TOOBOE、「oxygen」で表現した生きる上での“息苦しさ” J-POPのフィールドで向き合った自分が歌うべきこと
ボカロP・johnとして音楽活動を始め、2020年にソロプロジェクトを始動したTOOBOE。yamaへの楽曲提供やフルアルバム『千秋楽』のリリースを経て、今年4月にメジャー1stシングル『心臓』を発表。表題曲のMVの再生数は早くも500万回を突破し、ボカロ時代の代表曲「春嵐」を凌ぐヒットを見せている。
そんなTOOBOEが2ndシングル『oxygen』を発表した。生きる上で感じる“息苦しさ”を表現したという表題曲には、既存の枠に囚われない彼の自由さが歌詞にもサウンドにも存分に表れていると言えるだろう。
ボカロ出身のシンガーソングライターでありながら、幅広いジャンルの楽曲を提供できる優れた作家としての側面も併せ持つTOOBOE。今回のインタビューでは『oxygen』を軸に、彼の制作スタイルや独特の佇まい、そして今後の展望について聞いてみた。(荻原梓)
メロや歌詞に自信があってもそれが伝わらないと意味がない
ーー5月に開催した初のワンマンライブ『解禁』はいかがでしたか?
TOOBOE:楽しかったです。今回のライブは僕の作品を深くまで聴いてくれている人にも喜んでもらえるようなファンサービス的なものにしようという意識が強くて、アルバム曲や他の人とのコラボ曲を積極的にやりました。それと、シークレットライブや配信ライブで一緒にやってきたバンドメンバーとのフィーリングがようやく整ってきた時期だったので、その一つの完成形を見せられたんじゃないかなと思います。
ーーステージでずっと裸足だったのが印象的でした。
TOOBOE:願掛けじゃないですけど、感覚的に家にいる時とかリハーサルと同じ気分でやりたいと思ってるんです。歌録りする時は家にいるのでもちろん裸足ですし、リハも本番も毎回同じシチュエーションになるようにしたくて。靴が変わると足場が安定しないのも怖いですし。
ーー緊張はするタイプですか?
TOOBOE:顔には出ないんですけど、めちゃくちゃします。いつも本番20秒前くらいに急に緊張してきて慌てちゃいますね。
ーーライブを終えて今現在はどういうモードなんでしょうか?
TOOBOE:しばらく何もしてなくて。ライブの前後にやるべきことは全部済ませて、それが終わってからはゆっくりしてます。映画を観たり漫画を読んだり、インプットに時間を割いてますね。
ーー今作の表題曲「oxygen」はいつごろ作った曲ですか?
ーー日本語に訳すと“酸素”ですが、このタイトルにした理由は?
TOOBOE:この曲では“息苦しさ”みたいなものを表現してます。歌詞の最初の4行とかもそうなんですけど、他人にアドバイスをしても違うと言われて、じゃあ俺はどうすりゃいいんだみたいな、そういう自分と他人の感覚が合ってない感覚を表現したくて。誰にでもあると思うんですけど、善かれと思ってやったら否定されるみたいな、そういう認識のズレというか。人と感覚が合わず、息苦しくて呼吸ができない感覚ですね。英語で表記してるのは単純な理由で、文字をグラフィックとして見た時の“oxygen”という字面が面白いと思ったからです。
ーー今までタイトルに英語はあまり使ってこなかったですよね。
TOOBOE:珍しいですね。後々アルバムを想定した時に1曲くらい英語のタイトルがあっても面白いかなと。
ーー歌詞はどんなことを考えて書きましたか?
TOOBOE:僕の“面倒くさイズム”が全面に出てます。ここ最近の曲はそういうものが多くて、前に「変」っていう曲を出したんですけど、それとも近い。どうしても人と合わない、自分って変なんじゃないか、でもそれはそれとして生きていくしかないよねっていう。サビの〈僕ら食卓に並べて旨そうに堪能した〉というのは、それでもとりあえず表面上は美味しそうに食べるしかないっていうある種の諦めで、みっともないけど実は心の中で笑ってるようなニュアンスです。
ーーそのみっともなさや主人公の惨めさという点では、TOOBOEさんの作品はずっと一貫してますよね。
TOOBOE:そうですね。僕の根底にある感覚です。はっきり言って生きるのがすごく面倒くさくて、それでも生きるしかないっていう妥協みたいな生き方をしてるので。
ーーサウンド面では今作も一段と音数が多いですね。
TOOBOE:音をたくさん入れるのは好きなんですけど、正直今回は入れ過ぎたなと自分でも聴いていて笑っちゃいました(笑)。初期のデモ段階では音はもっと多くて、完成したものはかなり減らしてます。大きな食卓を人類全員で囲んで騒いでるみたいな情景が浮かんだんです。賑やかで、馬鹿馬鹿しくて、何かが騒いでる感じを表現したくて。
ーー人の群れを俯瞰しているような?
TOOBOE:そうです。映画『パプリカ』とかに出てくるカオスな状況が好きで、そういうごちゃごちゃした情景を音楽で表現してみたくて。
ーー歌い方ではどんなことを意識しましたか?
TOOBOE:いつもは基本的に家で一人で完パケまで持っていくんですが、今回は一人ではゴール地点を見つけられなくて、一旦スタッフ全員で集まって久々にスタジオレコーディングをしました。そこで滑舌とか細かいことを修正したんですけど、それにかなり時間を使いましたね。やっぱり日本で日本語の曲を作る以上、歌詞の聴き取りやすさは絶対条件だと思うので、歌詞を伝えるための試行錯誤の繰り返しでした。聴き取れなさがボカロの良さというのも分かるんですけど、人間が歌うということになると、そうもいかないんだなというのが去年アルバムを出して感じた課題だったんです。メロとか歌詞に自信があってもそれを伝えられないと意味がない。なので最近はなるべくそこを意識するようにしてます。あとサビで裏声を使うっていう珍しいことをしてて。
ーーそれはなぜですか?
TOOBOE:その方がサビのある種のグロさをマイルドにできると思って。Aメロは地声で吐き捨てるように歌い、サビでは裏声でメリハリを付けたんです。サビまで地声で歌っちゃうとエッジが効き過ぎてしまうので、そこはバランスを取ろうと。
ーーなるほど。カップリング曲「向日葵」ではどんなことを表現しましたか?
TOOBOE:カップリング曲はいつもその時の気分でやりたいことを自由にやると決めてるんです。今回は気圧がすごくて何にもしたくないっていう曲ですね。
ーーまさにワンマンライブ後の状態がそのまま表れたと。
TOOBOE:たしかに、ライブ後の気分に近いですね。
ーーということはTOOBOEさんの今現在のモードや気分が表れてるのは、むしろ「向日葵」の方なんですね。
TOOBOE:そうですね。「oxygen」が私はこういう作家ですっていう名刺のようなものだとしたら、「向日葵」もこれはこれで私なんだよという。A面はキャッチーさとか聴き取りやすさとか優先されるものがあるんですけど、そればかりだと抜きの作業が欲しくなる。なのでB面はいつも良い意味で力を抜いてます。