ここからまたそれぞれの“超天獄"を生きていけるように 大森靖子、四天王バンドと縦横無尽に繰り広げたZeppツアー東京公演

大森靖子『超天獄ZEPP TOUR』東京公演レポ

 大森靖子の6thアルバム『超天獄』は今年9月にファイナルを迎えたの即興的なライブツアー『超自由字架』をともにしたsugarbeansが全曲をアレンジ。かつ、全13曲をsugarbeans(P)、設楽博臣(Gt)、千ヶ崎学(Ba)、張替智広(Dr)からなる“四天王バンド”と4日間でレコーディングし、ほぼ一発録音で手直しは最低限というアルバムだ。本稿では同作を携えて行われた『超天獄ZEPP TOUR』の12月20日、東京・Zepp Haneda公演の模様をレポートする。『超自由字架』ツアーの時点でアルバム新曲も披露されていたことももちろん、この四天王バンドが百戦錬磨のセッションミュージシャンであることも『超自由字架』から地続きの表現であることを実現するライブだった。

 場内に足を踏み入れると、天地5メートルはあろうかという「超天獄」の文字をあしらったバックドロップがフロアを見守る。1曲目はウッドベースがこんなに禍々しい楽器だったろうか? とゾクゾクするイントロの「VAIDOKU」。大森はステージ下手から転がるように現れ、隅の方で唸るように歌っている。この世に地獄も天国も引きずり下ろして見せるーーそんな新作の肝を全開にしてゆく。続く「CUNNING HELL」も四天王バンドのアレンジでインダストリアルなポップスの趣きだ。さらに“魔法”の定義を新たな角度に落とし込んだ「魔法使いは二度死ぬ」では予測不可能な動きに乗せ、早口のトーキングボーカルを聴かせるという、大森ならではのパフォーマンスを披露。宇城茉世(MAPA)のコーラスも映える。二人の声が明快に聴こえるのも、ジャズやファンク、ソウルを身につけている四天王バンドの抜き差しあってこそだろう。囁くような声や独白がまっすぐオーディエンスの心臓を射抜くのだ。

 「ミッドナイト清純異性交遊」や「マジックミラー」の歌詞の強さが響いたのもポップスとしてアップデートされていたことに起因するのではないだろうか。さらにシティポップ感が強い「超新世代カステラスタンダードMAGICマジKISS」が、辣腕のいい力加減の演奏によって、異形でも自分なりの幸せしか幸せではないという、大森の世界を鮮やかに浮かび上がらせる。続く「生kill the time 4 you、、❤︎」、「子供じゃないもん17」と、みずみずしくも生々しいポップチューンを立て続けに披露する彼女のパフォーマーとしての自由度は、シンガーソングライターのそれでも、アイドルやロックアーティストのそれでもなく、どれでもあるという域に到達。ギターポップテイストと遊び心があふれる「ドラマチック私生活」を選曲したことも、今回のバンドメンバーを鑑みると非常に腑に落ちた。

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