アニソンとの出会い・再会を提供する場に ライブストリームプロジェクト「Anileap」クリエイティブ陣が語る、立ち上げの狙い
アニメ・声優を中心として音楽・映像の制作を行うキングレコードのレーベル・KING AMUSEMENT CREATIVEが、YouTubeでアニソンを全世界に24時間365日配信するライブストリームプロジェクト「Anileap(アニリープ)」を3月20日に正式ローンチした。「Anileap」には、アニソンを全世界・全世代の人々が気軽に楽しめるコミュニティをつくりたいという思いが込められており、アニソンの歴史を彩ってきた楽曲から最新楽曲までタイム・ボーダレスに楽しむことができる。4月24日には、TVアニメ「『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rhyme Anima」の主題歌および挿入歌全12曲など新たなアニソンが追加され、ますます充実を見せている。
今回リアルサウンドでは、キングレコードの松井健晃氏、「Anileap」のキャラクター「LEAPちゃん」をはじめとするクリエイティブデザインを担当したNOSTALOOK、ロゴデザインを担当した青木陽平氏(we+)に取材。「Anileap」のプロジェクトの経緯や今後の展望、ループアニメーションやキャラクター、ロゴなどのクリエイティブにまつわるエピソード、それぞれのアニソンへの思いについて語ってもらった。(編集部)
アニソンを全世界・全世代に再発信したい
――まずは「Anileap」のサービス内容について、企画プロデュースを手がけるキングレコードの松井さんからご説明いただけますでしょうか。
松井健晃(以下、松井):「Anileap」はYouTubeで24時間365日アニソンを楽しむことができるライブストリームプロジェクトです。コンセプトは、全世界・全世代の人に向けて、アニソンとのカジュアルな出会い・再会を提供すること。キングレコードがこれまで携わったアニメ作品を中心としたアニソンを、オリジナルキャラクターのループアニメーション映像とともに視聴することができます。2022年6月からβバージョンのテスト配信を開始し、今年の3月20日に正式リリースを迎えました。
――そもそもどのような経緯でプロジェクトを立ち上げたのでしょうか。
松井:弊社(キングレコード)は2021年に90周年を迎えたのですが、そのタイミングで弊社の財産であるコンテンツをもう一度世の中に発信したり、新しい楽しみ方を提案するためのチームが発足しまして。自分はもともとアニメ作品やアーティストの宣伝を担当していたのですが、その新しいチームに配属され、キングレコードとしてもスターチャイルドを設立した1981年から数えて40年以上アニソンの歴史に関わっている中、アニソンをもう一度全世界・全世代に再発信したいという思いのもと、企画をしたのがきっかけです。
――「Anileap」では、オリジナルキャラクターの「LEAPちゃん」をフィーチャーしたループアニメーションが独自の世界観を演出しています。なぜ音楽と共にループアニメーションを映そうと考えたのでしょうか。
松井:ループアニメーションに関しては、いわゆる24/7ライブストリームと呼ばれる文化から刺激を受けた部分が大きいです。24/7ライブストリームを行うYouTubeチャンネルでは、キャラクターが読書や執筆などの作業をしながら音楽を聴いているループアニメーションがついていることが多いのですが、そういったユーザーと一緒に音楽を聴きながら時間を共有するキャラクターの存在に素晴らしさを感じまして。
――たしかに「Lofi Girl」をはじめ、海外のライブ配信チャンネルにはアニメーションのついたものが多くありますね。
松井:僕もそういったチャンネルが大好きで、仕事中や勉強中の作業用BGMとして音楽と映像に触れて、実際に気になった楽曲をサブスクで試聴したりレコードを購入したりという体験があったんです。そこでは世界中のユーザーがチャットを通じて交流していて、固有のコミュニティができあがっているのですが、その24/7ライブストリームと呼ばれる文化と、我々が取り扱っているアニソンを掛け合わせたらどんなものができるのか? という興味が、「Anileap」の企画を立ち上げたきっかけの一つでもありました。
