Ken Yokoyamaが取り戻したバンドとしての実感 シングル『Better Left Unsaid』リリースまでのストーリー

Ken Yokoyama、バンドとしての実感

 Ken Yokoyamaが、約8年ぶりとなるシングル『Better Left Unsaid』をリリースする。今作はレーベル直販となり、初の試みとして受注生産での販売が行われている(第2弾受注受付は4月28日23時59分まで)。さらに、5月20日には初となる日比谷公園大音楽堂でのライブ『DEAD AT MEGA CITY』が控えている。

 2021年5月26日にリリースされた7枚目のフルアルバム『4Wheels 9Lives』以来となった今回のインタビューは、3月13日から始まったツアー『Feel The Vibes Tour』中に取材。その初日公演のF.A.D YOKOHAMAでは、これまでのライブに対する規制が緩和され、コロナ以前のようなシンガロングやモッシュ、ダイブが発生するアグレッシブなライブが繰り広げられていた。Ken Yokoyamaとしてのライブのあり方から『Better Left Unsaid』リリースの経緯、そして『DEAD AT MEGA CITY』について、バンドの心のうちを語ってもらった。(編集部)

やっと落とし前がついた

一一3月13日から始まった『Feel The Vibes Tour』、初日のF.A.D Yokohamaは凄まじい盛り上がりで、「アルバムがやっとしっくりきた」というMCがあったそうですね。

Ken Yokoyama(以下、Ken):うん、やっと落とし前がついた感じ。お客さんとシンガロングをすると、その人の生活に『4Wheels 9Lives』の曲が入ってるんだなって実感できて。もちろんコロナ禍での声出し禁止のライブでも、お客さんの手が上がってたら気持ちは伝わってきたんだけど。でもみんなで歌ってくれるのは、もっとはっきりした証というか。なので、リリースしてからずいぶん経つけど「あ、本当にみんな聴いてくれてるんだ、みんなの生活の中にあるんだな」っていうのを、ようやく実感できた瞬間だった。

一一みなさん頷いてます。気持ちは同じですか?

Jun Gray(以下、Jun):うん、そうですね。

EKKUN:自分が加入してからの曲をようやくお客さんと共有できた感があって。感激しました。

Minami:『4Wheels 9Lives』の曲であれだけみんなが盛り上がってくれると、ちゃんとバンドが現在進行形で愛される曲を作れている実感も味わえるし。もちろん過去の曲、「Believer」とかやれば盛り上がるし、そうやってお客さんに愛される曲をアルバムごとに出してきたつもりだけど。一緒に歌ってくれるとそれがすごく実感できる。嬉しかったですね。

Ken:そう。『4Wheels 9Lives』はすごく好きなアルバムだし、みんなに愛されてるとも思うんだけど、やっぱりライブでそれを実感できないのはバンドにとってすごくフラストレーションが溜まることで。それはコロナになるまで気づかなかった。お客さんの歌声にはこれだけの作用があるんだっていうことを。

一一今思えばコロナ禍の停滞ってありましたか? 何かが足りない感じ。

Jun:そう。“何か”がね。

Ken:それはすごく自覚してる。はっきり言うと暗い影を自分の実生活にも落としてた。つまんねぇなって。もちろんホールでやったり、Zeppとか広めの会場で人数も動きにも制限のあるライブをやって、そこで得たものも当然あったの。ただ、一番にどうだったかって言えば「まぁ……つまんないよな」になる。そのつまんない中で精一杯どうやろうかって感じだった。

一一つまり、シンガロング、モッシュ、ダイブも含めてKen Bandのライブは成立している。

Ken:うん。前はね、様式美じゃんと思う自分もいたの。メタルがかかるとヘッドバンキングするのと同じように、「パンクってこういうもんでしょ」って感じでモッシュやダイブをやってるように見えちゃって。もう要らないとも思ってた。なんだけど、今はそれが観に来る人たちの楽しみ方だし、もっと言うと彼らの表現方法なんだなって。すごくピュアなものを感じたかな。

一一『Feel The Vibes Tour』は、そういう実感を得たくて組んだツアーなんですか?

