SHERBETS、セッションで広がる4人だけの世界 浅井健一&福士久美子が語る、音楽を通して心を解き放つ大切さ
このところすさまじいスピードでライブやリリースを重ねてきたSHERBETSだが、昨年の『Same』に続いてのニューアルバム『Midnight Chocolate』が早くも完成となった(4月26日発売)。その間にリリースしたシングル『UK』からの曲は含まず、オール新曲による全10曲。それは最大の魅力であるセンシティブな世界を突き詰めながら、勢い溢れるバンドサウンドも轟かせた、心の深淵部にまで響く出来となっている。
とはいえ、昨年の終盤はベーシストの仲田憲市が激しい腰痛に襲われたために25周年記念ツアーへの参加が不可能となり、急遽の代役として宇野剛史を招いた編成で全国を廻るなど、決して順風満帆ではなかったのも事実。すでにリアルサウンドではその最中のインタビューとツアー初日の東京公演の模様をお伝えしているが(※1)、今回もその時と同じく、浅井健一(Vo/Gt)と福士久美子(Key/Cho)の二人に取材を行うこととなった。そしてこの新作とバンドの現状を語る二人は、すべてについてとても前向きに臨んでいることを表明してくれたのである。(青木優)
刺激的なツアーを経て、最高のものを目指した制作期間
ーー前回のお二人のインタビューの席で、ツアーに仲田さんが参加できないことを知りまして。それで記事では、その直後に宇野さんを迎えたツアー初日の渋谷でのライブが素晴らしかったところまで掲載しました。そのツアーは無事に完走できたようですね。
福士久美子(以下、福士):そう。剛史くんにはツアーの直前にいきなり頼んで、短期間で全曲覚えてもらったんだけど、1本目が終わって「行けるな」って感じがすごくしたんです。それからどんどん良くなって、バンドが違う生き物みたいになったし、ライブとしては新しい楽しさが出てきましたね。メンバーみんなが「何とかしなきゃ!」という気持ちだったし、剛史くんもすごく楽しそうにやってくれるから……楽しいツアーになったなと思ってます。
浅井健一(以下、浅井):そうだね。この場を借りて、剛史に「本当にありがとう」と言いたいね。俺たちが刺激を受けたよ。1本目の渋谷のアンコールが終わって、楽屋に帰って「お疲れ」って言ったら、剛史、デカい声で「めちゃくちゃ楽しい!」って叫んどったんだわ(笑)。それを見て俺も「マジ? やった!」って思いました。嬉しいじゃん、知らない世界からやってきた強者が初ライブで「楽しい!」って叫ぶなんて。ツアーをやるにつれてボルテージが増していって、すごく良かったね。
福士:本当にいい思い出だし、いい刺激を受けた。「こんなライブもあるんだな」って思ったな。
浅井:だから、あれは違うSHERBETSだね。今は仲田先輩とまたやってるんだけど、やっぱり先輩のベースはすごく良くて。今度は本来のSHERBETSに戻って、過去最高のステージをやろうと思ってるよ。それは剛史と経験したツアーがデカいんだよね。うちら3人はあのツアーでちょっと変わったんだわ。より自信みたいなものが出た。で、先輩も悔しいと思うんだよね。「俺がSHERBETSのベーシストだから」というのがあるから、ワンマンツアーに出られなかった自分が悔しいと思う。だから、あれを経験した3人と燃えてる先輩で(笑)、より最高のものを目指すのが今の状況だね。あのツアーの後に、このアルバムをレコーディングしてるからね。
ーーそうなんですね。そのぐらい最近作った作品であると。
浅井:うん、(2022年の)12月にみんなでリハに入って固めて、1月にレコーディングした。「優雅に行こうぜ」は去年の春ぐらいにできたやつだけど、ほとんど最近の曲だね。
ーーその「優雅に行こうぜ」はアルバム最後の曲ですね。とても印象深いです。
浅井:うん。みんな、そう言ってくれるね。
福士:そう、最後にあるのもすごく好きだし、この歌詞……〈優雅に行こうぜ〉という言葉が自分の心にもすごく来るいい曲だなって思ってる。
ーー前向きな気持ちにさせてくれる曲だと思います。
浅井:ありがとう。年齢も上がってくると……なんだか焦ったりする場面もあるんだけどさ、自分の中で。でもやっぱり「優雅に行ったほうがカッコいいな」と思う。ちょっと前から、ずっとそう思ってるよ。優雅でありたいね。全然、優雅じゃないかもしれないけど(笑)。
ーー焦りというのは、どんな?
浅井:俺のとんでもない性格に合う人が、なかなかおらんでね……インタビューでこんなこと言っていいんかな?
