幾田りら、『Sketch』でさらけ出した裸の自分 “YOASOBIのボーカル ikura”とは異なるソングライターとしての顔
幾田りらが、初のアルバム『Sketch』をリリースした。ABEMA『今日、好きになりました。』主題歌「ロマンスの約束」・「スパークル」、ドラマ『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』(TBS系)主題歌「レンズ」、フジテレビ系『FIFAワールドカップ カタール2022』番組公式テーマソング「JUMP」、NHKドラマ10『大奥』 主題歌「蒲公英」など数々のタイアップ曲含む今作は、彼女の“心の日記”だという。
新曲「サークル」「Midnight Talk」「吉祥寺」の制作エピソードから、“YOASOBIのボーカル・ikura”とは異なる、ソングライターとしての幾田の想いまでをじっくりと聞いた。(編集部)【記事最後にプレゼント情報あり】
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歌詞の軸は実体験から生まれる
――いよいよ1stアルバムのリリースです、今の心境を聞かせてください。
幾田りら(以下、幾田):物心ついた頃から歌手になる夢を抱き、中学3年生の時に音楽活動を始め、曲を作り始めました。歌手としての活動は私の人生の軸でしたが、フルアルバムというこのタイミングが本当のスタートだと思っています。とにかく嬉しい。すごくワクワクしています。
――新曲3つについてお聞きします。まず「サークル」ですが、どういった思いを込めて作った曲ですか?
幾田:日々、生活している中で、一日が一つの円だとすると、ずっと同じような円を毎日繰り返し歩き続けている気がしているんです。音楽活動を始めた頃に比べると、今は周りの環境は大きく変わりました。ただ楽曲制作の際は一対一で自分自身と対峙するという、軸の部分はずっと変わっていなくて。それで同じ円をぐるぐるとまわっているように感じているんですけど。でも、歩んでいる円が少しずつ螺旋を描いていって、今より上に登っていけているんじゃないか、登っていけたらいいなと思い、書いた曲です。
――まだまだ現状に満足していないようですね。もっと上を目指したいと。
幾田:まだやりたいことはたくさんあります。そういった思いを抱きつつ、日々もがきながら未来を見ているという感じなので、やはり「サークル」は自分自身の毎日を書いた曲ですね。
――大舞台に立つ機会が増えていますが、ライブ映えも考えて曲作りをするようになりましたか?
幾田:最初の着想の段階ではライブのことはあまり意識していません。とにかく曲として一番いい形を目指して作っています。ただ「サークル」はアレンジをしてもらう際に、ノリやすいように、心地よくメロディが耳に入ってくることを重視してもらいました。ドラムがしっかり体に伝わってくるようなリズムにして、ハンドクラップを多めに入れてもらったり。AメロBメロとは対照的に、サビではちょっとお祭り感のあるサウンドにしてもらったり。みんなで手拍子したり、体を動かしながら歌う場面を想像してアレンジのアイデアを出したので、まさにライブで盛り上がってほしい曲です。
――二つ目の新曲「Midnight Talk」はどういった思いでつくった曲ですか?
幾田:アルバムの中で1曲、抜け感のあるもの、聴く人がリズムを取りながら、気持ちが軽くなるような曲を作りたいと思ったんです。テーマは生活の中にあるものから引っ張ってこようと思い「夜」にして。私は夜、特に深夜はすごく自由になれる感覚があるんです。これまでは学生だったこともあり、昼間に一人きりになることはなくて。夜になるとようやく、自分が自由になれる時間だという思いがずっとあります。そういう静かな夜の中で、安らぎを感じられるような曲を作りたいなと思いできた曲ですね。
――ソングライトは夜に行うことが多いですか?
幾田:そうですね。もともと夜型なんですが、深夜になってスイッチが入る感じです。ただ夜に曲を作ると、次の日の朝聴いた時、「ちょっとイタイ」と感じることもあったりして(笑)。やはり濃い感情が出やすいのは夜ですね。
――歌詞は実体験と、願望や想像、どれほどの割合で混ざったものですか?
幾田:歌詞の軸になる部分は、実体験からきているものです。私は小学生の頃から、今日は何を思っていたとか、何をしたとかを家族や友達に喋ることで落ち着くところがあって。今も友達と電話で、夜だからこそ本音で話せる時間がすごく自分にとって大事なものです。「Midnight Talk」は、自分の大切な人とのそういった会話を、皆さんの経験と重ね合わせて聴いてもらえたらいいなと思い作った曲なので、やはり実体験から着想を得て書いた曲ですね。
――本や映画などからインスパイアされることはありますか?
幾田:ドラマ『大奥』(NHK総合)の主題歌になっている「蒲公英」は、この作品との出会いによって、考えたことがなかったところまで思考を巡らせることができて、人生において大切なことを新たに考えるに至り、そこから歌詞を書いた曲なんです。ただやはり自分の思いを歌詞にしたいので、影響元との共通点を探しながら自分の言葉として、整理してから書いていきました。
――3つ目の新曲「吉祥寺」はどういった思いで作った曲ですか?