Ken:もともとはちょっと違っていて。奇しくも初日から「マスクは個人の判断に委ねます」「会場も100パーセントのキャパでいい」っていう条件になったんだけど、それは本当偶然で。このツアーは去年の暮れには決めていたし、その時は「どういう状況であろうが、俺たちは以前通り、規制なんか気にしないライブをしてやる」って考えてた。だってもう規制の効力と根拠がわかんなくなってるでしょう? アレするなコレするなって言うわりに保証もなくなって。保証があるならまだ言うことを聞くけれど、保証もないのに人数を減らせとか、誰が何を根拠に決めてるのかもわからない。結局は決断力のない指導者たちと日本人の国民性なんだな、怖いのはコロナそのものよりも人の目なんだって僕は実感して。もう知ったこっちゃねぇ、と。そういうつもりで組んだツアー。

Ken Yokoyama

一一そういうことを考えていたのが去年。同時進行で曲作りも進んでいたと聞きました。

Ken:うん。今回は2曲のシングルだけど、このあと何月に何曲、どういった形でリリースする、最終的にアルバムをリリースするところまでもう決まってる。綿密に計画を立てて、去年の頭ぐらいから動いてた。

Jun:「Better Left Unsaid」が一番最初にできた曲だけど、当時はアルバムに向けてどんどん作っていこうぜ、みたいな空気で。曲がいっぱい貯まってきた段階で具体的なリリースの案も出てきたから。だから去年は新曲をガンガン作ってたよね。

一一最初にできたのが「Better Left Unsaid」って意外ですね。Ken Bandにしては珍しいミドルテンポで。

Jun:それはたぶん、Zeppとかホールとか、コロナ禍でやったライブで、Kenがミディアムテンポの曲を多めに入れてたことが関係してる。結局モッシュ、ダイブはできないから、ツービートで飛ばしたところでお客さんはどうにもリアクションが取れない。でもミディアムテンポだと聴いてもらえて、リアクションも伝わりやすくて。そういう意味でKenもミディアムテンポの新曲を作りたいって気持ちがあって。それでとりあえず「Better Left Unsaid」から。

一一シングル自体が久しぶりですけど、今シングルを切ることに何か思いはあるんですか?

Ken:それはね、けっこう考えてたこと。去年はアルバムに向けて走ってたんだけど……俺がちょっと途中でアルバムの意味を見失いかけて。バンドにとってアルバムを出すことは大きな夢だし、必ず区切りになる出来事なんだけど、聴く側にとってはもう意味を成さないんじゃないかと思えてきて。本当にそうなら曲たちが可哀想だと思ってしまって。リードトラックしか聴いてもらえなくて、YouTubeでMV作った曲だけ聴かれて、残りの曲はどうなんだ? って。

一一そうですね。ただ、もうこの時代「CDやアルバムを大事にしないのはおかしい!」とも言えないですし。

Ken:そうそう。お店で言ったら僕たちは店主で、頑固な商売をやっていても仕方がなくて。でも事実、頭の中は時代の流れに追いついてない、50代の店主なわけ。通りの人の顔色とか、どういう商売をすると人気店になるのか、ちゃんと注目されるのかって考えていかないと。カネのことも考えなきゃいけないし、やっぱりやる以上注目を浴びたいのは当然のことでしょう? 誰もがそれを目指してると思うの。もちろんウチらのお客さんの層って、比較的CDとかライブを大切にしてくれる、バンドの気持ちを大切にしてくれてる人が多いから、まだ形にはなるんだけど。それでも昔に比べると圧倒的にCDも売れない。赤字でなんでアルバム出すのかって……そういう思考になっていっちゃって。

一一アルバムは、最終的に出るんですよね?

Ken:うん。結局はアルバムに向かうんだけれど。でも、かつてほどの期待はしてないかな。

一一これ、長くなるので、別の機会にゆっくり話したいテーマです。

Ken:うん。でも、コロナ禍をどう過ごしてきたか、アルバムをどうするか、なんで今シングルを切るのかって全部繋がってる話だから。ここでこうやって話すことにも全然抵抗はない。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる