ピノキオピー「皮肉を言ってマウントを取ってやろう!という気持ちはない」 「神っぽいな」から『META』に通じる楽曲の本質

ピノキオピーが語る、音楽の本質

 ピノキオピーが、5月17日に最新アルバム『META』をリリースした。昨年は「神っぽいな」が大ヒットを記録し、より広くその名を知らしめたピノキオピーだが、今作は“メタ思考”をテーマに全12曲を収録。ピノキオピーらしい客観的な視点から、聴き手にある種の気付きをもたらすような楽曲が並んでいる。

ピノキオピー - 6th Full Album「META」[trailer]

 本インタビューの冒頭でピノキオピーは、「神っぽいな」へのリスナーの反応に対して、楽曲の本意を伝えることの難しさを語る。そして、ニーチェの言葉から“積極的ニヒリズム”を引用し、自身が生み出す音楽の本質を説明してくれた。

 時代の先端を行くクリエイターのひとりとして大きな支持を集めるピノキオピーは、『META』という作品にどんな思いを託したのか。本人の口から収録曲すべての制作秘話、そして「神っぽいな」以降の音楽対するスタンスを語ってもらった。(編集部)

自分ではない視点で書くことがテーマになりつつあった

ピノキオピー(写真=KOBA)
ピノキオピー

――自分がピノキオピーさんに取材させていただくのは、前作のアルバム『ラヴ』(2021年8月リリース)以来ですが(※1)、その直後の同年9月に発表された楽曲「神っぽいな」がYouTubeで5,000万回以上再生されて、自身最大のヒットになりましたね。

ピノキオピー:発表した当初はここまでたくさん聴かれるようになる兆候はなかったので、こんなにもいろんな人が歌ったり踊ったりしてくれる状況になるとは夢にも思わなかったですし、正直なぜそうなったのかは自分でもわからなくて(苦笑)。

――でも、それこそ「神っぽいな」をカバーしたAdoさんにオリジナル曲「アタシは問題作」(2023年2月リリース)を書き下ろされたりしていますし、楽曲提供やお仕事の依頼も一気に増加したのではないでしょうか。

ピノキオピー:たしかに「Z世代向けにバズるやつをお願いします!」みたいな依頼をよくいただくようになったのですが、「いや、そんなの自分には全然無理だから!」っていう(笑)。自分がやっているのは、そういう作為的なものとは違うんですよね。「こうすると話題になるはず」ではなくて、「こうすると面白いと思うんだけど、どう?」のほうが(楽曲を作るモチベーションとして)大きいし、正直、みんなが面白いと思うものなんてわからないですから。

ピノキオピー - 神っぽいな feat. 初音ミク / God-ish

――「神っぽいな」もバズを狙って制作したわけではないと。

ピノキオピー:ですね。流れとしては、2021年当時、少し皮肉っぽいというか攻撃的なボカロ曲が流行っていたように思うのですが、そういうものは逆に批判や反感を買うかもしれないし、自分の中ではそういったサイクルが発生していることを感じていて。だからそういう状況や構造を含めて、自分自身とは別の視点から客観的に描いたのが「神っぽいな」なんです。イラストや動画はその当時に流行っていた雰囲気を取り入れつつも、曲調のアプローチは変えてみて。なのでパッと見は流行りに沿っているように見えるかもしれないけど、実は全然違う発想からイメージして作りました。

――今回のニューアルバム『META』は、自身とは異なる視点を通して自身を見出す“メタ思考”をテーマにした作品とのことですが、今のお話からすると、アルバムの構想自体が「神っぽいな」と繋がるところがありますよね。

ピノキオピー:「神っぽいな」を作った時点でアルバムの構想があったわけではないのですが、そのあとに発表した「魔法少女とチョコレゐト」(2022年2月リリース)も「魔法少女の視点で楽曲を書いたらどうなるか?」という発想から生まれたもので、その頃からだんだん「自分ではないものになりきる、自分ではない視点で書くことがテーマになりつつあるのかな?」と思って。そこから“メタ思考”というテーマが浮かび上がってきました。

――でも個人的には『META』というタイトルを知ったときに、すごくピノキオピーさんらしいなと思ったんですよね。DECO*27さんとの対談(※2)の際にも、DECO*27さんの作風が“主観的”だとしたら、ご自身の作風は“客観的”というお話をされていたので。

ピノキオピー:たしかにもともとやってきたことではあるのですが、その部分をよりフォーカスして強烈かつ意識的に取り組んだのが今回のアルバムだと思います。ただ、最近、自分の楽曲は「皮肉っぽい」とよく言われていて、逆に「それはちょっと違うんだけどなあ」という気持ちがあるんですよね。自分の中では「皮肉を言ってマウントを取ってやろう!」みたいな気持ちはまったくなくて、むしろ「それを言うと大変なことになるよ」ということを楽曲で描いているはずなのですが、それが意外と伝わらなかったりして……(苦笑)。

――「神っぽいな」も、SNSなどでさも万能っぽく振る舞ってみせたり、誰かを神格化して崇めるような風潮を風刺するような部分があって、シニカルな印象が強いですが、それだけではないわけですね。

ピノキオピー:全部わかってるような顔をしているけど、あくまでも“神っぽい”だけであって「神」ではないっていう。不完全な“悟った視点”のことを言っている曲なんですね。よく楽曲を軽薄に楽しんで消費している人たちを批判している捉え方をされるのですが、そんなことはまったくなくて、逆にそうやって批判している人を含めて客観的に見ている曲なので、特定の誰かを貶める曲ではないんですよ。現象をただ楽しむ人もいるし、それを批判する人もいるし、それをまた見ている人もいる。いろんな人がいるよっていう曲だったのが、そうではない捉え方をされることが多くて。

――ピノキオピーさんは、ひとつの楽曲の中にいろんな側からの視点を入れることが多いので、それが誤解を生みやすいのかもしれないですね。

ピノキオピー:それはあると思います。「神っぽいな」でも、別に自分が「気持ち悪い」と思っているから「きっしょいね」と言っているわけではなくて、そう思う人がいることを客観的に書いているわけで。でも、最近はわりと“(楽曲を書いた)その人”が言っていると捉えられてしまうんですよね。ボカロ曲の場合は、そのキャラクターが歌っているという捉え方もできると思うのでまだいいですけど、もしかしたら自分が「俺は神だ!」っていうことを歌っている曲に思われていそうで、それはちょっと嫌だなあと思っています(笑)。

――あと、個人的に聞いてみたかったのが、歌詞にニーチェの言葉“Gott ist tot(=神は死んだ)”が引用されているところです。ニーチェは神の存在が当たり前に信じられていた時代に、あえて「神は死んだ」と唱えて、人間の本質みたいなものを信じようとした側面があるわけじゃないですか。その意味では、“神”や“神格化”も消費されがちな現代に改めて響く言葉のように感じました。

ピノキオピー:ニーチェが言うところの“積極的ニヒリズム”、生きるために考えられた前向きなニヒリズムという考え方が好きなんですよね。「神っぽいな」という曲名にも結びつきますし、考え方にも繋がる部分があったので、この言葉を入れたところはあります。ただ、自分もニーチェについて詳しいわけではないんですけど(笑)。

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