幾田:これはアルバムの中で、自分のルーツに近いものを書きたいというのがあって、学生時代によく行っていた吉祥寺を曲にしました。周りの友達や学校の先生も私の音楽活動を応援してくれていたんですけど、何者でもない私も知っていてくれるので。そこに帰れば本名の“幾田りら”、素の自分でいられるところだと思っています。
――あえて3分未満と短くして、すっと終わる作りが、かえって深い余韻を感じさせますね。自身のソングライトの進化を実感していますか?
幾田:いろいろなチャレンジをしたいとは思っています。ここ1、2年でいろいろな曲を作りたいと思うようになって。今回のアルバムで、それを実現して形にできるんだという自信が少しつきました。
“歌がうまい”とは「その人が歌うことに意味があるかどうか」
――曲作りの勉強のためにも、多くの音楽を聴いているのですか?
幾田:最近になって特にいろいろと聴くようになりました。洋楽もいろいろな方向性のものを聴いたり、K-POPをたくさん聴いたり。J-POPも今すごく変動が激しいので、チャートを見ながらいろいろな曲を聴いて、何かを吸収しようとしています。
――お父様が家でギターの弾き語りをしていて、それを聴いて育ったということですが、どのような曲を歌っていたのですか?
幾田:父はキャンプがすごく好きで、キャンプソングのような曲を作って歌っていたり、船旅も好きだったので、船の仲間たちと一緒に歌う曲などですね。フォークソング、カントリーソングのようなものが多かったです。
――自身の音楽の原点の一つに映画『ハイスクール・ミュージカル』もあるとのことですが。
幾田:今の自分の歌い方はJ-POP寄りだと思っていますが、歌い方が形成されていく大事な過程にあった小学校3年生から6年生まで、私はミュージカルをやっていたんです。そこでミュージカル的な発声練習を繰り返し行いました。その時期に今の音域や、抜けのいい発声の土台は作ってもらったと思いますね。
――幾田さんの歌は言葉の聞き取りやすさ、歌詞を伝える力がすごいと思いますが、あらためて、歌詞を伝えるという点で工夫していることを教えてください。
幾田:曲ができて最初に歌う時は、あまり細かいことやテクニック的なことは考えずに自分が歌いたいように歌います。そうして心から、自然と出てきた歌い方を大事にするようにしていて。それが一番、曲の魂の部分と近い表現だと思うので。ただそこは大事にしつつも、録音して後から聴いたときに「言葉がここは流れちゃってるな」とか、「もう少し子音を立てた方がここは言葉が前に出てくるな」といった点を修正して、最終的な歌い方を決めていく感じです。
――最も大事なのは、やはり感情なんですね。
幾田:ただ感情だけを前に出しすぎると、聴いている側が置いていかれてしまう感じがあるので、そこはうまく調整しながらですね。意識しなくても、歌詞を見なくても、しっかりと言葉がすっと胸に入ってくる、音としてちゃんと入ってくる、しかもそれが心地いい音であるということはすごく大事にしています。
――ずばり「歌がうまい」とは、どういうことだと考えていますか?
幾田:難しい質問ですけど、「その人が歌うことに意味があるかどうか」でしょうか。やはりオリジナリティは歌手として活動していくには必要不可欠な部分ですよね。ある曲を生み出した人だったり、本家とされる人には、必ず真似できないところがあります。すごいと思う方たちは、皆さんすごく研究して、考えて曲を作り、歌っている部分があると思うんです。それが「歌がうまい」ということに繋がるのかなと思います。
――特に好きな、影響を受けたシンガーを教えてください。
幾田:私には大師匠的な存在がいてーーテイラー・スウィフトさんなんですけどーー彼女の曲は、彼女が作ったメロディで、彼女が書いた歌詞を、彼女が歌うことで成り立つものじゃないですか。一つも替えが利かなくて、それってやはりすごいことだと思うんです。ライブを観たこともありますが、曲を聴いただけで彼女の人生を感じられるようで、とても感動しました。
――幾田さんも度々英語詞を歌っていますが、英語詞の曲を歌うのと、日本語詞の曲を歌う時とでは何が違いますか?
幾田:やはり日本語の曲は「歌詞が立つ」ことがすごく大事だと思います。言葉をしっかりと聴き手の耳に届けることが重要ですよね。一方、洋楽は言葉の意味よりもグルーヴ感だったり、その曲のメロディに対して一番心地いい言葉をのせることの方が重要な感じがします。英語と日本語では発音、口や舌の使い方も全く違いますし、英語の方がそんなに言葉を立たせなくても、歌詞のニュアンスがつかめるというところもありますね。
――英語詞の音楽も理解していることは、ソングライトにどう役立っていますか?
幾田:難しいなと思うのが、日本の人がいいなと思う歌詞と、英語でいいとされる歌詞が違うことなんです。日本は比喩表現がすごく好きだったり、ストレート過ぎない、ちょっとおしゃれな言葉使いや伝え方を好む気がします。洋楽は逆にストレートに語る感じ。なので互いに応用するのは難しいですね。「Midnight Talk」は洋楽の、R&Bっぽい感じのテイストで作ったので、歌詞も意味よりも音として心地いい言葉を選んでいます。ただそれをやり過ぎると日本語の曲としてのよさが消えてしまうので、バランスを取りながら作りました。