『ボカコレ』だけじゃない、VOCALOIDシーンで発展する投稿企画 匿名投稿の『無色透名祭』やチーム制の『ボカデュオ』も
VOCALOIDは今や幅広い層に聴かれる音楽である。しかし他のジャンルと同じく、誰もが知るボカロ出身アーティストやSNSにおける人気曲は、あくまで氷山の一角でしかない。コアなリスナーのみぞ知る実力派クリエイターや、ディープなファンすらまだ知り得ない才能の原石は、広いインターネット中にごまんと潜んでいる。
VOCALOIDシーンのユニークな点として、そういった才能の発掘にカルチャー全体が意欲的な点がある。そのひとつが、ここ数年シーンの一大イベントとして位置づけられている『The VOCALOID Collection』(通称:ボカコレ)だ。イベントの一番の目玉は、ランキング形式のオリジナル楽曲投稿企画。期間中に投稿された新曲を、多角的な観点で数値集計し人気度を競うというものである。上位入賞者は一躍シーンを牽引する存在になると同時に、新たな才能を見つける場としての役割も、イベントの大きな開催意義となっている。
そんなボカコレの盛り上がりに追随するように、近年は有志が主催する楽曲投稿企画の開催機運が高まっている点も興味深い。イベントの中には一個人という主催規模にもかかわらず、時にシーン全体に波及する盛況を見せるものも存在する。ここで知名度を上げた面々が今後VOCALOIDシーン、ひいては音楽シーンの最前線に躍り出す日も遠くはないかもしれない。今回は、シーンの賑わいを創出するユニークな取り組みである、個人主催のボカロ楽曲投稿祭の一部を本記事で取り上げてみよう。
まず最初に紹介するのは、「すべてのアーティストが無名で集まる」をコンセプトにした『無色透名祭』。ボカロP・ちいたな主催の本イベントは、アーティストの話題性や知名度に影響されず楽曲を楽しむための匿名投稿企画である。有名Pの話題が先行する直近の潮流を良い意味で打ち砕こうとする姿勢に共感するリスナーらの支持もあり、2022年7月の第1回は大好評のうちに終了。2023年11月に第2回開催が決定している点からも、その注目度の高さが窺える。
本企画の魅力はずばり徹底した匿名性にある。楽曲制作者の情報を一切遮断するため動画サイトへの投稿はすべて主催サイドが行うことに加え、ボカロ曲にとっては重要なファクターとなる楽曲動画にも非常に厳格な統一ルールが敷かれるのだ。PV数等で作品の人気度合いは可視化されるものの、企画自体にはランキング・表彰制度は存在しない。また参加表明及び企画終了後の作品公表についても、制作者に一任される。そのため特定のボカロPの楽曲を予測するリスナーもいれば、予備知識なしで好みの新しいクリエイターや楽曲を一から発掘するリスナーもおり、様々な楽しみ方ができるのも人気の一因なのだろう。
続いて紹介するのは、ボカロPのみならず歌い手、絵師など関連クリエイターを大勢巻き込む投稿企画『ボカデュオ』。イベントの最たる特徴はチーム制の制作スタイルだ。投稿楽曲は複数人でチームを組んで制作した作品、というレギュレーションが根幹となり、企画への参加にはそのための仲間探しをSNSなどで行う必要がある。
“ボカロ曲を動画サイトに投稿すること”は、ボカロP一人の力で成し遂げられるものではない。ごく稀に制作全てを自らで賄う者もいるが、これまで大勢の人気ボカロPに長年タッグを組む絵師や動画制作者がいたこと、加えて楽曲の人気に火をつけた数多の歌い手がいたことは周知の事実だろう。近年では邦楽シーンでも、ジャンルの垣根を越えて集うクリエイティブチームがムーブメントの火つけ役となることも少なくない。本イベントを機に組まれたスクラムが、将来シーンを揺るがすビッグウェーブを巻き起こす可能性も十分に考えられるのだ。
今回開催の第3回は7月1日~7日が作品投稿期間となる。複数の才能がかけ合わさり生まれる大作を、ぜひこの機会に自らの目と耳で探してみては。