これが今のKen Bandであり、Ken Yokoyamaである 最高のメロディックパンクを鳴らした『4Wheels 9Lives Tour』
楽しいライブだった。一言でいえばそういうことになる。
近年のライブレポはすべてリアルサウンドに掲載させてもらっているので、ものすごく時間がある方は過去記事と比較すると面白いかもしれない。私はとにかくゴチャゴチャと内面を書いている。結果「当面はアンコールなし」と判断するに至ったMatchan脱退時の公演はどれくらい感情的だったか。その後EKKUNのお披露目ツアーにはどんな覚悟が見えたか。さらに遡ると5年前、二度目の武道館公演のレポに至っては『Ken Yokoyamaはなぜ「語り続けた」のか?』などと考察している。(※1)
今となれば説明的だと苦笑するが、当時は必然の書き方であった。5年前のKen Yokoyamaはほぼ横山健その人とイコール。彼は自分の生き方や考え方を言葉にし、共に考えて歩んでくれと観客に熱弁をふるい、それに対してメンバーは「大将が大事なこと話してる時間だから、まぁウチらは後ろで待ちますよ」のスタンス。1対3の距離がなかったとは言わない。それでも横山のメッセージを受け取ることが何より大事だったから、私はこうも書いた。「ライブの中心にあったのは、声であり、対話であった」と。
比べて、この日の声一一つまりMCは完全に4人のものであった。時にJun Grayがメインで話を振り、すっかりバンドに馴染んだEKKUNが嬉々としてネタを披露。その間Kenはしばしの休憩モードだったりする。また、フェスとの違いを肌で感じるのか、「“いいこと言わなきゃ合戦”しなくていいから気楽だわ」とつぶやく場面もあり、そこにMinamiが「下ネタ言ってればいいんじゃないすか?」と無責任なことを言う。さらには最前列の客を凝視し「最前って運なの? 俺だったら嫌だなぁ」とか「俺の前の人、生活指導の先生みたい」とイジりだすのもMinamiで、その彼の職業は本当に教員だった、なんていうオチもあり。いやぁ驚いた。今まで、暴走するのはKenひとり、Minamiは下ネタを止めさせ、空気を立て直すバンドの良心だったはずなのに。
変わったのだ。それぞれが少しずつ。Kenがまず熱苦しい主義主張を封印した。音楽で伝えられればそれでいい。メンバーは賛同したが、ただ全員で黙ってしまうのもつまらないので、自らの毒性やオモシロ成分を出すようになった。真面目一辺倒じゃなくてもいい。「パンクスなら戦わないんですか?」なんて外野の声は笑顔でスルー。現体制になって再度生まれ変わったKen Bandは、今とてもフラットだし、ここがステージだと襟を正す様子もなく、スタジオさながらのどうでもいいお喋りを楽しんでいる。
なんでMCの話をこんなに引っ張っているかといえば、ここに現在のバランスの良さが集約されていたからだ。本名よりもステージネームで書きたい。KenとMinamiとJunとEKKUN。4人は楽しそうに笑い、またMCタイムが終われば最高の音楽をキメてくれる。迷いなく鮮やかな、全曲が余裕のゴールだ。椅子席だから視界はクリア、ほどよい緊張感も生まれるのか、これぞプロフェッショナルと言うべき安定感がある。フィルを刻みまくるEKKUNのスタイルが、今まで以上に3人を引き立てているのもよくわかり、あぁこの人たち本当に楽器が上手いんだなと思う。馬鹿じゃないのと自分でツッコミが入るが、しかし、これは今までのレポにすっかり書き忘れていたことである。
つまりメインは音楽、それだけで良しというライブでもあった。説明が一切いらない。最高のメロディックパンク。これが今のKen Bandだ。鉄板の代表曲、「Punk Rock Dream」や「Let The Beat Carry On」、「I Won’t Turn Off My Radio」「Believer」などを要所要所に挟みつつ、他はほとんど新作『4Wheels 9Lives』の曲で統一。この選曲も潔かった。