――ループアニメーションの制作およびキャラクターデザインは、デュア・リパ「Levitating」(2021年)やSexy Zone「THE FINEST」(2022年)のMVなどで知られるアニメーションアートプロジェクト・NOSTALOOKが担当されています。
松井:「Anileap」では、これまでリリースされたアニソンだけでなく、これから先に生まれる「未来のアニソン」も取り扱っていくので、ループアニメーションは過去も未来も感じられるもの、例えば70~80年代に思い描かれていた未来、レトロフューチャーな世界観が理想的だと考えていました。そんなときに、ちょうど「ロマンティックアンモナイト」の映像(NOSTALOOKが制作した架空のテレビアニメの予告編風映像)を拝見して「これだ!」と感じ、面識はなかったのですがメールでご連絡をさせていただきました。
NOSTALOOK:2021年5月に「ロマンティックアンモナイト」を公開してすぐにご連絡をいただいたのですが、その当時はまだNOSTALOOKのプロジェクトを始めたばかりでした。チーム内で「昔のアニソンに合うアニメを作りたいね」と話していたところで、本家本元の方から突然ご連絡をいただいて最初はウソじゃないかと思いました(笑)。「とりあえず会ってみる?」「話だけ聞いてみようか?」みたいな感じで。
松井:そんなに怪しまれていたんですね(笑)。
――NOSTALOOKさんは「Anileap」のコンセプトについてどんな印象を抱きましたか?
NOSTALOOK:実は私たちも24/7ライブストリームのチャンネルを意識している部分があって、「ロマンティックアンモナイト」の映像をループで繋げたものに音楽をつけた、20分くらいの動画をYouTubeにアップしているんです。「ロマンティックアンモナイト」の中のカットにも、結構それを意識して作っているものがありますし、いつかそういうチャンネルを作りたいという思いもあったのですが、ただ、私たちにはそれを運用するための楽曲がなかったんです。なので松井さんからお話をいただいたときは「きた!」と思いました(笑)。
――LEAPちゃんのキャラクターデザインや、彼女が宇宙船の中で過ごしているループアニメのコンセプトは、どのように決めていったのでしょうか?
松井:それがかなり難航しまして……(苦笑)。LEAPちゃんが星間旅行している舞台は2222年、βバージョンがリリースされた2022年からちょうど200年後という設定で、星間旅行の長い移動時間中にアニソンを聴いているというシチュエーションなのですが、実はそのコンセプトが決まったのは本当に最後でした。
NOSTALOOK:まず、NOSTALOOKの作品は70年代から90年代風のアニメという懐かしいテイストなので、そこに未来の要素を入れて整合性を持たせるためにどうすればいいか、何カ月も悩み続けました。最初は「未来の東京」を舞台にして、窓から見える外の景色が時間の経過に合わせて朝から夜になっていく方向で考えていたのですが、その場合、日本以外の地域の時差に対応できないという話になりまして……それで最終的に「宇宙を飛べばいいのでは?」というアイデアが突然出たんです。背景が宇宙空間でずっと進んでいれば画面に動きもありますし、部屋も星間旅行中に退屈しないように作られた仮想空間で、80年代好きのLEAPちゃんが自分の趣味を再現しているという設定にすれば、レトロフューチャーな世界観でもつじつまが合うので。
松井:そのお話を聞いたときは「なるほど!」と思いました。星間旅行はもちろん、部屋の内装がボタン一つで切り替わる設定もすごく未来感がある。なおかつ「Anileap」は「アニソンで心を開放する」というコンセプトも設けていたので、その意味でも宇宙は最大の開放空間ですし、ピッタリなのではないかと。実はこの「宇宙」という設定が、青木さんに手がけていただいたロゴデザインのお話にも繋がってきます。
NOSTALOOK:私たちが二転三転とデザインを変えていたせいで、ロゴデザインも何回も変更することになってしまって……申し訳ございません。
青木陽平(以下、青木):いえいえ、全然大丈夫です(笑)!
