浅井健一 & THE INTERCHANGE KILLS、研ぎ澄まされた3ピースのロックンロール 繊細さと豪快さが炸裂したツアーファイナル

浅井健一 、繊細さ&豪快さ炸裂のツアーファイナル

「今日は危険すぎる中、来てくれてありがとうね!」

 そう言ってオーディエンスに感謝するベンジー(浅井健一)。そう、世の中は新型コロナウイルス・オミクロン株の蔓延によってやや緊張感が漂っている。それでもこの夜、渋谷CLUB QUATTROに集まった人々は最高のエクスタシーを得ることができたに違いない。3ピース・バンドの興奮を存分に味わえたはずだから。

 2月11日、浅井健一 & THE INTERCHANGE KILLSによる『HUNDRED TABASCO TOUR』の最終日。辛いもの好きで知られるベンジーらしいツアータイトルで、来場者には彼によるイラストが印刷されたステッカーのプレゼントが配られた。そしてステージではこのバンドによる怒涛のロックンロールショーが繰り広げられたのである。

 開演SEでBee Gees「Melody Fair」(ベンジーが同名の曲を作ったほどお気に入りの映画『小さな恋のメロディ』の主題歌だ)が流れると、3人が順々に姿を見せる。1曲目は高松浩史(Ba)のベースラインから始まる「Watching TV ~English Lesson~」。KILLSではおなじみの曲だけにオーディエンスはスッと入っていけた様子で、声を出せない状況ながら会場の興奮度が上がっていく気配を感じる。この曲は基本的にインストなのだが、〈Watching TV〉というひとことをベンジーと高松が揃って叫んだり、小林瞳(Dr)がそっと口にしたりと、じわじわ迫っていく感じがたまらない。そして続く高速ビートの「Vinegar」で熱気は一気に急上昇。早々にこのバンドのロックンロールが炸裂した。

浅井健一

 スタート当初はKILLSのレパートリーがメインで、4曲目には「じゃあ次は新曲をやります」と言って「ラブソングが聴こえる」がプレイされる。出たばかりの曲なので当然ライブでは初見の客がほとんどのはずだが、フロアは大きなハンドクラップが起こるほど盛り上がる。そしてタイトなロックサウンドとベンジーからの警告のような歌詞が相まって、その場のテンションはぐっと引き締まったものになった。さらに、サーフロック的なイントロから入る「危険すぎる」でいよいよヒートアップ。言うまでもなく、当記事の最初に書いたMCはこの曲のタイトルに起因していて、そう言われて演奏されないわけがない。いつ聴いても、最高にスリリングなナンバーだ。

 ここでひと呼吸置き、メンバー紹介が行われる。ベンジーが「スーパーベーシスト、高松浩史! スーパードラマー、小林瞳!」とふたりの名前を言うと、小林が「スーパーギター&ボーカル、浅井健一」と続ける。拍手で湧き、なごやかな雰囲気である。

高松浩史

 そして、このメンバーたちの姿を見て、僕が改めて思ったことがある。ベンジーは3人バンドを自身の活動の中核にずっと据えていて、その快感を追求し続けているという事実だ。その発端は、加入からそろそろ1年が経つ高松によってバンドがどう変化したかを意識して見ていたことだった。KILLSの音楽性は、当然ながら、基本的に以前と同じではある。ただ、高松のベースプレイはしなやかさと力強さを兼ね備えたもので、それによってバンドの表現力が広がりを見せているように感じるのだ。また、小林同様、彼がコーラスワークをしっかり担っていることも見逃せない。

 そんなことを考えていたら、ついついベンジーが組んできたトリオバンド史を脳内で回想してしまったのである。その最初は言うまでもなくBLANKEY JET CITYだったし、その後のJUDE、しばらく空いてからのPONTIACS、そしてこのTHE INTERCHANGE KILLSと、彼の表現の太い幹は3人組のロックバンドであり続けている。もうひとつの重要な活動の場であるSHERBETSはキーボードありの4人だし、スペシャルバンドのAJICOも4人編成だ。また、ソロ名義での活動時のライブでは加藤隆志(東京スカパラダイスオーケストラ)や深沼元昭(PLAGUES他)といったギタリストを起用したこともあるし、これ以外にもアコースティックでのライブの際、やはりキーボードを入れた時もあった。ただ、こと自分でロックンロールバンドを組むケースでは常にトリオを望み、それも自身でギターとボーカルをやる前提は揺らいでいない。この最小限での編成によって自分が目指すロックンロールが形になる、という意識があるのだろう。

 また、そこでもうひとつ思い出したことがある。これは短期間だったが、ベンジーはTHE NOVEMBERSの小林祐介、BACK DROP BOMBなどで知られる有松益男(PONTIACSにも在籍)と共にROMEO’S bloodというバンドも組んでいた。2014年からイベント系のライブに数回の出演だけで休止してしまったため、熱心なファンでも観たことのない人が多いと思うが、その活動の中ではベンジーと小林祐介のどちらかがベースを弾いたり、当初はダークな音楽性だったのがベンジーの本分であるロックンロールに寄っていったりと、今思えば興味を引かれる動きも見られたものだ。そしてTHE NOVEMBERSとはこの頃から距離が接近したわけで、これが同バンドの一員である高松がKILLSに加入したことにもつながっているはずである(のちの取材時の雑談によれば、ベンジーはスタッフの勧めで彼とセッションし、手応えを感じたとのこと)。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる