運命的なドラマから“特別ではない日常”へ 瑛人、優里、マカロニえんぴつ……令和のラブソングが象徴する恋愛観の多様化

令和のラブソングが象徴する恋愛観の多様化

 かつて、ラブソングはドラマチックなものだった。平成を代表するラブソングをざっと振り返ってみると、例えばGLAY「HOWEVER」(1997年)の〈絶え間なく注ぐ愛の名を 永遠と呼ぶ事ができたなら〉、MISIA「EVERYTHING」(2000年)の〈You're eveything(あなたがすべて)〉、安室奈美恵「CAN YOU CELEBRATE?」(1997年)の〈We will love long long time/永遠ていう言葉なんて 知らなかったよね〉、嵐「One Love」(2008年)の〈百年先も 愛を誓うよ 君は僕の全てさ〉……などなど、歌詞の中に「愛」や「永遠」が頻出する、壮大なラブソングが数多く並ぶ。愛すること、恋することは美しく幸福なことであり、「あなた」は私にとって世界のすべてであり、愛し合う2人の姿は最高のドラマであるーーそれが平成ラブソングの大勢だった。

 しかし、その様相はCDの衰退とストリーミング配信の広がりにつれ、徐々に変わり始める。特に、2015年にはApple Music、Amazon Prime Music、2016年にはSpotifyと、日本でも音楽配信のサブスクリプションサービスが次々と開始された。視聴環境は大きく変化し、「みんなが同じ曲を聴く」という状況が減り、それぞれが自分の聴きたい音楽を聴くようになっていく。

 2018年には、いよいよ音楽配信売上でストリーミングがダウンロードを上回る。そして2019年、年号が令和に変わるのとちょうど前後して、音楽ストリーミング時代を象徴するように登場するのが、瑛人「香水」である。〈夜中にいきなりさ いつ空いてるのってLINE〉という、メッセージアプリで送られる軽い言葉から始まる、ごく日常的な情景だ。ギター1本のシンプルな演奏と、〈楽しかった頃に/戻りたいとかは思わないけど〉などのフレーズが相まってにじみ出るのは、恋愛に対するそこはかとないドライさだ。

香水 / 瑛人 (Official Music Video)

 ストリーミング時代を象徴するもうひとつの代表曲と言えば、優里「ドライフラワー」も外せない。一度聴けば耳に残り、それでいて何度聴いても色褪せない圧倒的なメロディラインの強度を誇るこの曲は、心をふるわすドラマチックな失恋ソングだ。だが、歌詞を見てみると、〈多分、私じゃなくていいね〉〈ドライフラワーみたく/時間が経てば/きっときっときっときっと色褪せる〉などの言葉が目につく。“永遠”や“運命”が歌われていた平成のラブソングとは真逆の価値観だ。

優里 『ドライフラワー』 Official Music Video -ディレクターズカットver.-

 恋愛から徐々に神聖さが失われ、かつて恋愛を美しく儚く包んでいたパッケージは破れた。内から現れたのは、リアルで個人的な恋愛観だ。生々しいほどのリアリティを描いた曲として取り上げたいのが、りりあ。「浮気されたけどまだ好きって曲。」。TikTok、YouTubeへの動画投稿でフォロワーを獲得していったりりあ。が、初のオリジナルソングとして配信したこの曲は、リリース後すぐにLINE MUSICでウィークリー1位を獲得。タイトル通りのシチュエーションを描いた楽曲で、歌詞を見てみると、〈汚れた君は嫌いだ〉〈今頃あいつとベッドイン〉など、赤裸々すぎる言葉が連なる。恋愛にまとわりつく、美しいだけではないどろどろとした本音と、「好き」「嫌い」では簡単に切り分けられない複雑な感情を歌い、多くの共感を生んだ。

浮気されたけどまだ好きって曲。 【オリジナル】

 同じようにTikTokから人気を博し、YouTubeの再生回数が2000万回を突破(2月末現在)しているのが、和ぬか「寄り酔い」。特徴的なヨナ抜き音階で編まれたメロディに、〈家まで送ってもらいたいの/今夜満たされてたいの/できれば君にちょっと/濡らして欲しいの〉という歌詞を乗せてしっとりと歌う。酔った勢いを借りて相手を誘う匂い立つような艶と、リアルな恋愛の駆け引きを浮かび上がらせた楽曲だ。

寄り酔い/和ぬか【Music Video】

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