44年ぶり復活のザ・タイガースが見せたドラマ――再結成バンドが輝く時とは

20140112-tigers-01.jpg
病気療養中の岸部四郎とともにステージに上がったザ・タイガース。

 東京ドームの広大なステージの真ん中に、車イスに座った岸部四郎が現れた。そしてオリジナル・メンバーの5人に囲まれながら、1曲だけ、ビートルズの「イエスタデイ」を唄った。岸部四郎は、かつてのタイガースでは後期に在籍したメンバーなのだ。病気療養中の彼の歌声は、力強いとは決して言えないものの、真摯な響きがあった。2013年12月27日、再結成したザ・タイガースの全国ツアー最終日の一場面である。

 今回のタイガースの再結成は、なんと44年ぶり。つまりグループサウンズ(GS)の時代以来だ。解散から再結成までにここまで長い時間を費やしたバンドは、そうはないだろう(注/この間、1982年の「同窓会」、2011~2012年の沢田研二のツアーへのメンバー3人の参加などはあった)。その背景には、解散後にドラムスの瞳みのるが教師の道を選んだことなどがあるが、それが再結成に至った経緯については彼の著書『ロング・グッバイのあとで』(集英社)、『老虎再来』(祥伝社)、『ザ・タイガース 花の首飾り物語』(小学館)に詳しいので、ぜひご参照いただきたい。

 この再結成コンサートで、タイガースならではのカラーを最も感じたのは、美しいコーラス・ワークだった。とくにヴォーカル&ギターの加橋かつみのハイトーン、個性派俳優としても知られるベースの岸部一徳(四郎の実兄)の低音ヴォイスが相まった個性は無二のもので、全員が還暦を超えていながらも、その声の重なりを生で堪能できたのは至高の体験だった。タイガースのヒット曲の多くは当時の作家が作ったものだが、そこにビート・バンドとしてのパワーと彼ら特有のエレガンスさが混ざり合うことで、それまでの歌謡曲とも、その頃勃興していたロック・シーンとも別次元のポップ・ミュージックを作り出せていた事実を再認識できるライヴだった。

 もうひとつ、今回のタイガースで特徴的だったのは、5人の意志が強く働いていたことだ。活動にあたっては、各人が役割をまっとうし(たとえば、自らを宴会部長と称したヴォーカルの沢田研二はチャリティ・シングル「THE TIGERSのWhite Chirstmas」の制作、ギターの森本太郎はアレンジ面を担当)、久々のライヴなのにサポート・メンバーを起用せず、5人だけの演奏を貫いた。コンサートの第1部で洋楽のカバーを並べたのは、自分たちの原点を確認する意味があったはずだ。そして、第2部のオリジナル曲のセットでは「青い鳥」「花の首飾り」「君だけに愛を」といったヒット曲群に加え、80年代の「十年ロマンス」「色つきの女でいてくれよ」、さらに1969年当時の彼らの指向性を照射したコンセプト・アルバム『ヒューマン・ルネッサンス』からの楽曲がチョイスされていた。

 そうした姿勢は、岸部四郎が唄ったシーンで、より鮮明になった。実は、彼は2年前の沢田のツアー最終日でも同じく車イスの上でヴォーカルを披露しているが、それを再び行うことで、ついに歴代メンバーが初めてひとつのステージに集う瞬間が実現したのだ。その光景に、僕のそばの女性客はハンカチで目頭を押さえていた。沢田は「いつまでたっても、6人でザ・タイガースだと思っております」と、感慨深そうに語った。熱い夜だった。

 2013年のザ・タイガースは、魂と魂の交感が促した再結成だった。なにしろ彼らには、京都のアマチュア時代からの強い絆があるのだ。そして、バンドの再結成にはこうしたヒューマンなドラマがつきまとうものだと、かみしめた次第だ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる