9mm Parabellum Bullet 菅原卓郎&滝善充、『TIGHTROPE』全曲解説 アルバムに反映された3年間の心の動き

9mm『TIGHTROPE』全曲解説

今はもう逆にリアルなことしか書いてないつもり

ーー次の「All We Need Is Summer Day」もそうですが、ライブの画を浮かべながら書いてるところもあったのかなと。

菅原:そう。みんなが歌ってるリアクションは想像するし、あと、去年の9月9日にライブで1回やった時は、歌詞が全然自分でピンときてなくて(笑)。まぁでも、やるべ! ってやったんだけど、そのダメな感じを一回やっておくことがすごく良く作用しましたね。

滝:どのくらい足りなかったかが肌でわかるからね。

菅原:全然足りてなかった。あとは今って、声を出したりできないし、前に比べたら不完全なライブの状態じゃないですか。でもそこを想定して書いてたらダメだって思っていて。全てが元に戻ったときっていうか、また新しい形になるかもしれないけど、その水準のライブになった時に100%の力を発揮しないとダメだなって。それはこの曲と、次の「All We Need Is Summer Day」もそうですね。

ーー「All We Need Is Summer Day」はダイレクトに夏フェスの光景が浮かぶ曲で。

滝:作っていくうちに、Aメロ、Bメロあたりから夏のような気がしていて、卓郎にも言っていた気がします。あとは、前作に「夏が続くから」という曲があって。それはアコースティックギターとか入れて、かなりクールな仕上がりになっているんですけど、リズムとかノリのアプローチは「All We Need Is Summer Day」と似てるんです。だから僕が抱いてる夏のイメージの根底にあるのは、「夏が続くから」みたいなニュアンスだと思います。

菅原:あとはスタッフが、「すごく盛り上がりそうだからフェスで“勝ち曲”みたいになったらいいよね」っていう話をしていて。「じゃあもう夏フェスの曲にしよう!」となって。

ーー続いて、「白夜の日々」です。あらためて、すごくドラマティックなギターロック然とした聴き応えのある曲で。

滝:その時できていた曲の中では、やっぱり9mmの元から持ってる材料に一番近い曲かな、と思います。キメの感じとか、ノリとか、テンポ感とか。ただ、意外と構成で悩んで、卓郎に相談しましたね。こんなに悩んだのも今まで何曲もないくらい。

ーーこの曲の歌詞の描写、ストーリー性はまさにコロナ以降の世界が如実に浮かびます。

菅原:最初の緊急事態宣言が出た2020年の4月とか5月頃の「人に会わないようにしよう」とか、「出かけないようにしてください」って言われていた時期に書いていました。当時散歩をしていると、東京の天気が良くて。「こんな清々しくて生命力に溢れてる毎日なのに、本当にそんなこと起きてるの?」って思っちゃうような期間だったんですね。そういう空気感もあって、変な世界に迷い込んでしまったような歌詞の世界観になってますね。それこそ白夜みたいに「毎日いい天気で太陽がある世界に迷い込んじゃったみたいだね、俺たち」っていう。

ーー卓郎さんはこれまで終末世界のその後とも捉えられるようなストーリーを9mmの歌詞でたくさん書いてきましたけど、コロナ以降は現実が追いついてしまった感じがあるじゃないですか。

菅原:パンデミック感がね(笑)。

ーーそう。ディストピアSFみたいな。

菅原:漫画とか映画みたいですよね。

ーー今のこの世界の様相と向き合って歌詞を書くことにどういう感触を覚えてますか?

菅原:いや、今はもう逆にリアルなことしか書いてないつもりです。フィクショナルなストーリーのあるものに感じるかもしれないけど、「Hourglass」でもそうだし、自分が感じていることそのままを書いてますね。

ーー5曲目の「淡雪」は轟音が降り注ぐすごくセンチメンタルなグッドソングで。

滝:この曲は(2017年リリースのアルバム)『BABEL』より前からあったんですけど、自分のスタジオを作った時に試しに録ったらこの曲ができてしまっていたということがあったんです。そこから5〜6年かけて4回くらい作り直してたんですけど収録はされず、今回のアルバムのためにもう一度チャレンジしようって作り直して。やっと収録することができました。本当はもっとメロウなアレンジだったんですけど、「エネルギーを出さなきゃ!」みたいなモードになってるところがあって、思ったよりラウド系になりました。美しい轟音を聴くと切なさを感じてしまうような人種でもあるので(笑)。切なさ、儚さを表現しているつもりではあります。

ーー歌詞についてはどうでしょう?

菅原:これは最初に聴いた時に〈さよなら〉って歌い出すしかないなと感じましたね。1番のサビが終わった後に聴こえてくるフレーズが、雪が降っているような情景を想起させるんですけど、同時に桜が舞っているような感じもする。じゃあ雪と桜が同時に降る時期っていつくらいなのかな? と思ったら、3月とか4月かなと。自分の田舎だとまだ雪が残ってたりするので。そういう時期に、別れのシーンで言いたいことがあったんだけど言えなくて、代わりに雪になって降ることがあったらすごく素敵だなと思って。この曲は誰かにカバーしてもらいたいくらいだよね。

滝:なんかね、女の子とかに。

菅原:声の低い人とかさ。

滝:ああ、いいですね。

菅原:書いておいてください(笑)。募集。

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