TOMOO「Cinderella」インタビュー 今改めて向き合った5年越しのテーマ、ライブに対する意識の変化も

TOMOO「Cinderella」のテーマ

 シンガーソングライターのTOMOOが、メジャーデビューから通算3枚目となるデジタルシングル「Cinderella」をリリースした。この曲は、2022年2月に開催されたワンマンライブ『TOMOO one-man live "YOU YOU"』でも披露していた、ピアノを基軸としたバラード。「自分自身が解放されたい気持ち、自分自身を本当にわかってもらいたい気持ち、これまで自分を縛りつつ守ってきたモラルの間での葛藤」をテーマにした歌詞と、ドラマティックなメロディ、情感たっぷりに歌い上げるTOMOOの歌声が、聴く者の心のひだにゆっくりと染み渡っていく。サウンドプロデュースは、BREIMENの高木祥太が担当。ストリングスを加えた湿度のあるアレンジが施されている。

TOMOO - Cinderella【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

 なお今回のインタビューは、全国5大都市を巡るワンマンツアー『TOMOO 1st LIVE TOUR 2022-2023 "BEAT"』の開催直前に行われたもの。およそ5年前から温めていたという新曲「Cinderella」の制作エピソードはもちろん、前述の『YOU YOU』や8月に行われた『TOMOO one-man live “Estuary"』を経て、ライブに対するTOMOOの意識はどのように変化してきたかなどじっくりと語ってもらった。(黒田隆憲)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】

単なる「失恋の歌」ではない「Cinderella」で描きたかったこと

TOMOOインタビュー写真

ーー新曲「Cinderella」はすでにライブでも披露していますよね。とても強く印象に残っていました。

TOMOO:ワンマンライブ『YOU YOU』でやりました。ただ、当初は「Cigarette」というタイトルだったんですよ。ライブ本番が迫っていて急いでタイトルを決めなければならず……レコーディング中もめっちゃ迷って、右往左往してようやく「Cinderella」というタイトルに落ち着きました。

ーーということは、結構前に作った曲なのですか?

TOMOO:書こうと思ったのが5年くらい前で、書き始めたのが4年前、完成したのが3年前の2019年だったと思います。

ーー自分自身が解放されたい気持ちと、相手に自分自身を分かってもらいたい気持ちなど、さまざまな「葛藤」について、テーマにしている曲だなと思いました。

TOMOO:そうですね。歌詞の内容としては、人と人との関係性が終わった時の「寂しさ」や「喪失感」を描いているのですが、誰かと本気で関わろうとしたときに立ち現れる「境界線」について歌った曲でもあるんです。「それぞれの価値観」と言ってしまうと実も蓋もないのですが、例えば違う環境だったり、違う考え方だったり、属しているコミュニティ……大きな括りだけでなく家庭環境などが違うと、そこには大きな隔たりみたいなものが厳然としてあるんですよね。そして、人と人とが関わろうとすると、その境界線が変容するというか、壊れることがあると思うんです。自分の中の価値基準……モラルと言ってもいいと思うんですけど。

ーーこれまでの楽曲と同様にこの曲も、TOMOOさん独自の切り口から物事を捉えつつ、最終的には普遍的な内容に仕上がっていますよね。ただユニークなのは、世の中の多くの楽曲、特に恋愛ソングは「お互いの価値観の違いをどうしたら乗り越えられるか?」がテーマになっていますが、この曲の主人公は、最終的には自分が元いた場所に戻ってしまうんですよね。

TOMOO:はい。「逃げて」しまって、それを後悔しているような曲です。ただ、そのことを「正しかったのかもしれない」とも思っている。結局は分からなないままなんですけど。歌詞には直接的に書いていないですが、「変われないままの私を許して。あなたはあなたで、結局元の場所へ戻っていく」というようなことを歌っているんです。それを、日付が変わるまでに元いた場所へ帰っていくシンデレラのストーリーに重ね合わせたわけです。