――そのロゴデザインについてですが、今回、we+(ウィープラス)の青木さんにお願いした経緯を教えていただけますか。
松井:実は青木さんとは付き合いが長くて、僕が学生の頃にインターンでお世話になっていたデザインスタジオが、青木さんの在籍しているwe+だったんです。we+の方々は、モノに込められた思いをどう伝えるかということを、実験を繰り返しながら一つの形にしていくのですが、自分はその作業を見て、いつかお仕事でご一緒したいと考えていたんです。
青木:なので松井さんからお話をいただいたときは「やっときたか……!」と思いました(笑)。「Anileap」自体のコンセプトもおもしろいなと感じて。それこそ自分は普段、手を動かす実験を繰り返しているので、その作業時にローファイヒップホップなどのライブストリームを流すことがあるんです。そういったサービスでは、曲名はわからないけど聴き覚えのある楽曲にふと出会えたりするものですが、それがアニソンになった場合、そういう出会いの機会がさらに多くなるだろうなと想像しました。
――デザインの方向性についてはどのように決めていかれたのでしょうか。
松井:当初はNOSTALOOKさんにアニメーションを依頼したこともあって、昔ながらのアニメカルチャーらしいロゴデザインの方向性で考えていたのですが、青木さんとお話する中で、一度「Anileap」に込めた思いを整理したんです。それは先ほどお話した「アニソンで心を開放する」「昔聴いていたアニソンと再会できる場所」「アニソンで世界と繋がる」といったコンセプトのことなのですが、そういったキーワードを受けて青木さんからいろいろなデザインをご提案していただいたのが最初の流れです。
青木:今松井さんのお話にあったように、最初は「何がアニメっぽいのか?」ということが、形にしないとわからない状態だったので、まずはキングレコードさんの所有しているアニメのロゴデザインの資料を一式いただいて、そのパーツを切り貼りしてロゴ化する作業を行ってみたんです。ただ、いろいろなアニソンが流れるプラットフォームであることを踏まえると、あまり特定の印象に偏りすぎないほうがよいと思いまして。そこで松井さんとディスカッションを重ねて、「そもそもアニソンとはどういうものか?」という話をしたんです。元気づけてくれるときもあれば、落ち込んでいるときに寄り添ってくれる、そういった偏りのないアニソンの印象を話し合いながら、全体的なデザインを決めていきました。
松井:そこから青木さんがさまざまな形のアイデアのラフを出してくださったんです。その中で僕が最初に気になったのが、再生ボタンや録画ボタンをイメージしたデザインでした。
――ただ、このラフ案と実際のロゴデザインは全然違いますよね。
松井:そうなんですよ(笑)。
青木:このときはまだ迷走していたんですよね。この頃に、先ほどのNOSTALOOKさんのお話にもあった「未来感」というイメージが出てきて、その後、「YouTubeで再生・ループされる」ことからシークバーの要素も入れるアイデアが生まれて、今のデザインに近づいていきました。下図の真ん中のデザインが完成形のきっかけになったもので、文字が「感情の起伏」を表していて、シークバーはその「感情の起伏」に合わせて楽曲が再生されていく印象になるようにデザインしました。気持ちが高揚しているときがあれば、落ち込んでいるときもあるだろうし、そのいろんな気持ちも表現することができる。今改めて見ても最終案に活きているように思います。
松井:その後、最終的にA~D案の中から選ぶ形になりまして、宇宙船の航路図のようにも見えるB案に決めました。その際に頭文字の「A」を並べると模様になるギミックも考えていただきまして、その模様はいずれグッズ展開に活用できればと考えています。また、ロゴの色は青木さんに20パターンほど出していただいたのですが、「宇宙」や「アニソンの海を旅する」といった要素を表す青色と、弊社としても重要なキーワードである「星」をイメージさせる色として黄色を入れたくて、この配色にしました。
――LEAPちゃんの髪色とカチューシャの配色と同じ色味ですよね。
松井:実はこのロゴの色からLEAPちゃんの髪色を決めたんです。
NOSTALOOK:でも、松井さんは初期の頃から「LEAPちゃんは青髪がかわいい」とおっしゃっていました(笑)。
松井:なんか恥ずかしい話になってきました(笑)。