SHIFT_CONTROL、研ぎ澄まされた自分たちらしさ 心境の変化が新たな引き出しに繋がった念願のフルアルバム
現体制で始動してから約4年、その間コロナ禍をくぐり抜けながら3枚のミニアルバムに成長を刻んできた4人組・SHIFT_CONTROLが、ついに初のフルアルバムを5月31日にリリースした。『MakeMyName』と名づけられたそのアルバムに刻まれているのは、ここまで挑戦を続けながら進んできたバンドの歩みであり、そしてここから未来へと広がる可能性だ。これまでに比べてもソリッドになったサウンドからは、曲を書くアサノチャンジ(Gt/Vo)とメンバーの間に生まれている強い信頼関係が浮かび上がる。その信頼関係を支えに、アサノの書く歌詞にも固い意思が宿っている。そんな力作を作り上げたアサノ、岡村耕介(Gt)、宮崎良太(Ba)、くまおかりお(Dr)の4人に、アルバムの手応えとバンドに起きた変化について語ってもらった。(小川智宏)
『MakeMyName』はあらゆる意味で現体制の集大成に
――SHIFT_CONTROLにとってはついに初のフルアルバムです。コロナ禍などいろいろなことをくぐり抜けながらここにたどり着いたと思いますが、みなさんにとってここまでの歩みというのはどういうものでしたか?
アサノチャンジ(以下、アサノ):やっとここまでこぎつけられたなという感じがします。バンドは長くやっているけど、13曲というボリュームでCDを作るのは初めてのことで、物量もそうだし、時間をみんなで捻出しながらコミュニケーションを取って「これがいい、あれがいい」というのをやりきってたどり着けたので、達成感はすごくあります。本当に大変な時もあって、「完成しないんじゃないかな」と思ったこともあったので、ホッとしているし、嬉しいというのが素直な気持ちですね。
岡村耕介(以下、岡村):1枚目のミニアルバム(2020年の『Afterimage』)を出して「よし、じゃあツアー回るぞ」という時にコロナ禍に入ってしまって、出鼻を挫かれてしまったんですよね。でもこうして今、コロナの規制が少しずつ緩和されてきた中でのアルバムリリースなので、ここから心機一転で頑張れるんじゃないかなと。この3〜4年くらいもどかしい時期があったので、感慨深い、渾身の1作になりました。
アサノ:タイミング的にはめちゃめちゃいい時だよね。ちょうど今月(5月)はライブが多いんですけど、お客さんのマスク着用が個人判断になったり、声を出すのもOKになって。その雰囲気がライブをしていても目に見えて分かるので、この夏から満を持して攻め始められるんじゃないかなと思っています。
――くまおかさんはバンドに入ってからここまでの歩みを振り返っていかがですか?
くまおかりお(以下、くまおか):僕が加入して今の編成になったのは2019年なんですけど、個人的に僕は高校を卒業して上京してから、今年で10年目くらいで。このメンバーやバックアップしてくれる事務所と出会えて、やっとここまでこれたっていう感覚が大きいんです。1作目を出した時はみんなが言っていた通りコロナで出鼻を挫かれて、個人的にも「やっとここまで来たのにまだ壁があるんか」みたいな感じで。その中でもやれることをしっかりやってきて、ギリギリなところもありましたけど、本当によくたどり着けたなって。とはいえ、しんどかったのは僕らだけじゃないし、この夏からは“よーいドン”で他のバンドたちとも勝負しないといけないので、強い姿勢で行けたらなと思います。
――SHIFT_CONTROLとしての歴史という意味でもそうだし、“ミュージシャン くまおかりお”の歴史にとっても大きなアルバムなんですね。
くまおか:そうですね、本当に。個人的に初のフルアルバムですし、後輩や同い年のバンドの活躍を見てると自分は早い方ではないっていうのは分かっているので。でもここまで来れたので、あとはやるしかないかなっていう気持ちです。
――宮崎さんはどうですか?
宮崎良太(以下、宮崎):僕らが上京したのが2019年7月で、それから半年後にコロナ禍になったんですけれど、不思議と孤独感はなくて。同じような状況の仲間たちがむしろ増えたっていう感覚でした。りおと岡村が入ってくれたのもそうだし、メンバーに加えてレーベルの人だったり、あとは対バンしていく中で仲良くなった仲間たちもいて。どんどんパーティが大きくなっていった4年間だったし、その集大成がこのアルバムになったなというのは改めて感じました。
――ミニアルバムを重ねていく中で、どんなふうにフルアルバムに向かっていったんですか?
アサノ:フルアルバムを作ろうっていう気持ち自体はメンバー全員持ってたんです。3枚目のミニアルバム『inVisible』を録り終わって、それまで作ってきたものにシリーズとして一区切りついたという感じもしたので、次は集大成的なフルアルバムを出したいよねって考える中で、自然にこういうアルバムになっていきました。正直、どういうアルバムにしたいかっていうのは模索しながら作っていったんですけど、わりと後半になってから、「よく見たらそんなに大事じゃないものは取っ払って気を楽にして、本当に大事なものを大事にできるように」っていうことを自分たちで認識して、自分たちのやりたいこと、かっこよさを改めて提示していきたいっていう気持ちになって、この『MakeMyName』っていうタイトルのアルバムになっていきました。
――過去曲のリテイクを入れたのはどうしてですか?
