米津玄師、Official髭男dism、YOASOBI、Ado、藤井風……2022年後半に迎えたリリースラッシュ、重要楽曲をピックアップ

 2022年も佳境に差し掛かる10月。立て続けに、現在の音楽シーンを代表するアーティストたちが新曲をリリースしている。しかもその多くが今年のハイライトとも呼べるような楽曲に仕上がっており、この先2022年のカルチャーを振り返る際に重要な曲ばかりだ。本稿ではそんなリリースラッシュの中から5曲をピックアップしていく。

 10月12日に配信リリースされた米津玄師「KICK BACK」。アニメ『チェンソーマン』(テレビ東京ほか)のオープニングテーマとして書き下ろされた本曲は、常田大希(King Gnu/millennium parade)と共同で作り上げたアグレッシブなバンドサウンドと無機質な電子音が織り成す焦燥感が特徴的だ。小気味よい押韻やスピーディな曲展開は、米津の出自であるボーカロイド音楽の要素も感じられる。歌唱は今までになくノイジーで、強烈にユーモラスなMVもこの曲の狂気的な魅力を後押ししている。

米津玄師 Kenshi Yonezu - KICKBACK

 『チェンソーマン』の主人公・デンジの心象を映したような欲望と破壊衝動に満ちる歌詞も良い意味で荒々しい。ギターロックとボーカロイド的要素の融合体たるサウンドとともにこれらの言葉が吐き出される説得力は凄まじく、自身の内的風景と作品の世界観が見事に溶け合っている。この時代を覆う暗いムードを切り裂くような、ダークかつ空虚な激しいエネルギーを放つ2022年を代表するロックナンバーと言えるだろう。

 10月12日に配信リリースされたOfficial髭男dismの「Subtitle」。ドラマ『「silent』(フジテレビ系)」の主題歌だ。胸に迫るメロディは王道バラードとしての普遍性を保ちつつ、そのアレンジは先鋭的だ。ピアノと歌から始まり、モダンなビート、美しいクワイア、力強いシンセベース、感情の横溢のようなギターが渾然一体となって曲世界を立体化させている。

Official髭男dism - Subtitle [Official Video]

 大切な相手へ想いを伝えるための試行錯誤。それを〈《雪〉》や〈《火傷〉》といった温度にまつわる描写で巧みに表現したこの歌詞はウィンターソングとして、そしてラブストーリーのエンディングテーマとして極上の切なさをくれる。言葉とはいかに曖昧で届きづらいものなのか。それを示すかのように詰め込まれた複数のレトリックはこの曲の切実さを体現している。顔の見えない繋がりが中心になりつつある時代において、隣にいる親愛なる“君“とのコミュニケーションをみつめなおしたくなる1曲だ。

 10月1日配信リリースのYOASOBI「祝福」はアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(TBS系)オープニングテーマ。この曲はアニメ本編の前日譚にあたる小説「ゆりかごの星」を原作としており、まさしく物語の幕開けを彩るような1曲となっている。ピアノサウンドは煌びやかで疾走感溢れるアレンジだが、フレーズの随所に忍ばされた不穏さはバトルシーンの多い『ガンダム』作品に相応しいスリリングさがある。

YOASOBI「祝福」Official Music Video (『機動戦士ガンダム 水星の魔女』オープニングテーマ)

 根強いファンの多い『ガンダム』シリーズだが、『水星の魔女』は女性主人公の学園モノである点や、女性同士の婚姻が描かれる点など今までにない描写も目立つ。主人公と共に戦うガンダムの目線で綴られたと思しき「祝福」の歌詞にも〈誰かが選んだステージじゃなくて 僕たちが作っていくストーリー〉〈決め付けられた運命 そんなの壊して〉とあり、主体性の堅持や抑圧からの解放を想起する描写が多い。従来の価値観を打ち破り、これからの時代の物語に相応しい言葉選びで高らかに歌いあげられたテーマソングだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる