9mm Parabellum Bullet 菅原卓郎&滝善充、『TIGHTROPE』全曲解説 アルバムに反映された3年間の心の動き

9mm『TIGHTROPE』全曲解説

「タイトロープ」という言葉自体が出てきたことがすごくよかった

ーー6曲目「Tear」。メタル要素もありつつ、メロディックな滝さん節全開な曲でもあると思います。

滝:そうですね。Aメロにメロウな感じの歌が乗ってるんですけど、そこにハイトーンの絶叫が鳴っていても曲としては成り立つので(笑)。それで逆にメロディックな感じでバランスを取りました。イントロとかも超変拍子だし、すごく実験的な内容で。これも『BABEL』の時にできてたんですけど、ちょっとやり過ぎてるから収録曲から外れたんです。前後との相性が合わなかったりとか、曲としての短さもそうですし。でも今回、曲が集まってきた時に、逆にすごく個性的で良いなという気もして。不安もあったんですけど、ちゃんと録音して歌詞と歌が乗ったら良い曲になるだろうと見越して、GOサインを出しました。

ーー歌詞は狂おしいライブソングとして響いてくる。

菅原:そうですね、俳句とか万葉集とかに載ってそうな感じのエモーショナルな表現かなと思って。文字数もあまり乗らないし。「もうあなたに会えないくらいだったら消えてしまいたい」みたいなものが短歌とかにもいっぱいありますけど、聴き味的にそういうものになったらいいなというか。

ーー続いてはタイトルナンバーでもある「タイトロープ」。ある意味ではタイトル曲らしくないところもまた魅力になっている曲だなと。

滝:これもオケに関しては昔からあった曲なんですけど、アルバムの中で最後に収録が決まって。卓郎と一緒に、アルバムの1曲1曲の要素を、(テンポが)早いか・遅いか、明るいか・暗いか、みたいなチャート式にして紙に書いて、詳しく検証して、「足りない要素がこの曲にしかない!」って。

菅原:「全部詰まってる!」ってなって。

滝:尺としては一般的で普通の曲なんですけど、このアルバムの中では長いっていうのもキャラ的に良くて。

ーー歌詞は危ういハードボイルド感があるというか。

菅原:綱渡りの歌だなって決めて書き始めてからすごく苦戦して。本当に歌入れの直前まで書いて、マジの「タイトロープ」だったから、その話自体がすごく恥ずかしいという(笑)。でも、歌詞を書いた紙をプリントアウトして「タイトロープ」というタイトルを見た時に、「もしかしてこれがアルバムタイトルじゃない?」という話をして。「タイトロープ」という言葉自体が出てきたことがすごくよかったから、曲のタイトルはカタカナ表記にして、アルバムはもっと包括的なイメージが入ってくるようにアルファベットにしました。

ーーアルバムタイトルが意味する『TIGHTROPE』と単曲の「タイトロープ」が意味するニュアンスは異なる。

菅原:そう、ちょっと違うんだよっていうことを感じてほしくて別の表記にしてます。

ーーでも、アルバムの大いなる一部であることは間違いない。

菅原:そうそう。歌詞を書いてた時は「Black Market Blues」のような、歌謡曲とロックの合体したハードボイルド感をやればきっと成功するって思ってたんですけど、こうやって後から歌詞を見てみると、「いつまでこんなふうに声を出さないでライブを見なきゃいけないの?」「こんなこといつまで続けるの?」という、今の世の中のフラストレーションにも繋がってきてるように思うし。ところどころで本音が出てきているような感じがします。

ーー続く「Spirit Explosion」はもう、インストでありながらいくらでも歌メロをつけられそうな曲で。

滝:僕のギターのメロディはだいたい歌メロですもんね。最初にギターを覚えた時、ポップスのメロディをずっと弾くっていう練習の仕方だったので、基本的に歌メロっぽく弾く癖がついたんですよね。昔はデモも全部ギターでメロディを入れていたし。

菅原:でも本当にそのくらい差で「この曲は歌ないかな」くらいでした。もし「歌ありなんじゃない?」って言ってたら「そうだね」って歌詞が乗るというくらいで。ただ、作った時期が新日本プロレスの「レック Presents G1 CLIMAX 30」向けにインストをたくさん作ろうっていうモードだったので、俺たちもインストだと思って聴いてるところもあって。

滝:俺もインストでしかできない頭になっちゃってた。

ーーこのフレーズは三味線で弾く和メロ的なニュアンスもあるなと。

滝:それもあるんですよね。でも、第一マインドはサーフミュージック的なものをやろうと挑んでましたね。最終的に何が表現されているかは聴いた人それぞれの感想にお任せします。

「もう沈むしかないなら、一回沈もう!その後上がればいいや」

菅原卓郎(Vo/Gt)
菅原卓郎(Vo/Gt)

ーー次は「泡沫」。先行リリースされた楽曲でありながら、アルバムに入ると作品全体を象徴しているようなムードもすごく感じます。

滝:コロナ禍で、暗い時期に差し掛かったあたりでこの曲に手をつけ始めたので、「つらいな、つらいな」って思いながら弾いてたら、2番に突入したあとにだんだんギターが遅くなってしまったんです(笑)。「もう、曲止まっちゃうよ」っていうくらいまで遅くなってきて1回切り上げたんですけど、でも遅くなっちゃうくらいギターを弾くのがつらいのかな、なんならそのまま曲にしてみようかなと思って途中の遅くなるパートを作りました。

ーーレイドバックして、ちょっとシューゲイザーっぽくなる。

滝:そうですね。で、轟音で、「もうだめだ」的な感情を表現して。

菅原:渦巻いてね。

滝:そう。

ーー歌詞には1曲目「Hourglass」とも通底するような死生観を感じました。

菅原:これは、『BABEL』の再現ツアーのチケットにつくCDに収録する曲にしようとなったので、『BABEL』に入っていてもおかしくない曲、歌詞の世界観というイメージで。だから歌詞の最後に〈こわれてもまだ消えない泡〉とあるけど、「9mmが大変なことになっちゃってるなってみんな感じていたかもしれないけど、消えません」という気持ちを乗せて。あと、〈沈めてくれ〉という部分は、当時は「もうどうにでもなれ!やるしかない!」という感じだったから、そういう状況の時は、さっきのギターを遅く弾かざるを得ないなら遅くしようというマインドと同じで、「もう沈むしかないなら、一回沈もう!その後上がればいいや」という感じでもありました。

滝 善充(Gt)
滝 善充(Gt)

ーーそして、ラスト10曲目の「煙の街」です。歌としては歌謡性に富んだスローナンバーで、間奏で轟音も降り注ぎ、映画的な余韻を残して終わる曲だなと。

滝:そうですね。これも携帯のメモに入っていて、笑ってしまうくらい暗かったんですけど、Aメロから綺麗に1サビまで「ラララー」って歌っていて。「ムード歌謡みたいなイメージを感じたんです。そこからイメージが出来上がってきて。なんて言えばいいんだろう? あのイメージは……。

菅原:コンビナート街みたいなね?

滝:そうそうそう。

ーー工業地帯の風景というか。

菅原:川崎とか、四日市とか。

滝:そういう現場の画が段々思い浮かんできて。1960年くらいの工場が沢山できていた頃の、建築技法も上がって高度経済成長と言われているような時期に働いていたおっちゃんが「体だるいな」って思いながら仕事を終えて、カラオケスナックに行って、当時のムード歌謡を歌ってるみたいな。で、4畳半風呂なしの部屋に帰るんだけど、知らないうちに体が蝕まれていくような、そんなイメージが思い浮かんで。

菅原:すごく映像的なイメージがあったよね。

滝:今回、他の曲がこれまでやってこなかったくらい音符が少ないアレンジになってたり、いきなり歌から始まったりしてるので。バランスをとるためにも、爆音は9mmとして必要なものだと思って入れましたね。

ーー歌詞は卓郎さんが滝さんのイメージをしっかり受け継いで書いた感じですか?

菅原:そうですね。でもやっぱり昭和を書こうとすると、おかしな力の使い方になりそうだったから、今は令和だし、この先も聴いてもらえるように何か普遍的な感覚に届くほうがいいなって思って歌詞を書きました。あるエンジニアが「『煙の街』というのは『白夜の日々』と同じで、今のコロナ禍の街のことを指してるようにも聴こえるし、2人が話してたイメージも分かるんだけど、また違った聴こえ方もする」というふうに言っていたんです。その話を聞いて「煙の街」が指しているものは工場の街だけじゃなくて、みんなが置かれた状況の喩えにもなるんだなって思いました。あと、楽曲に希望みたいなものも少し欲しくて。2番のAメロで〈信じてみたいよ この街の中で〉って歌ってるんですけど、それは絶望しきってるように感じるけど、でも「信じてみたいな」って言ってる人も半分くらいはいるはず。そういうところに、この歌詞に出てくる主人公はそのうちなんとか立ち上がるんじゃないかというイメージを感じるかなと。

ーー最後に、本作とここから始まるツアーを経て、来年に向けて言えることは……今はまだないか(笑)。

菅原:ははは(笑)。でも、来年は19周年だから、20年より先に何かしらお祝いをしようかなとは思っています。

滝:そうですね。比較的、20周年よりも19周年のほうが気合が入りそうですね(笑)。

菅原:だから、20周年は肩肘張らないでやれるという得なバンドです(笑)。

■リリース情報


9mm Parabellum Bullet『TIGHTROPE』
2022年8月24日(水)リリース

■ライブ情報
9mm Parabellum Bullet presents『Walk a Tightrope Tour 2022』
9月9日(金)Zepp Osaka Bayside
OPEN17:30/START18:30
9月11日(日)Zepp Nagoya
OPEN16:30/START17:30
9月19日(月)Zepp Fukuoka
OPEN17:00/START18:00
9月23日(金)仙台 GIGS
OPEN16:30/START17:30
10月2日(日)Zepp Haneda
OPEN17:00/START18:00
10月9日(日)Zepp Sapporo
OPEN16:30/START17:30
チケット代:税込5,200円(D代別)

■関連リンク
オフィシャルHP:https://9mm.jp/
9mm Parabellum Bullet 日本コロムビアHP:https://columbia.jp/artist-info/9mm/

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