新海誠が『すずめの戸締まり』で試みた“脱RADWIMPS” 昭和ポップスの起用や共同制作者を迎えた意味

 11月11日公開の新海誠監督最新作『すずめの戸締まり』。前々作『君の名は。』(2016年)、前作『天気の子』(2019年)に続き、劇中音楽はRADWIMPSが手がけた。しかし過去2作とは異なり、野田洋次郎(Vo/Gt)が歌唱を務める楽曲はエンディングテーマのみ(サウンドトラックには野田が歌唱した本編未使用曲を追加収録)。本稿ではこの変化の意味を探っていきたい。

 振り返ると『君の名は。』の劇中では実に4曲、野田がボーカルを務める楽曲が流れる。その歌声は物語そのものの叫びのようであり、作品のメッセージを強化していた。また『天気の子』では三浦透子をゲストボーカルに迎えた楽曲もあり、より“君と僕”の関係性にフォーカスした楽曲が多く並んだ。RADWIMPSがデビュー当時から歌ってきたラブソングの信念が刻まれているのだ。

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 そして本作『すずめの戸締まり』では、ボーカル曲は2曲に減り、そのうち1曲の「すずめ」は新人の女性ボーカリスト・十明が歌唱を担当。また作品本編ではこの楽曲しか流れない。その代わり、この作品を強く印象づけているのは懐かしいJ-POPや昭和の歌謡曲たちだ。

 主人公・すずめが旅の途中で辿り着く神戸のカラオケスナックで、ほろ酔いの客たちが歌うチェッカーズや中島みゆき。また物語の鍵を握る青年・宗像草太の友人である芹澤朋也が“ドライブミュージック”として流した荒井由実、松田聖子、井上陽水など、聴き馴染みのあるポップスたちが映画を彩っている。

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 これらの楽曲は人々のありふれた、しかしかけがえのない営みを映し出す。『すずめの戸締まり』は過去作同様に男女の主人公をメインに据えた映画ではあるが、同時に日本全国を旅するロードムービーでもあり、目線はそこに暮らす人々へと向いている。自然災害や突然の死と隣り合わせの世界で生き続ける人々の“生活の歌”として親しまれているヒットナンバーたちが、平穏な日々の愛しさとそれが脅かされる不安を浮かび上がらせる。

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