和ぬかの恋愛ソングが“共感”を集める理由 ユニークな言葉とアプローチで綴られる歌詞の求心力
「寄り酔い」と同じく一行目の美学を感じたのは「ニゲラ」で、〈あなたは未来がわかるのね〉と始まるこの曲は、未来が見える人との恋を歌ったものだろうか。やがて別れが来るという前提がある中であなたは私を愛してくれるのか、それとも愛してくれないのか。そういった主人公の心の揺らぎが伝わってくる。しかし考えてみれば、“出会いがあれば別れがある”、“幸福で愛に満ちた日々が永遠に続くことはない”という真理、それに伴う不安感は普遍的なものだ。ということは、この曲の主人公が本当に“未来が見える人”に恋しているのか、それとも“未来が見える人”など存在しないが、相手から愛されていない現状を“こういうことだよ、だからしょうがない”と思い込んで割り切ろうとしているだけなのか、実ははっきり分からないという結論になるのではないか。韻を踏みまくりながら言葉遊びを重ねる構成が核心をつかませてくれない。
“そもそも歌詞とはフィクションだ”という事実を逆手に取った二重構造になっている曲は他にもあり、例えば、別れが近いことを察しながら、自分がこれからフラれる理由について〈昨晩のビュッフェはシュガー多め?/既にご馳走様です?〉と歌う「シュガーロス」もそうだ。全体的に一癖ある言い回しが多いが、ただ伝わりづらい言葉として存在させているわけではないのがポイント。〈ぼんやりと見てた映画で/あなたと私 温度差がある〉という想像しやすい描写の直後に〈アシンメトリー埋めるはずのバッテリー/お別れの2駅前 戸惑い減速〉といった新奇な表現を重ねたり、〈さよならなんて言わないで〉という普遍的なフレーズの直後に失恋後のショックを〈国家滅亡の危機〉と比喩したりと、初めて聴く言葉でも自分事として認識させるために配置が工夫されている。
1stアルバム『青二才』にはこの4曲以外にも様々なラブソングが収録されている。アルバム2曲目のアッパーチューン「浪漫ショー」は、促音(小さな「っ」)による音の跳ねを活かしたAメロを筆頭に言葉をリズミカルに聴かせる曲だ。スローな1曲目「寄り酔い」から疾走感溢れるこの曲になだれ込む構成が気持ちいい。ブラスが入っていたりとサウンドは全体的に明るいが、歌詞から読み取れるのは、この恋に対する主人公の後ろめたさ、罪悪感だ。“僕”は〈きっと今まで生きてきた世では/幸が足りないのだろう〉と相手の境遇を想像しながら、相手の狡さも自分の狡さも分かったうえで、夢のように甘い恋に興じている。1番で登場した〈夜更けの立て役〉というワードが2番では〈夜更けの脇役〉と変化している点に主人公の心情が表れているように思う。
先に紹介した5曲は報われない恋を描いた曲だが、〈甘いミルクで苦いコーヒーを割らずにロックでキスしよう〉と始まる「ロックでキス feat.もっさ(ネクライトーキー)」は珍しくハッピーな曲だ。和テイストのメロディ&サウンドが一つの特色と認識されているアーティストだけにサビがまるっと英語なのも新鮮。少ない日本詞部分には〈niceステーション〉という他では聞かない単語があり、和ぬか節もしっかり炸裂している。〈今年の夏こそ愛を誓うよ〉とあるため、プロポーズソングとして解釈できるだろう。〈100年先も頼れぬ僕でも許しておくれ〉、〈甘く弱いあなたでいいのよ 素直でいてね〉と互いのことを認め合いながら、恋の先の愛へ向かおうとする二人の心情がもっさ(ネクライトーキー)とのツインボーカルで表現されている。
和ぬかの書く歌詞の何が人を惹きつけるのかというと、端的に言えば、ユニークであることだ。そして、ここまで言及してきたように、ユニークである要素は言葉選び、比喩、リズム、構成、物語の発想など多岐にわたる。だからこそ作家として楽曲提供のオファーをもらう機会やタイアップ曲に選ばれることも多いのだろう。ユニークとは言い換えると、“これはこの人にしか生み出せない”ということであり、そう思わせる要素が多ければ多いほど、作家性の限定、言い換えると“この人の書く曲は何だかいつも似ているな”という印象に繋がってしまうおそれがある。しかし現状そのようなことはなく、和ぬかの書く歌詞はいつも何らかの新しさを私たちに届けてくれるから不思議だ。独自であるとともに自由でもあり、底が知れないこと。それこそが和ぬかの最大の魅力なのかもしれない。
■リリース情報
【1st ALBUM『青二才』収録曲】
01. 寄り酔い
02. 浪漫ショー ※新曲
03. ブラウニー
04. ミミクリーマン feat. NEE ※新曲
05. ビーユアセルフ ※ルルルン10周年記念CMソング
06. ニゲラ
07. ロックでキス feat. もっさ(ネクライトーキー) ※新曲
08. ラブの逃走 ※新曲
09. アイオクレ
10. ヨセアツメ ※SNSドラマ『対決落語』主題歌
11. シュガーロス ※森永製菓DARS(ダース)コラボ楽曲
12. The Fog
13. 泡沫
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