ハリー・スタイルズが日本にもたらした最高潮の熱狂 One Directionの楽曲も披露したポップスターの風格溢れる一夜

ハリー・スタイルズがもたらした最高潮の熱狂

 「Harry's House」に招かれた東京・有明アリーナのオーディエンスは、ハリー・スタイルズの底抜けに明るく高揚感あふれるパフォーマンスに心奪われると同時に、その眩い明度ゆえ、対照的に浮かび上がる彼の内省世界観にも触れることになった。このステージで表現されたのは、いまやポップスター、そしてロックスターとも称されるハリー・スタイルズが私たちと共に生きる2023年のリアリティだ。「Harry's House」の屋根の下、ステージと客席を隔てるものは何もなく、そこにあるのは最高の夜を共有したという確かな手触りだけだった。

 3月24日、25日に開催された約5年ぶりとなるハリー・スタイルズの単独来日公演『Love On Tour 2023』。前回の来日が2018年5月のデビューアルバム『Harry Styles』を携えたワールドツアーのタイミングだったと考えると、今回の来日公演までの間に、世界の社会情勢は新型コロナウイルスの感染拡大によりさまざまな角度で激変した。そして、2ndアルバム『Fine Line』、3rdアルバム『Harry's House』をリリースし、今年の『第65回グラミー賞』では、年間最優秀アルバム賞と最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム賞も受賞するなど、我々だけでなくハリー・スタイルズ個人を取り巻く状況も大きく変化したことに気づく。コロナ禍によるステイホーム期間の影響を色濃く反映した『Harry's House』が閉塞した雰囲気の漂う2022年に寄り添った作品だとすれば、大声援のライブで体感する『Love On Tour』日本公演は、そんな閉塞感を穿つような瞬間の積み重ねだったといえる。北米、南米、ヨーロッパ、オセアニア、そしてアジアと全世界を股にかけたツアーを経ただけあり、ライブパフォーマンスも仕上がりきった最高のコンディションでこのツアーに立ち会えたことに感謝したい。

 会場BGMで流れるOne Directionの「Best Song Ever」が開演を待ちわびるオーディエンスの気分を盛り上げるなか、定刻を少し過ぎた頃に客電が落ち、その瞬間に大声援が巻き起こった。ステージに映し出されたサイケデリックなオープニングアニメーションから地続きで「Music For a Sushi Restaurant」のイントロがオーディエンスを煽る。アルバム『Harry's House』のオープニングナンバーなだけあり、ライブのスタートを飾る1曲としてのフィット感も抜群だ。そして、驚かされるのは、ハリー・スタイルズが登場するやいなや、大きなシンガロングが起こり、満員の有明アリーナが一瞬にして彼の手中に収まったことである。スタジアムクラスの会場を主戦場としてきた彼のパフォーマンスのスケールの大きさと迫力に圧倒されながらも「いち、に、いち、に、さん、し!」とチャーミングな日本語のカウントで2ndアルバム『Fine Line』収録曲の「Golden」へ。「Music For a Sushi Restaurant」に引き続き、アルバム1曲目に収録されている掴みの楽曲をこの位置に据えるアグレッシブな選曲だ。

 続けざまにヒットシングル曲の「Adore You」を経由し、徐々にレイドバックした雰囲気へ転換。『Harry’s House』から「Daylight」「Matilda」「Little Freak」などが披露され、序盤から打って変わって親密でリラックスした表現にハリー・スタイルズの変幻自在さを実感する。ライブ中盤には、彼のポップスターとしてのスタンスを示すような楽曲「Treat People With Kindness」が披露され、アウトロからそのままなだれ込んだのは、なんとOne Directionの代表曲「What Makes You Beautiful」。このサプライズに会場は大歓声に包まれた。やっぱりみんな1Dが大好きなのだ。ここからは「Late Night Talking」「Watermelon Sugar」とヒットシングルで畳みかけ、『Harry's House』の収録曲順と同様に「Love of My Life」で失ってしまった愛への悔恨を歌い上げ、ライブ本編は幕引きとなった。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる