山口美央子、デビューから40年経っても沸き続ける創作意欲 ワールドワイドに支持されるサウンドメイクの裏側

山口美央子×松武秀樹対談

「松武さん、私のこと“昔、生意気だった”って(笑)」(山口)

ーー土屋昌巳さんとの作業はどんな感じで進んでいったんでしょう?

山口:例えば「夕顔―あはれ―」は、私たちの中ではアンビエントでいこうと決まっていたので、それを土屋さんにお話ししたら「だったらセミみたいなギターが聴こえてくると面白いんじゃない?」とアイデアを出してくださいました。「僕はセミみたいに出たり入ったりしますから」と。

ーー土屋さんはこういうプロジェクトをおもしろがりそうですよね。

山口:はい。さすが、という感じでした。

松武:事前にやってほしいことを言葉では伝えてあったんですが、音を聴いて、どう演奏したらいいかを考えてきてくれて。「こんなことをギターで弾けるんだ」とびっくりしましたね。

山口:土屋さんも「今回は40年前とは違うものなので、40年後の自分の今の感じで、新たな挑戦をしたかった」とおっしゃってくださいました。オリジナルの『月姫』が多くの方に愛されているのも、土屋さんのサウンドというのが大きいと思います。

ーー“挑戦”という意味では山口さんも同じだったのではないでしょうか。職業作曲家として長年人に曲を提供してきたわけですが、アーティストとして活動するのは久しぶりですものね。

山口:そうですね。ディスク2のボーカルはほとんど歌い直してるんですけど、これまでは、人に曲を書いても歌ってはいなかったので。松武さんとまたお仕事するようになって、5年前ぐらいから再び歌い出したわけですけど、歌うということに関しては、いまだに不思議な感じがしています。

ーーご自分の歌声はどういうふうに変化したと思いますか?

山口:ディスク1を聴くと、なんて単調に歌ってるんだろうって思うんですよね(笑)。今に関しては……元々感情が込められるような声ではないと思うんですけど、少しは強弱をつけられるようになったかな。

ーーいえいえ、深みが増したと思いますよ。

山口:それは歳の分は(笑)。昔は練習もしないでただ歌っていたので。

ーー松武さんからご覧になって、山口美央子というアーティストの魅力はどこにあると思いますか?

松武:歌もさることながら、曲調の考え方。その設計図がきちんとできていることです。それと歌詞。ファンタジーの要素というか、子供の頃から描いている夢物語を自分の人生の中で実現させているようなところがすごいと思いますね。

山口:松武さん、私のこと「昔、生意気だった」って(笑)。デビューした時からシンセの音の好き嫌いがとても激しくて、松武さんから「これどうですか?」と言われたものに対して「嫌い」とか言ったりしていたそうです。

松武:でも、筋は通ってましたから。なんで嫌いなのかをきちんと言えるのはいいことです。

山口:音に関してだけはうるさいんですよね。あまり人とぶつかったりするのは好きじゃないんですけど、そこに関してだけは。今はデータをやり取りして作っていますから、メールで「この音嫌いなんですけど」とか書くんですけど、直接会って伝えるならまだしも、言いづらいですよ(苦笑)。しかも音を言葉で説明するのは難しいので、たまに怒らせてしまう時があって。

松武:そういう時は「じゃあいいよ」って一瞬にして(データを)消去しちゃう(笑)。まあ、一緒に作ってるうちに、こういう音が欲しいんだなと言うことはわかってきますけどね。

山口:そうですね。自分の好きな音色は、これだけは変えないでください、あとはお任せします、と言うのを細かく細かく松武さんに書いて渡すんです。私は音楽は絵みたいなものだと思うので、自分が思う絵からはみ出すことはすごく嫌ですね。全てのセンスってバランスじゃないですか。例えば手紙を書くときは、封筒に宛名と住所をバランスよく配置すると美しいですよね。音楽も私にとってはそれと同じで、どんな音を使うとかだけではなくて、ここでスネアがあったらちょっとうるさすぎるな、世界が消えちゃうなとか。全ては音の配置のバランスが私にとっては大事なんです。

■リリース情報
山口美央子『月姫』 40th Anniversary Edition
発売中
価格:¥5,000(税込)
完全生産限定盤
2023年最新リマスタリング音源(エンジニア:砂原良徳)
高品質Blu-spec CD2/デジパック仕様(2CD)

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