ーー(笑)。いいと思います。どこかにいますよ、きっと。
浅井:ただ、自由がなくなるっていう……(笑)。だけど、いたほうがいいんだよね。やっぱり。
ーーでは「優雅に行こうぜ」は自分に言い聞かせてるところもあるんですか。
浅井:もちろん! 「優雅に行かなくちゃ」「優雅に行こう」って、自分に言い聞かせてるね。俺、このアルバムができて、ちゃんと聴いてみたら、「これ、聴いた人は元気になるな」と思ったんだよね。だから広まってほしいな。
「気持ちを変えることが、運命を変える」
ーーあと、何と言っても1曲目の「知らない道」なんですけど。〈何かを なくしたってゆうことか〉と歌いながら、後半で〈はるかにあたたかな/何かに 気づいたってゆうことか〉と歌っていますね。
浅井:そう。〈はるかにあたたかな/何か〉に気づいた、だから〈OK そっちにするわ〉と言ってるんだよね。
ーーでは、この歌詞の最後の〈サンシャイン エナジーは無限〉みたいなことって、どういう時に感じます?
浅井:うーんと……そうだね。気持ちを変えることが、運命を変えるんだわ。心を変えることが、運命を変えることにつながってる。そこで変えるか変えないかを決めるのは自分だから……そこらへん、ちょっと無限に近くない? つまり自分次第ってことだよ。ダメだと思っちゃったら、もうそこでおしまいだし、「いや、絶対やるんだ」っていう気持ちが出てくるか出てこないか、出すか出さないかは、自分の意志に関わってくるじゃん。そこが分かれ目だよね。どっちに行くかの。
ーーなるほど。そこで〈そっちにするわ〉と。
浅井:うん、そう。この曲は、その言いっぷりもいいと思うんだよね。これがライブではどういうふうになるかだね。
ーーツアーの直後に録音したという話を聞いて納得したんですが、バンドとしての勢いというか、ノリがいい状態で出ている曲がありますね。もちろんメロウな曲やスローな曲もあるけど、全体的にはビート感が強めで。
福士:うん、スポーツ選手と一緒で、ツアー中は身体をずっと鍛えてるようなものだから、そういう意味ではスムーズにレコーディングできたんじゃないかな。ブランクを経て久しぶりに録るよりも、ツアーの流れで「身体できてます」みたいなところで。
ーーアルバムの中で、制作に苦労した曲はあります?
浅井:そんなこと聞くの(笑)? あ、「Aurora Squash」は一度録って、「何か違うかなぁ」と思ったのかな。俺、超酔っぱらってレコーディングに行った時があったんだけど、その時に「今だったら、もっといいのが録れる気がする」とか言って、何曲か録ったな。
福士:うん。「Aurora Squash」はもうOKなのかなと思ってたら、次の日にそう言ってきたもんね。
ーーそれはアレンジを変えたとかではなくて?
浅井:うん、じゃなくて。俺たちは、本当にみんなで「せーの」で録るから、毎回毎回でき上がるものが違うんだわ。クリックも使わないから、テイク1からテイク10まで、全部違う。そこから、どれが一番いいのかを決めるのが難しくてね……。
福士:テイク選びがね。歌も含めて、4人で録ったものから「このテイクはいいな」とか、「ちょっと違うね」とか。その辺りを何回も聴いて選ぶ。それから「Spread City」は最初、「どうしようかな?」と考えたな。ただ直球を投げてもおもしろくないなと思って……イントロからわりと王道な感じもしたので、そこからSHERBETSらしい感じにするにはどうしたらいいかなと思っていろいろ考えました。
ーーこの曲のイントロの部分からは、マッドチェスターの時代のロックを思い出しました。The Stone RosesとかThe Charlatansとか、強いグルーヴのあるUKロック。
福士:あ、The Stone Rosesとかね。うん。
浅井:ああ、そう……知らないもん、俺。
ーー(笑)。ということは、The Stone Rosesとかを意識したわけではないんですね。
浅井:名前は知っとるよ。
福士:ほかのメンバーも、当時から聴いてたりはしてるかもしれないけどね。
ーーだけど、序盤から違う展開になっていきますよね。
福士:「あれが好きだから目指す」みたいには作ってないからね。自然に全員の音楽が1つの形になっていくというか、グルーヴしながらセッションをするほど世界観が広がっていくから。
ーーそれこそ、王道のロックになっていないですもんね。
福士:うん、それは王道の人がやればいいのかなと思っちゃう。それは自分がやる意味はないし、今の自分がやることで意味が生まれるのであってね。で、(何かが)降りてくるのを待ってるようなところもあるんだけど、ただ待ってるわけじゃなくて……「何かないかな」って探しながらね。