吉柳咲良、音楽はありのままの姿を表現できる場所 『ピーター・パン』『ブギウギ』を経て念願の歌手に
ミュージカル『ピーター・パン』で歴代最年少タイの13歳で10代目ピーター・パン役を務め、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』での若手スター歌手・水城アユミ役を演じた吉柳咲良が、10代最後の日にデジタルシングル「Pandora」でアーティストデビューを果たした。
約6年間に渡って演じ切ったピーター・パンや趣里演じる福来スズ子の最後のライバルとなる水城アユミだけでなく、昨年はドラマ『アイドル誕生 輝け昭和歌謡』(NHK BS)では伝説の歌手・山口百恵を演じ、ドラマ『リズム』(フジテレビ系)ではトップレベルのダンスの実力を持つ女子高生・立花めぐみとして踊り、ドラマ『褒めるひと 褒められるひと』(NHK総合)ではシンガーソングライターの川崎鷹也とのデュエットを披露。また、2020年にはミュージカル『デスノート THE MUSICAL』で人気モデルのミサミサ(弥海砂)として歌い踊り、現在はミュージカル『ロミオ&ジュリエット』にジュリエットとしても出演中だ。これまで“役”を通して歌うことの多かった彼女が、“自分”を表現するアーティスト活動を始動させた経緯を聞いた。(永堀アツオ)
一人カラオケで「8時間くらいずっと歌い続ける」
ーー10代最後の日にアーティストデビューした心境から聞かせてください。
吉柳咲良(以下、吉柳):もともと歌やダンスがすごく好きで、人生の中で音楽がなかった瞬間が本当になかったんですね。俳優として活動させていただいてきた中でも、その日の気分を高めるためにプレイリストを作ったりしていて。役の心情に寄り添った曲を聴いて、気持ちを高めていくこともありますし、ずっと音楽に助けられてきました。なので10代最後の日に「Pandora」をリリースさせていただいたときは……なんというか、今までは誰かの曲で自分を高めていたけど、自分が自分であることを許してもらえるような感覚になったというか。役ではない自分、自分自身を表現することは今回が初めてだったのですが、どんなときでも聴いていられる曲になったし、私が私であることを見失わないための支えになってくれる感じがして。20代を迎えるにあたっての恐怖心もあったので、その背中を押してくれるような楽曲になりました。
ーー自分自身をさらけ出す度合いが強くなることに抵抗はなかったですか?
吉柳:私は自分の気持ちを言葉にしたいタイプなんですけど、あまりうまく伝えられなかったり、そもそも言葉にする場所が今まであまりなかったんですね。だから、怖さよりも、ちょっとほっとしたという気持ちの方が大きいです。自分の思いを音楽を通して伝えることができて、それをいいと言ってくださる人がいるという事実にすごく安心しました。
ーー先ほどおっしゃっていた「20代を迎えるにあたっての恐怖心」というのは?
吉柳:やっぱり10代はどんなことがあっても常に誰かが守ってくれていたし、いろんなことを教えてくれる人たちもいた。もちろんそういう方々は20代になってもたくさんいると思うんですけど、それだけでは立っていられない場所に立った気分というか。ちゃんと自分の足で立って、自分の意思を持って、考えて行動することが10代よりも求められる気がするんです。ある種の責任みたいなものも感じたんですよね。それに対して、私はこのまま大人になっていいのか、大人になれるのか、大丈夫なのかっていう、漠然とした恐怖心です。19歳から二十歳になっただけで大きくは何も変わらないとは言えど、自分の中で1つ、思うところがあったので、それがすごく怖かったですね。
ーーその恐怖心は乗り越えました?
吉柳:気づいたら20歳になっていたみたいな感じだったんですけど(笑)、たくさんの方々がお祝いしてくださって。今、ちょうど『ロミジュリ』の稽古に入っているので、稽古場でもみんながお祝いしてくださったんです。そこで、皆さんに「これからの20代が楽しみだね」と言ってもらえて。支えてくれる人たちがいることへの感謝は絶対に忘れてはいけないことだなって再確認しましたし、皆さんがいるおかげで私は今、ここに立っていられるんだなっていうことも自覚できて、恐怖心が希望に変わっていきました。まだ冒険はできるかもしれない、楽しんでいいんだって。もちろん、考える幅や量はもっと増やさなきゃいけないけど、子供心を忘れずに持っていていいんだなって思えたし、少し安心したところがありますね。
ーー最初に「音楽はなくてはならないもの」ともおっしゃってましたが、小さい頃から音楽好きだったんですよね。
吉柳:そうですね。母が歌うことが好きな人で。母は「高校生の頃、私は音痴だった」っていつも言うんですけど、今は競い合うような仲で。
ーーあはははは。ミュージカルの主役と!?
吉柳:毎回カラオケに行くと点数を競い合っているんですけど、かなり接戦です(笑)。母がすごく音楽を聴く人だったし、歌う人だったので、車の中ではずっと音楽が流れてるっていう家だったんです。
ーーどんなアーティストの曲が流れてました?
吉柳:椎名林檎さん、宇多田ヒカルさん、浜崎あゆみさん、安室奈美恵さんとか、女性アーティストが多かったですね。あとは、L'Arc-en-Cielさん、ONE OK ROCKさん、父が聴く黒夢さんやX JAPANさんとか。いろいろ聴いてました。
ーーご自身で最初に好きになったのは?
吉柳:椎名林檎さんでした。幼稚園生ぐらいの頃から聴いていたので、最初はただ「カッコいい!」みたいな感じだったんですけど、大人になるにつれて、歌詞の意味をちゃんと考えるようになって。自分がいろんな経験をしていく中で、「この気持ちめっちゃ理解できるぞ」って気付いたり、「こんな表現の仕方をするのか」という驚きがあって。特にこの仕事を始めてから、言葉っていうものにより触れる機会が増えたことで、そのすごさや表現の仕方にどんどん引き込まれていったんです。林檎さんが紡ぐ言葉の一つ一つがとても好きなので、たくさん聴くようになりました。
ーーカラオケには何歳くらいから行ってましたか。
吉柳:私も母と張り合うくらい歌が好きだったので、幼稚園生の頃から行ってました。小学生になってからは、母と2人で週に1回、お休みの日に4〜5時間くらい行ってましたね。
ーー今も行きますか?
吉柳:今の方が多いくらいです(笑)。1人で行って8時間くらいずっと歌い続けることもあります。
ーー咲良さんは何を歌うんですか?
吉柳:椎名林檎さんと宇多田ヒカルさんが多いですね。あとは大好きなAdoさんやちゃんみなさんを歌ったり。最近はMISIAさんもよく歌います。「歌ってほしい」と言われて、鬼束ちひろさんの「月光」を雰囲気を出して歌ったりとか(笑)。あと、役でも演じさせていただいた山口百恵さんや、中森明菜さんも大好きです。キーが私の声域に合っていてちょうど歌いやすくて。