水咲加奈が追い求める自由な創作 はろー(『BREAK OUT』MC)との対談で明かす、制約の中にこそある刺激
感情の叫びが“ポップス”になった瞬間
ーー「水色になる」に限らずですけど、ここに入ってる曲ってライブでもやっている曲だし、すでにリリースされていた曲もあるじゃないですか。でも聴いて受ける印象が全然違いますよね。
水咲:あ、本当ですか? これまでやってきた「水色になる」のライブアレンジもまた音源と全然違っていたりするし。あと音源も、「生残者」は聴く日によってちょっと遅く感じたりすることがあって。音が低く感じるときもあるし、「今日はテンポが速く感じるな」みたいなこともあるし。
はろー:心のコンディションによって?
水咲:ですかねえ。聴く人によっても解釈は絶対違うし、聴く人の状態によっても違うかもしれないなって。
ーーはろーさんが「水色になる」の最後の声がすっぴんのように感じたっていうのも、はろーさんの心のコンディションが影響しているのかもしれない。
はろー:そうかもしれない!
ーーでも全部そうですよね。たとえば「これは悲しい歌です」とか「明るい歌です」とか、決めつけない感じがあるというか。
水咲:そうですね。ある意味まとまりがない。ヘンテコな部分もあるし、歌も上手い/下手だけじゃないからこその面白さは感じていますね。
ーーあとEPの中で伺いたいのが「yayuyo」という曲のことで。これは水咲さんが過去に自主制作のアルバムにも入れていて、ずっと歌ってきた曲ですけど、それを今回改めてレコーディングして、ご自身ではどういうふうに感じますか。
水咲:この曲は「明後日レコーディングしちゃうよ」みたいにあっという間にやることが決まって、あっという間に終わった曲なんです。いきなりすぎて、前日とか大泣きしてたりしたんですけど、気づいたら終わっていた、みたいな(笑)。でもピアノの前に座ったり、マイクの前に立ったりすると、どんなときでも「yayuyo」になれる曲で。前日、たとえ体調が悪くて泣いていたとしても、心を絶対に“あのとき”に持っていけるんです。だから聴いてくれる人も、聴けばあの頃を思い出せるとか、あの人を想像できるみたいな曲になったらいいなって思っていますね。
はろー:2016年にリリースしたアルバムのなかでも「yayuyo」は一番輝いていた曲だと思うんです。番組で紹介させていただくってなったときも「やった、『yayuyo』だ」って思ったんですよ。それぐらい自分も思い入れのある楽曲で。その2016年バージョンは感情の大小みたいなものをしっかり表すみたいな、幅をすごく感じる曲だったんですけど、今回は頼もしくなっているなと感じたんですよね。僕はそのときを知らないけど、心の成長みたいなものを感じて。
水咲:レコーディングでいうと、初めてクリックを聞いてレコーディングしたのが結構大きくて。クリックの限られたリズムの幅の中で歌うと、リズムの揺れを大きく変えることはできないじゃないですか。その中でどこを表現しようってなったときに、余白を与えたいなと思ったんです。よくも悪くもなんですけど、あんまり自分の感情を見せないことによって聴く人の想像力をかき立てられたらいいなって。歌っているときはすごく心が動いているんですけど、それをセーブしてというか、わかりやすく声の音量を大きくするとかじゃなくって、心だけを大きく動かしながら普通に歌うことに挑戦しました。
ーーそれってざっくり言っちゃうと「ポップスになった」っていうことだと思うんですよ。本当に感情の叫びだったものが、今回はちゃんとクリックに沿って、聴き手のことを大事にする曲になった。
水咲:そうですね。でも大事にしているからこそ、また5年後とかにグラグラのリズムでリリースできたりしたら楽しいですけどね。ライブでは揺れまくったり、あえて普通に歌ったり、いろいろしているので。いろんな場面で楽しめるかなって思います。
「自分の音楽で人の殻を破りたい」(水咲)
ーー節目ごとに「yayuyo」を出すというのも面白いかもしれないですね。
はろー:水咲加奈の定点観測ができるのが「yayuyo」かもしれないですね。いい曲だからなあ。最初に言いましたけど、クリックを聞いて制限が増える中でも、やっぱり自由さをちゃんと感じるんです。今話をしていてもそう思いました。
水咲:すべてに抗う気持ちは常にありますからね。音楽もそうだし、人に対してもずっと抗っている感じはあって、ここ2年でさらに増した気はします。自分の自由に向かって……じゃないと新しい音楽は開けないかなって思う。
ーーそれは逆にいうと、何かしらの不自由さみたいなものを常に感じながら音楽をやっている感覚もあるということ?
水咲:そうですね。だから本当に、満たされていないことに自分は生かされている感じがあって。その限られた中でどれだけ自由を切り開けるか、というところが一番大事だなって思っていますね。
はろー:僕は逆だ。いつでも満ち満ちているっていうマインドでいようとしているから。どれだけまずいこととか上手くいってないことがあっても、「今これだけいい状況だから」ということを常に言い聞かせているんで。それでポジティブさを保ってる。
水咲:それは素敵ですね。
はろー:でもそのハングリーさみたいなのも、音楽を作る上では必要不可欠なものだと思うし。今、お互いに生きている上での感情の持っていき方の差みたいなものを感じて、めちゃめちゃ面白いと思いました。不自由さっていうのはやっぱり力になる?
水咲:そうですね。でもストレスがすごいときもありますけどね。眠れなかったり、お酒の量が増えたり(笑)。
はろー:僕、お酒をまったく飲めないから発散できるポイントが全然なくて。いつも理性で生きちゃってるから。
水咲:私、そういう人の方がたぶん好きです。プレイヤーさんでも「変態だな」って人が好きなんですけど、型にはまって上手に器用にやってくれる人がいると「壊したいな」と思っちゃう。自分の音楽で人の殻を破りたい、みたいな。
はろー:すごいパンチライン出た(笑)。今日イチ。
水咲:よく言ってます。「あの人壊せたな」って(笑)。もちろんその人によって私の殻を破っていただけるところもあるし。やっぱりいろんなタイプの方がいらっしゃって、最初は私もよくわかってないから引っ張っていただいて、まずそこで自分の殻が破れたんですけど。今度は「この人のことも破りたいな」って押し合いみたいなことができている実感があるので楽しいですね。
はろー:いいですねえ。
水咲:自分の音楽が、何か小さくてもいいから刺激になったらいいなと思っていて。私、教科書に載るような新しい音楽を作りたいと思っているんです。不自由の中で抗って自由を求めて、まだ自分にしか出せない音みたいなものは探求中ですけど、最終的には歴史を塗り替えるくらいの音を常に探しています。
はろー:『ドラセナ』は水咲加奈が音楽シーンにおける重要人物だっていうことを示せた作品になったんじゃないかなって思うし、聴いている人にも「音楽って自由だな」と感じてほしいですね。
■リリース情報
水咲加奈 EP『ドラセナ』
2022年10月26日(水)配信
<収録曲>
M1 蜃気楼
M2 (B)President
M3 水色になる
M4 生残者 (ドラセナVer.)
M5 疑え
M6 yayuyo