アサノ:「InTheDebris」と「ペトリコール」は現体制になる前に自主制作の音源に入っていたんです。その音源がきっかけで、新しいメンバーにも事務所にも出会えたし、そうやって自分たちを引き合わせてくれたから今もバンドをやれている。そういう力を持った大事な曲なんです。でも、りおや岡村はレコーディングでは弾いていなかったから、いつか然るべき時に改めて録りたいなという気持ちがあって。その相談自体はCDを作るたびにしてたんですけど、やっぱり新曲があるからそれが入る隙間がなかなかなくて。今回のフルアルバムで「ここだな」と思って、出すことになりました。
――当たり前ですけど、元のバージョンと聴き比べると音が全然違いますよね。
アサノ:そうですね。当時も時間とかお金がないなりに工夫してやってはいたんですけど、今は弾いてるメンバーもレベルアップしたし、レコーディング自体もすごく上手になってきて。どうすれば綺麗にノイズが乗らなくできるかとか、アンプで鳴ってる音と録れた音の印象が違うことに対して、どこを基準に聴けばいいか、みたいな知恵がついたので。当時とはやっぱり違うかなと思います。
自分の引き出しになかったものを作り上げる楽しさ
――皆さんは今回アルバムに向かっていく中で、どんなことを考えながら臨みましたか?
くまおか:そもそもSHIFT_CONTROLに入って初めてのレコーディングの時、前情報で聞いていたのは「レコーディングでのチャンジ先生がすごく怖い」という話で(笑)。
アサノ:そんな話あったんだ(笑)。
くまおか:とりあえずやべえからって(笑)。SHIFT_CONTROLに入るまで僕も彷徨っていたので「見つけてくれてありがとう」っていう気持ちではあったんですけど、最初はガチガチに構えてやっていたんです。それでも自分が求めるものとチャンジの求めるものが違ったりして。その中で徐々にみんなですり合わせてきたんですよね。今回のフルアルバムのレコーディングも結構いろいろあったんですけど、チャンジもさっき言ってた通り、コツだったり、妥協するところだったり、こだわるところはいい感じに押さえられるようになってきているんじゃないかなと思います。
岡村:僕も1作目を作る時にぶつかったりしたんです、特にチャンジ先生とは。
アサノ:そうだね。
岡村:そもそも僕は加入するまでに1年くらいサポートギターをやらせてもらってたんですけど、ドラムとギターが正式メンバーではない中、緻密にアレンジされたギターとドラムが入ってる音源を渡されて「これで弾いて」みたいな。それが自分の引き出しにないものばっかりで……感心したというか、すごく楽しかったんです。だからずっとそのチャンジの作ったフレーズを弾いてきたんですけど、いざ自分がギタリストとして加入してレコーディングするとなった時に、その完成されたフレーズにいかに自分の色を出していくかっていうので悩んだりもして。それで1作目の時はぶつかったりしたんですけど、今作は僕とチャンジの持っているものを組み合わせて、うまく行ったかなと思います。「Navy」のラスサビとか、すごくいいフレーズができ上がったので。
――「Navy」はメカニズムとして今までと全然違う感じがしますよね。
岡村:「Navy」ができて一個掴めたというか、変わった気がしました。あの曲のギターはチャンジの家に行って2人でアイデアを出して「ここを組み替えようか」とかやってできたんです。
――もう完全なる共同作業ですね。
宮崎:ベースも、チャンジの作ってくれるフレーズが自分の手癖にはないものだったので、そこに自分のアイデンティティをどうやって出せるのかなっていうのは考えてやりました。あと今回、アルバムのレコーディングに際してちょっと良いベースを買ったんですよ。70年代のちょっと古めのベース。でもいざ使ってみたら、今のSHIFT_CONTROLのサウンドに合わせると意外と埋もれちゃったりしたので、バンドに馴染ませるのには苦労したんですけど、いろいろ工夫してやっていました。
――「Navy」、ベースもめちゃくちゃいいですよね。
アサノ:そうなんですよ。ベースの基本的な役割ってコード進行の土台なので、コード進行のルート自体は僕が決めちゃうことが多いんです。だから一緒に作る割合自体は少ないんですけど、僕がポロッと言った「この曲のここは、音にフィルターがかかったみたいなぼかした音が良い」みたいなことを拾って音作りに反映してくれて。だから今、ザッキー(宮崎)が出せる音の幅がめちゃめちゃ広くなっているんです。
宮崎:「MADNESS乱舞者」では友達から借りたベースを使ったりもしていて、使うベースの幅も増えてますね。
――今回入っている新曲たちを聴いてると、そういうベースのニュアンスもはっきり伝わってくるくらい、シンプルになったと思うんですよ。今まではいろんな要素や展開が入っている曲が多かった気がするんですけど。
アサノ:それは作っている時の自分の状況の影響が大きいかなと思います。今までは、もちろんかっこいいものを作っている自負はあるし、ライブも曲作りも自信あるんだけど、表には出てこない自分の孤独感と戦いながら曲を作っていたから、それを埋めようとして展開が多くなったり、変なことをして尖ろうみたいな思考に近くなっていたんですよ。でも今回はその力を抜いて、安心して、本当にいらないものは取っ払って、シンプルに「これでいいじゃん」っていう曲にできたのかなと思います。それも狙ってるわけじゃないんですけど、次の作品を作るとしたらもっとシンプルにしたいなって今は思ってますね。
――シンプルになったと言っても、簡単になったわけじゃないですよね。そこがミソだなと思って。今までいろんな引き出しを増やしてきた上で「どれを選ぶの?」っていうことをすごく研ぎ澄ませてやってる感じがします。
アサノ:そうですね。研ぎ澄ませて、削ぎ落とされてきたのかもしれない。