米津玄師、Official髭男dism、YOASOBI、Ado、藤井風……2022年後半に迎えたリリースラッシュ、重要楽曲をピックアップ
10月10日にリリースされたAdo「行方知れず」は、ホラー映画『カラダ探し』の主題歌。癖の強い節回しとエネルギッシュな展開が特徴的なこの曲はAdoが長らく憧れてきた椎名林檎からの楽曲提供だ。リリースに際してのコメント(※1)で椎名林檎はAdoに向けて強いリスペクトを寄せその歌声を絶賛しており、相思相愛のコラボレーションだ。
「行方知れず」はパートごとにくるくると表情を変える歌声とサビのピークポイントでAdoらしい豪快なシャウトを堪能することができ、ボーカリストとしてのポテンシャルを見事に引き出している。心ない声に立ち向かう姿勢を描いたかのような歌詞はAdo自身やSNS時代に疲弊する若い世代に向けられた鼓舞のようにも聴こえる。そんな楽曲の持つメッセージをAdoが当事者の声として歌うことで何倍にも膨らませている。作り手と歌い手の揺るぎない信頼が生んだ濃密なエネルギーが渦巻く1曲だ。
同じく10月10日リリースの藤井風「grace」はNTT docomo「KAZE FILMS docomo future project」のCMソング。規則的なビートの中で跳ねる鍵盤とスムースなメロディラインが心地よく、終盤に向かうにつれ、荘厳なコーラスワークと強調されたリズムによって強烈な高揚感へと誘われるスケールの大きな楽曲だ。ボリウッド映画の幸福感を持ち込んだようなオールインドロケによるMVも強いインパクトを残す。
学生クリエイターが映像作品を作る企画から生まれた「grace」。この曲で歌われるのは、安息や平穏を求め自分の内側へと辿り着く心の移ろいだ。〈あたしに会えて良かった やっと自由になった〉という自らを愛し慈しむ実感のような言葉が現代の若者に向けて贈られることの意義は格別だ。不安定な時代を自分なりに生きるヒントとして聴かれ続ける楽曲になるだろう。
今回紹介した5曲は、どれも自身の磨いてきた強みを全面に押し出したものが多い。なおかつ、それぞれのアーティストの目線で語られるこの時代を生きる聴き手へのメッセージをキャッチできるような楽曲ばかりだ。シーンの先頭を走りながら、タイアップとしての役割を果たしつつ、先進的なアプローチの先でリスナーにも寄り添う。時代に求められるアーティストの重要曲にリアルタイムで出会える幸運を喜びたい。
※1:https://www.universal-music.co.jp/ado/news/2022-08-18/