山口美央子、デビューから40年経っても沸き続ける創作意欲 ワールドワイドに支持されるサウンドメイクの裏側

山口美央子×松武秀樹対談

 1983年、コーセー化粧品のCMソングとしてヒットした「恋は春感」で知られるシンガーソングライター、山口美央子。当時、「シンセの歌姫」というキャッチフレーズがついていたように、この曲が収録されたアルバム『月姫』は、シンセポップの名盤として愛好家の間で聴き継がれてきた。今回、その発売40周年を記念して、強力なアニバーサリーエディションが登場。ディスク1(オリジナルアルバムのリマスター盤)とディスク2(ニュー・ヴァージョン及び新録を詰め込んだボーナスディスク)の2枚組で、当時のファンが満足することはもちろん、海外でのシティポップブームがきっかけで80年代の日本の女性アーティストが再評価されていることもあり、多くの新しいファンを獲得するに違いない。

 オリジナルアルバムは砂原良徳がリマスターを担当(素材に対する理解度の深い彼のマスタリングは今回も本当に素晴らしい!)。しかもディスク2には、オリジナル盤の楽曲のアレンジを手がけた土屋昌巳が再び参加。さらに、シンセのプログラミングなど彼女の作品をテクニカルな面で支えるのは、あの松武秀樹である。信頼と安心の布陣。つまり、音のクオリティ、アレンジのおもしろさ、演奏の素晴らしさなど一切が保証されている。

 まさにアニバーサリーにふさわしい、過去と現在を繋ぐ特別な作品を作り上げた山口と松武に、制作の経緯やエピソードを聞いた。(美馬亜貴子)

「『東京LOVER』はずっと自分でアレンジしたかった」(山口)

山口美央子
山口美央子

ーー『月姫』発売40周年ということで、このシンセポップの名盤がまた注目されるようになって嬉しいです。

山口美央子(以下、山口):そうですね、こういうことができたらいいなとは思っていましたけど、マルチトラックテープが見つからないと思っていたんです。そしたら昨年24chのマルチトラックが見つかって、このプロジェクトが始まりました。『月姫』を大事に思ってくださっているファンの方が多かったので、またリマスターされて、ジャケットも素敵にしていただいて、本当に幸せです。

ーーそもそもは『夢飛行』(1980年)『NIRVANA』(81年)『月姫』(83年)の3作が2017年に初CD化されたことが発端となって、それが35年ぶりの新作『トキサカシマ』(2018年)、そして最新アルバムの『フェアリズム』(22年)につながり、その延長線上に今回の40周年記念盤があるわけですね。

松武秀樹(以下、松武):僕は旧譜がCD化されていなかったことは知らなかったんですよ。SNSで海外のミュージシャンから「ミオコ・ヤマグチのCDはないのか?」という問い合わせが多数来て、それで初めて彼女の作品がCD化されてなかったことを知って、そこで慌てて事情をお話しして、2017年に無事再発することができたという。

ーー少し前から海外で日本のシティポップがブームになっていますが、それに先駆けていましたね。

山口:そうですね。シティポップという観点で言うと、私のアルバムは1枚目の『夢飛行』がジャストではないかと自分では思っているんですね。『月姫』はほとんどが打ち込みなので。

ーー過去の作品が海外でも注目されている現状についてはいかがですか?

山口:それはやはり不思議だなと思います。リズムセクションとか、フュージョンというわけではない、ですがそういう感じが好かれる要素なのかなとは思っていますけど。

ーー今回の『月姫』40周年記念エディションはディスク1がリマスター盤、ディスク2がニューバージョンとなっていて、オリジナルとニューバージョンとを聴き比べて楽しめるようになっています。完全新録も4曲ありますね。

山口:はい。今一度やってみたいと思う4曲を選びました。「沈みゆく」はオリジナルではピアノ1本だったんですね。それだと寂しいのではないかという意見もあり、シンセを使ってまた違った方向性でやってみたらどうだろうと。「東京LOVER」は好きな曲ということもあって、ずっと自分でアレンジをしてみたいなと思っていたんです。「アラビアン・ラプソディー」と「夢飛行」も同じように、自分だったらどんな風になるだろう? と思ったのでやってみました。

ーーオリジナルを改めて聴くと、世界観がすごくしっかりしていることに驚かされます。

山口:そうですね。『月姫』に関しては1曲1曲が短編集という感じで、詞に関しても、それぞれに文学的なストーリーがあります。「夕顔」は『源氏物語』の“夕顔”ですし、「鏡」は『鏡の国のアリス』。それはプロデューサーだった立川直樹さんが、私のそういう部分を引き出してくれたのだと思います。

ーー和のテイストを前面に出していたことも、今思えばすごいですね。この作品が発売された1983年当時、日本のポピュラー音楽はまだ洋楽至上主義的なところがあって、洋楽っぽくすることが良いとされていましたから。

山口:私は1stの時からアルバムの中で和楽器を使っていたんですけど、それは意識してやっていたことなんです。そして3rdアルバムである「月姫」では私がピアノの弾き語りしたものを土屋昌巳さんがアレンジしてくださったんですが、詞の世界が日本的なので、土屋さんもそのあたりを汲み取って、そういうアレンジにしてくださったんだと思います。

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