新海誠が『すずめの戸締まり』で試みた“脱RADWIMPS” 昭和ポップスの起用や共同制作者を迎えた意味

『すずめの戸締まり』で試みた“脱RAD”

 逃れられない震災の恐怖やトラウマと正面から向き合い、また家族の結びつきや多くの人々との交流を描くなど、過去2作とは異なる趣向を持つ映画だからこそ、RADWIMPSもそれに応えるように、ロックバンド然とした楽曲ではないサウンドで映像への親和性を高めた。劇中音楽の共同制作者として『メタルギアソリッド』シリーズや『攻殻機動隊SAC_2045』の劇伴で知られる陣内一真を迎えたことも大きなトピックだろう。

 『すずめの戸締まり』の主要な舞台は全国各地にある廃墟だ。時間を止めた景色が持つ記憶が物語を大きく動かしていく。場面ごとに特有のノスタルジーや神秘性を演出するために、陣内と共同で和楽器をはじめとする民族楽器を取り入れたタイムレスなメロディと音色を持つ楽曲を作り出した。ギターサウンドはほぼ皆無であり、時にビッグバンドジャズ、時に荘厳なコーラスをメインとする曲など、多彩なアプローチを行っている。

RADWIMPS - すずめ feat.十明 [Official Lyric Video]

 それゆえエンドロールで流れる野田洋次郎の歌声による「カナタハルカ」もかえって印象に残る。これまでの作品の主題歌に近い“君と僕”を歌うラブソングだが、様々な出会いを描き、様々な愛の形を見せた映画の後だからこそ、愛の起点として物語全体を包み込むに相応しい響きをもっているのだ。RADWIMPSらしい楽曲が最後にある安心感もまた、特別だ。

RADWIMPS - カナタハルカ [Official Music Video]

 劇中における“脱RADWIMPS”という演出がむしろ、その存在感を際立たせるという一つの境地に達したかに見える新海誠とRADWIMPSの関係性。次作があるのか定かではないが、また導かれさえすればきっと邂逅を果たすはず。『すずめの戸締まり』はそんな信頼が見える作品だった。

■公開情報
『すずめの戸締まり』
【キャスト】
声の出演:原菜乃華 松村北斗
     深津絵里 染谷将太 伊藤沙莉 花瀬琴音 花澤香菜
     松本白鸚
原作・脚本・監督:新海誠
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:土屋堅一
美術監督:丹治匠
(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会
公開日
2022年11月11日
全国東宝系にてロードショー
公式サイト:https://suzume-tojimari-movie.jp/

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