和ぬかの恋愛ソングが“共感”を集める理由 ユニークな言葉とアプローチで綴られる歌詞の求心力
自分の中にある感覚を自分の中になかった語彙で言い当てられた時、人は“共感”を覚える。そういう意味で、和ぬかは、今最も共感を集めるソングライターの一人なのかもしれない。1stアルバム『青二才』に収録されているいくつかの恋愛ソングを聴いて思った。
例えば、ドラマ『ロマンス暴風域』(MBS/TBS)の主題歌として現在オンエア中の「ラブの逃走」がその一つだ。〈そっちのけ〉のリズムが楽しい軽やかな曲だが、「ラブの逃走」というタイトルの通り、自分にまとわりつく“ラブ”=なかなか消えない恋愛感情に対して、主人公が〈逃げ去って〉と命令あるいは懇願し続ける切ない歌詞になっている。「この感情がなくなってほしい」と思っている時点で気持ちがある証拠であり、つまり、この曲全体が表現しているのは言葉と心情が裏腹である様だ。そしてそれは多くの人にとって普遍的な悩みだろう。しかし普遍的な悩みを普遍的な言葉で歌うのではなく、“恋心の擬人化”というユニークなアイデアを下地に、ユニークな言葉で以って“人には言えない本音”を歌っているのがこの曲のポイントであり、それがリスナーに対するフックとなっている。
大ヒット曲「寄り酔い」もまた、言えない本音を歌った曲だった。〈家まで送ってもらいたいの〉という歌い出しはインパクトがあるし、この曲の主人公が抱く“一夜限りの関係でも構わないから、酒の勢いであの人に近づきたい”といった願望はかなり大胆だ。しかし〈言えるわけないじゃん〉とも歌われているため、これは、恋愛巧者ではない人が背伸びして吐いた言葉が歌詞になっているということだろう。普段言えないことも歌にできてしまうのが音楽の魔法とよく言われるが、それでも、ここまで色っぽく、かつ純真な歌詞というのはなかなかチャレンジングだ。だからこそ、聴く人の心に残ったのだろう。サビの語尾を〈~たいの〉に統一し、同じ音を反復させることで生まれる心地よいリズム、そして過度に感情を込めないボーカルのニュートラルさも相まって、多くの人が共感とともに口ずさむ恋愛ソングとして親しまれていった。