ーーなるほど。

TOMOO:「Friday」という曲でも“連れ去って”みたいなことを歌っているし、「らしくもなくたっていいでしょう」もそうだし、「POP'N ROLL MUSIC」という曲でも「自由になりたい」みたいなことがテーマになっていて。私はずっと、「縛られている」という感覚がすごく強くて、そうやって生きていると、自分よりも自由に生きている人が「こんな世界もあるよ?」と見せてくれたり、誘ってくれたりすることがある。そういうときに、「あとちょっとで殻を破れたかも」「扉を開けられたかも」というギリギリのところで結局は元の自分の感覚に戻ってしまうことって、別に恋愛じゃなくても何かしらいろいろあると思うんです。

ーー確かにそうですね。仕事でも、住む環境でも、恋愛以外の人間関係でも、多かれ少なかれ誰しもそういう経験をしていると思います。

TOMOO:これまでと違った世界に足を踏み入れようすると「あっちに行ったら危ないよ」と忠告されることもあるけど、「行ってみなきゃ分かんないじゃん」「勝手に線引きしてるけど、行ってみたらこっちと変わらないかもしれないじゃん」みたいな気持ちもあって、その狭間で揺れ動く。だけど、結局は「逃げて」しまう。それを「失恋の歌」とは、あんまり言いたくないんですよね。だから説明が本当に難しいんですよ(苦笑)。

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ーー自分とは違う世界にいて、魂を解放してくれる存在というのは、本来は肯定的に書かれることが多いですけど、ここでは、そういう存在から「逃げて」しまった人のことを否定せず、むしろ肯定しようとしているのが重要なポイントなのかなと。

TOMOO:「今は、『そのとき』じゃなかったのかもね?」みたいなことってあると思うんです。私、この歌詞を書いていたときに「けれど、いつかまた路地裏で出会う」ともメモに書き込んでいたんですよ(笑)。なんかそういうこともあるのかなって。自分の世界や価値観を捨てて、何かが壊れてでも境界線の向こうへ駆け出す選択肢もあったかもしれないけど、そこまで無理しなければならないのは、実際はそのタイミングではなかったのかなと感じることもあって。

 何もかも断ち切って、今ある関係性までをも壊して飛び込んでいく「解放」も、それはそれで勢いがあっていい場合もあるけど、そうじゃなくて、その先にも「解放」は訪れるんじゃないかなと。そのときに誘ってくれたり、提示してくれたりしたルートじゃなくても、自分のペースでゆっくりゆっくり歩いていたら、いつの日か違うあり方で解放されることもあるんじゃないか。そういう意味では、「逃げて」良かったのかもしれないなって。

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ーーそれを、「いつかまた路地裏で出会う」という言葉でメモに残していたのですね。

TOMOO:はい……めちゃくちゃ抽象的な表現になってしまってすみません!

ーー(笑)。高木祥太さんのサウンドプロデュースも、絶妙な湿度があってこの曲にぴったりですよね。

TOMOO:作った時から絶対に高木さんにやってほしいと思っていました。高木さんとは実は、二十歳くらいの頃から関わりがあって。「いつかアレンジできたら良いね」みたいな話から、最初に「Friday」と「レモン」(いずれもEP『Blink』に収録)を手掛けていただいたんです。その後にアレンジしていただいた「恋する10秒」や「ロマンスをこえよう」もそうですが、クラシカルなバックグラウンドとブラックミュージックのルーツ、さらに民族音楽的なものへのセンサーなどが混じり合ったカテゴライズできない風景を持っている方で、それが私的には以前からしっくり来るというか。高木さんにしか出せない気品、ノーブルさみたいなものが欲しいときに、いつもお願いしているんです。この曲もまさにそうだったんですよね。

ーー前作「17」にもストリングスが導入されていましたが、アプローチが全く違うところも面白かったです。

TOMOO:「17」はトオミヨウさんに、さらっと風通しのいい感じに仕上げていただいたのですが、この曲も同じようにテンポがゆったり目の楽曲なので、弦楽器の入れ方に対比をつけたいという話は、最初の段階で高木さんにお伝えしました。そういうアプローチの違いにも気づいてもらえたら嬉しいですね。

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