんだって、心強い気持ちがしたんですよね。
ーー『狂った太陽』の中で、特にお気に入りの曲はありましたか?
三浦:「JUPITER」とか「さくら」が中学生当時の私には“ズキューン!”でしたね。今は「MACHINE」が好きです。『風が強く吹いている』(2006年)という箱根駅伝を題材にした小説を書いたんですけど、その時の自分の中でのテーマ曲は「MACHINE」でした。クールだけど激しい疾走感と、自由を希求する感じがすごくいいなと。BUCK-TICKのアルバムはどれを聴いても、本当に個性的だし面白いなと思うんですけど、特に『狂った太陽』にはBUCK-TICKの決定的な何かが表れていて、その後の方向性が変わったアルバムかなと個人的に思っていて。それぐらい切実な思いが感じられましたね。
ーー『狂った太陽』からサウンド的にもアグレッシブになっていくので、その予兆を感じていらしたんですね。
三浦:そうかもしれないです。BUCK-TICKはアルバムごとに、音楽的なアプローチが全然異なるじゃないですか。でも何をやってもBUCK-TICKの音、BUCK-TICKの世界観が確固として築かれているなとも思う。世の中にはこういう音楽があるのかと、BUCK-TICKを通して私はいろいろ教えていただいた気がします。
ーーそこからBUCK-TICK一筋になっていくんですね。アルバムを買い続け、ライブにも随分足を運ばれているそうで。
三浦:もちろんですよ! 『狂った太陽』を聴いた時は中学生だったので、新作を買いたくてもお金がなくて。しかも高校生になってもバイト禁止の学校だったんで、稼ぎようがないからお年玉を貯めました。中学生の時は親から、「ライブに一人で行っちゃダメ」と言われていて、たしか高校1年生の時に、ようやく行けたライブが『Climax Together』(1992年9月/横浜アリーナ)だったんですよ。それでまた「超カッコいい!」と思って。作り込まれた世界観というか、1つの舞台のような構成といい見せ方といい、本当にすごいなと思いました。それまで、泉谷しげるさんのライブぐらいしか行ったことがなかったので。
ーーそれはまた意外ですが……泉谷さんのライブは禁止されなかったんですか?
三浦:父が泉谷さんの大ファンだから大丈夫だったんですけど(笑)。私も泉谷さんは好きだし、音楽もカッコいいと思うんですけど、ライブの見せ方はまるで違うじゃないですか。BUCK-TICKを観て「こんな世界があるんだ!」と思いました。それ以降はアルバムはもちろん買い続けてますし、どのツアーも1回は行ってますね。今回の『BUCK-TICK TOUR 2023 異空-IZORA』初日の八王子(J:COMホール八王子)は、どうしてもチケットが取れなくて、今回のツアーはまだ観れてないんです……不覚としか言いようがなく、本当に申し訳ない。最終公演の東京ガーデンシアターは2日間ともチケットが取れたので、万全を期すべく近くのホテルを予約しました。
ーーその情熱と行動力には頭が下がる思いです。『狂った太陽』以降にもお気に入りの作品はありますか。
三浦:もう、全部! 今回のお話をいただいて、改めて1stアルバムから通して聴き直したんですけど、本当に選べないんですよ! でも、(スマホを見ながら)ちょっとメモしてきたんですけど……『十三階は月光』(2005年)以降の流れ、と言うとかなり長いですが(笑)、本当に好きですね。『十三階は月光』後のアルバムの聴き返し率は特に高いです。
ーー『狂った太陽』から新しいものにチャレンジし続けて突っ走ってきた彼らが、『十三階は月光』あたりで自分たちらしさを改めて模索し始めたような印象がありますね。
三浦:ああ、本当にそうですね。『十三階は月光』は、それまでのBUCK-TICKの集大成的な世界観というか。ライブの見せ方も含めて、すごく美しくカッコよく極まったなという気がしたんですよ。だから「この後どういう展開になるんだろう?」と思ったら、『天使のリボルバー』(2007年)が出て、全くアプローチが違う上に、とんがりがより先鋭化している感じがまた衝撃的にカッコよくて。その後の『或いはアナーキー』(2014年)とか、『アトム 未来派 No.9』(2016年)とかもいいな……。あー、選べない! 『十三階は月光』以降のアルバムは、仕事中もエンドレスで聴いてます。今年の『異空 -IZORA-』もすごく好き。本当に素晴らしいと思います。
ーー雑誌『音楽と人』で『memento mori』(2009年)のディスクレビューを書かれていますね。ずっと聴き込んでいたことが伝わる愛の溢れる文章でした。
三浦:ありがとうございます。でも、あの時にうまく盛り込めなかったことがあって……私、勝手にBUCK-TICKの方たちって、ユーモアがあるというか、絶妙な“抜け感”があると思ってて、そこもすごく素敵なんですよ。ビシッと構築的なように見えるけど、演奏がすごく生っぽくて、システマチックな感じがしないんですよね。MCもたどたどしくて(笑)。これはディスってるんじゃなくて、皆さん人間味があるというか、あまり器用じゃない感じが信頼できるなと思っているんです。何でも要領よくサラッとこなせばいいやとは考えておられないからこそ、こんなに長い間、毎回新しいアプローチを探求しながら、同じメンバーで音楽を続けてこれたのかなと想像しますし、本当にすごいことだと思うんです。