Maika Loubté、シンセサイザーと共に踏破する未開の音域 “ありきたり”を許容しない音楽制作への姿勢

Maika Loubtéが目指した未開の音域

 シンガーソングライター/音楽プロデューサーのMaika Loubté(マイカ・ルブテ)が、最新アルバム『Lucid Dreaming』を歌とアナログシンセサイザーのみで再構築したリワークアルバム『Lucid Dreaming: Synthesized Symphony』を8月31日にデジタルリリースした。

 その前の7月27日にはLISACHRIS(リサクリス)と共に制作し、客演にlIlI(リリ)、鎮座DOPENESS(ドープネス)を迎えたEP『Hana炎』(ハナビ)を発表している。

 エレクトロニックミュージックを複数のアーティスト視点から複眼的にアプローチしたEPとは打って変わって、その一月後には対極のベクトルに振り切った。しかしそこには矛盾はない。あるのは、“自由”への切実な渇望と、予定調和への反抗。

 彼女がプリミティブな弾き語りで実現したものとは果たして――。(川崎友暉)

ありきたりな日本語の曲にしたくなかった

Photography by Akio Nakai / (Lomo Lc-Wide - Lomography Lady Gery 400 B&W 35mm)

ーーまずは『Hana炎』の話からお伺いできればと思います。EPやLPのような作品集として、1曲も4つ打ちが入っていないケースはMaika Loubté史上初めてではないでしょうか。

Maika Loubté:そうですね、初めてです。今回、基本になるトラックは主にLISACHRISが作っていたので、確かに自分ひとりでは辿り着けないところに行けたと思います。4つ打ちが1曲も入ってないというのは、実は今言われて初めて気が付きました(笑)。特に自分では意識していなかったです。仰るように私は4つ打ちに頭が行きがちなので、そういった自分のスタイルから離れられたのは今回かなり大きな収穫でしたね。最初にLISACHRISがデモを作ってくれて、それに私が歌やメロディを乗せていったんですが、違和感がまるでなかったんですよ。

ーー作り手としての相性が良かったということでしょうか。今作に名を連ねたアーティストの中で、鎮座さん以外のお三方は今年6月にリリースされた『Lucid Dreaming: The Remixes』にも参加されてますが、そもそもの経緯をお伺いしてもよろしいですか?

Maika Loubté:LISACHRISとは5年ぐらい前の某アパレルブランドのイベントで初めて一緒になりました。ただ、そのときはお互いに顔を覚えた程度でしたね。彼女の活躍をインスタから眺めるみたいな関係が続いてたのですが、去年の6月ぐらいに「一緒にスタジオ入りませんか?」ってDMが私に送られてきて。そういったお誘いって、声をかける方はハードルが高いじゃないですか。だから私はすごく嬉しかったです。そこから一緒に遊んだりする仲になったんですけど、すごく気が合っちゃって。それからは特に用事がなくても会ってますから(笑)。lIlIさんは「犬天国」という曲を昨年リリースされていて、私がその曲のファンなんです。で、SNSで「この曲めっちゃいい!」みたいなことを言ったらご本人から反応をもらって。彼女とはそこからですね。その後、今度は私から「よかったら今度一緒にスタジオ入りませんか?」とメッセージを送りました。機会があればlIlIさんとも音楽をやりたいと思ってたので、LISAさんに相談した上で今回の『Hana炎』にも参加してもらいました。3人ともソロアーティストなので、本作では三者三様の“我の強さ”みたいなものを出せたかなと。

ーーヒップホップカルチャーからの影響は顕著に感じましたね。「メトロプレイヤー」では具体的にゲームを想起させ、アニメ(ラノベ)の“ハルヒ”にも言及されています。

Maika Loubté:そこもやっぱりLISACHRISの存在が大きいです。「メトロプレイヤー」の歌詞はすべて彼女が書いています。いつか遊んだ時に私が一方的にゲームの話とかをして、それを彼女が楽曲に落とそうと思ったと言っていた記憶があります。〈ミスルブテのガレージで毎度 異星人呼び出し可能〉みたいなフレーズがあるんですけど、私たちがスタジオで作業してるとデータがバグったり、何かとトラブルに見舞われることがありました。そういう事実や関係性を楽曲として残してゆく行為って、確かにヒップホップ的だと思います。自分はどちらかと言うと抽象的なアプローチを取ることが多かったので、そのあり方がすごく新鮮で刺激的でした。

ーー3曲とも日本語を主軸に書かれた曲ですが、そういったアプローチも今までに例がないのではないのでしょうか?

Maika Loubté:実は2014年ごろに自主制作みたいな感じで日本語のアルバムを出したことがあるんです。それ以降は英語やフランス語、日本語をミックスして楽曲を制作してるんですけど、楽曲によって適切な言語があると考えるようになったからなんですね。だから、今回もありきたりな日本語の曲にしたくなかったんです。それはLISACHRISとも話してました。例えば「emoh」にはコーラスワークを3人で行うところがあるんですが、そのリファレンスに挙がってきたのが乃木坂46だったんです。私にとってアイドルポップはベーシックでないところなので、ある意味でパワーワードに聞こえました。自分たちの馴染みのないところにヒントを求めたことも、今回目指す場所に着地できた理由なのかなと。

ーー複数人のプロデューサーたちが共作する場合、特定のパートをそれぞれが作るイメージがあるのですが、お話を伺っていると何となくそうではない方法で制作したような印象があります。本当にみんなで手探りしていたと言いますか…。

Maika Loubté:それはその通りですね。だから大変でした(笑)。いろいろ話し合いながら作業を行っていたので、時間もかかりました。仰るようにお互いのパートを決めてそれぞれの担当箇所については口を出さず、報連相はメールで行うほうが楽だったとは思います。でもこのメンバーはそれとは違うやり方の方が上手くいく予感があったし、実際今でもそうだと考えています。お互い「違う」と思ったら口出ししまくってました。進捗がなくなったら「少し時間を置いてみよう」とか言ったりして。その段階でプロジェクト自体がダメになる場合もあるんですけど、やっぱりアーティストとしての波長が合ったんだと思います。LISAさんにしろlIlIさんにしろ、それぞれスタイルが違うアーティストではあるんですが、似ている部分はたくさんあるような気がします。本当にありがたい存在。

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