SHERBETS、温かな高揚感に包まれた25周年ツアー 鮮烈であり続ける4人の歩みが垣間見えたステージに
『SHERBETS 25th ANNIVERSARY TOUR「Midnight Chocolate」』、6月8日の東京公演で本編最後にプレイされた「シベリア」。この曲を聴いている間、自分の魂が、どこかまったく別の世界にある空間に連れて行かれたような感覚に覆われた。
「今日は本当に来てくれてありがとう。じゃあ超懐かしいやつをやります」
ベンジーこと浅井健一(Vo/Gt)がそう言って演奏を始めた「シベリア」は、バンドにとっては初期の楽曲で、これまでに幾度もパフォーマンスされている。しかしこの夜の「シベリア」はひときわイマジネイティブで、トリップ感が強かった。曲の後半に行くほどバンドは激しい音を叩き出し、ベンジーは張り裂けそうな思いを声に乗せていく。主人公の少年、シベリアに向かう飛行機、湧き上がる恋心。イメージとしてはとても美しい光景だが、しかしそこには狂気にも似た危うさもあって……その混沌も、SHERBETSの音楽の魅力だと体感した瞬間だった。
それからもうひとつ、壮烈な音に包まれたのは、アンコールの1曲目「Aurora Squash」だった。直前のMCでは福士久美子(Key/Cho)がこうしてバンドを、音楽を続けられていることが〈Lucky Dream〉だとこの歌の歌詞になぞらえて語り、ベンジーは「これから張り切って、みんなで今の時代を……行くしかないもんね。みんなそれぞれ、いろんな毎日があるのは当たり前だし。だから全員で、明るく元気にいこうぜ」と鼓舞するような言葉を観客に贈った。そうして突入した「Aurora Squash」は、不安でも、心もとない時でも、ポジティブに生きていくことを歌った曲。まったく素のままのようなベンジーのボーカルが終盤には高まりを見せ、広がり続けるサウンドと合わさって、オーディエンスを勇気づける塊へと転化していった。〈オーロラを胸に入れる/広がれ中で〉……そう、それこそ『AURORA』というアルバムや「シベリア」という歌、そして何よりSHERBETSというバンド名など、このバンドにはもともと寒い土地や冷たさを舞台にしたワードが多い。4人はその中で人間が持つ温もりや、ほかの誰かとの心の交流を描いてきたのだ。このように、今春リリースした最新アルバム『Midnight Chocolate』に収録されている「Aurora Squash」の演奏には、この4人の一貫した姿が見えるようで、とても感慨深かった。
この日は、とりわけ過去と現在が交差するような流れを感じるライブだった。開演時に流れたのは、ジュディ・ガーランドの「虹の彼方に(Over The Rainbow)」。古いミュージカル映画『オズの魔法使い』の劇中で流れる歌で、主人公・ドロシーを演じるジュディの声は、汚れのない心そのもののように響く。長年、SHERBETSのライブを彩ってきているオープニングSEである。
本ツアーは25周年を掲げているだけに、バンドの足跡があちこちに散りばめられたセットリストになっていた。特に際立っていたのが初期の楽曲のセレクトだ。「カミソリソング」とアンコールでの「三輪バギー」、さらに「シェイク シェイク モンキービーチ」は2001年に連続リリースした3枚のシングル群からのロックナンバーたち。また、アルバム『AURORA』からの「勝手にしやがれ」は、やはり寒さを感じさせる歌詞の中でベンジーのナイーブな側面が表現されたものである。
そして、今もってこの4人の鮮烈さを体現していたのは「水」だった。この歌は前身であるアコースティックユニット SHERBETの頃からの作品で、ここから発展したものがバンドとしてのSHERBETSへと形作られていったと言える。音楽的にも、また〈素直なその気持ち〉を大切にすることを歌った歌詞も含めて、このバンドの核になった曲なのだ。今夜の演奏ではセンシティブなベンジーのボーカルと、優しく、そして豊かにふくらむようなバンドサウンドとが溶け合い、その透明な高揚を受け継ぐように福士の美しいピアノとスキャットが響きながら、エンディングへと美しく導いてくれた。